2018年3月5日

『 近未来の「八ッ場ダム」崩壊のシナリオ 』

■粘土と土砂のミルフィーユ

 日本に住んでいると、地球は生き物のように生きているものと感じる。
今回起こった白根山の噴火など、予想もしない中で起きている。この噴火の噴石が飛んで、人が死傷している。水蒸気噴火とみられ、熱いマグマ溜まりに流れ込んだ水分が、一瞬で蒸発した圧力上昇で爆発したものとみられる。これは木曽の磐梯山の爆発の時と同じだ。

 しかし今回の噴火の中で、ぼく自身が気にしたのは、噴火が収まると「スキーのゲレンデは真っ黒になった」という話だった。これは何なのだろうか。

 調べてみると、どうやら「粘土質の噴煙」のせいらしい。爆発をしばらくぶりに起こした火山では、その休んでいた期間に応じて「粘土質」を吹き出すのだ。休止していた長い期間に岩などが変性し、温度も加わった風化によって粘土を作る。このことが意外なことに重要になる。

 去年の熊本地震の際に、阿蘇大橋が崩壊した。あれも同じように阿蘇山の噴火によって粘土と土砂がサンドイッチになった土壌で起きた。粘土は水田の底に塗るみたいに水を通さない。ところが土砂の方は水があれば流れ落ちる。水が流れると、粘土の上に降り積もった土砂のところで「流動性地滑り」が起きるのだ。




 結局あまり問題にされないままだが、阿蘇大橋のときの土砂崩れを起こした水は、「九州電力の黒川第一発電所」の水路からこぼれ落ちた水だった。限りなく人災に近い崩壊だったのだ。それに巻き込まれて大学生が車ごと犠牲になったが、あれは産業遺産になっていた百年以上前に造られたダムの送水管の崩壊のせいの可能性が高いのだ。産業遺産どころではない。危険な装置を放置したことが問題なのだ。


 この粘土と土砂のミルフィーユは、そこから山の崩壊を起こす。「史上最大のダム災害」というイタリア映画があるが、これは現実に起きたダム事故から制作されたものだ。イタリアで400メートルを超える巨大ダムが造られた。造って水を貯め始めると、水位を上げるに伴って群発地震が起こり始めた。心配した周辺住民が相談したが、国と電力会社の「事なかれ主義」は、学者をして「地震とダム建設は関係ない」と言わせた。

 群発地震が続くのに強引に貯水し続けると、ある時、山の後ろ側に見える山が動き始めたのだ。ここにきて電力会社の担当者は神に祈ったりしたが、祈り虚しく山は崩壊してダムの貯水池に崩れ落ちた。するとダムの水は津波を起こし、400メートル以上もあるダム堤を150メートルも上回って水が下流に落ちていった。下流にあった村は何もかも消え去った。数千人いたはずの村人も消え去った。この電力会社の認識不足による事故を、「史上最大のダム災害」と呼んでいるのだ。


 日本でもあちこちでダムを造るたびに地震を頻発させている。ところが日本政府はかつてのイタリアのように、これをダムのせいだとは認めていない。世界では「ダム誘発地震」という言葉で呼びならわしているのに。

 特に粘土と土砂がミルフィーユ状になっているところが危険だ。水を通さない粘土層が滑り台のようになって、上の土砂を滑らせるからだ。実は全くミルフィーユ状になった土地が、今「八ッ場ダム」を造っている最中の土地なのだ。そこは浅間山の噴火でできた大地を川が侵食したことによってできた大地だ。だから山の高さはみな同じなのだ。噴火で降り積もった大地を川が侵食したのだから、山の高さは元の大地の高さに並んでいるのだ。しかも噴火から年数が経つにつれて、その地層は屈曲してくる。そこに水が入れば滑り落ちるのだ。


 するとどうなるか。この八ッ場ダムは貯水量が一億トンを超える非常に巨大なダムだ。しかもそれは利根川につながっている。このダムが壊れたなら、ことによると貯められた一億トンの水が東京目指して流れ落ちてくることになる。パニックになる暇もなく、破壊されてしまうだろう。それは「史上最大のダム災害」の記録を塗り替えてしまうかもしれない。イタリアのバイオントダムの事故から日本の政治家や官僚たちは何も学ばない。おかげで人々は被害者にカウントされるのだ。

 実は恐怖はそれだけではない。この建設中の「八ッ場ダム」予定地は、今回噴火した白根山と浅間山の間にあるのだ。この火山の連続するエリアの真ん中に位置する八ッ場ダムは、それらの噴火に巻き込まれる位置にあるのだ。日本政府や官僚たちは、イタリアのバイオントダム事故の前にそうだったように、「そんなことは起こらない」と頬かむりを続けている。しかし自然の起こすことは、政治家や官僚が決めることではないのだ。


 やがて実際の事故が起こる。起こるのは確実だが、どの程度のものになるかはわからない。そのとき、みんなで「そんなことが起こるとは思わなかった」と唱和するのだろう。阿蘇大橋が崩壊したときにそうであったように。

 しかしこれは止められる事故なのだ。幸い、東京の水消費量は減り続けている。
「八ッ場ダム」がなくても水に困ることはない。水の民営化を東京都知事が進めているが、ダムは料金を値上げさせることはあっても、ダムのおかげで水道料金が安くなることは絶対にない。ただの危険でムダなダムなのだ。

 水の消費量は日本全国でどんどん減っている。かつてはトイレの水洗化で水消費量が増えたのだが、今の最新のトイレはかつての五分の一しか水を使わない。トイレの水洗化率はほぼ百パーセントになったのだから、もう増えない。新たな設備に換えるごとに水消費量は減り続けている。人口だってとっくにピークを迎えて減り続けている。

 それなのに一部企業や利権政治家たちのために続けるのだろうか。今も着々とダム建設は進んでいる。人々が気づいて止めることがなければ「世界新」を記録するだろう。

 ミルフィーユ状の大地に、ダムは最も向かない施設なのだ。今すぐ工事をやめよう。