2019年3月28日

「七年目の自主避難」

2019.3.18発行 田中優無料メルマガより

 今年も3月11日を迎えた。多くの人の人生を変えた原発事故から八年。
私自身が東京を離れて岡山に移住してから七年になる。言葉にすれば「自主避難」だ。それは定義上、災害時に市などが発する避難勧告や指示を待たずに避難した人を指すことになる。

 ところが日本ではその「避難勧告」レベル自体が怪しい。事故前までは年間1ミリシーベルトを超える被ばくはしてはならないはずだった。しかしその基準は事故後に20ミリシーベルトまで上がり、100ミリシーベルトまでは影響は出ないなどと言われる有様になった。


 被ばく量と健康影響を簡単に言えば、確率的に疾病にかかる確率が上がるということだ。現在世界で主流になっているのは「低線量の被ばくであっても、被ばく量に応じて直線的に被害が増える」となっているから、他の人の20倍、あるいは100倍病気になる確率が上がるということになる。先日話題になった水泳選手の白血病の告白だが、その土地は元の我が家(都内)からわずかしか離れていない地域だった。


 さらにもう一つ事情が加味される。子どもは大人より疾病になる確率が高く、放射線被ばくは距離の二乗に反比例するから、より近くから被ばくすると危険になるのだ。


 私は幸い仕事をすでに辞めていたから引っ越すことができた。さらに家のローンも完済の見通しがついていたから無理にそこに住む必要もなかった。私は原発問題をそれ以前から問題にしていたし、そのシミュレーションもしていたからこのまま東京にいるべきではないと思った。あくまで確率の問題だが、妻が期待している新たな子を育てることになれば、放射線値の高い場所に住んでいるのは望ましくないと思ったのだ。


 そして「自主避難」した。その言葉はまるで神経質で特別な考え方をしているかのように聞こえる。実際、それまでたくさんいたはずの放射能を気にする人々の数、新たに心配するようになった人々の数と比べて、移住した人の数はいかにも少ない。移住するための「条件が整わなかった」人が多数なのだろう。私自身はその条件が偶然整っていたから移住できたのだと思う。


 その条件が十分ではなくとも、放射線量の高さに背中を押されて移住した人たちの中に自殺者が増えている。ある文に書かれていたその女性は福島県郡山市に住んでいて、通常の40倍以上の放射線量を見て、子どもを守りたい一心で東京に自主避難した。

 夫は「周囲の人がそのまま暮らしている」「国が安全だと言っている」という中で理解せず、やがて彼女は自分と子で暮らすためにダブルワーク以上をして働かなければならなくなった。そんな中で住宅支援も打ち切られ、睡眠薬なしに眠れなくなっていった。夫に理解されることもなく、夫の収入の高さによって住宅の居住もできなくなり、彼女は絶望して首を吊った。この事例では「自主避難」という言葉が、「自分勝手に」という意味に聞こえる。周囲の考え方に従わなければいけないのか。


 ほんのわずかな偶然から、生き延びられたり死ぬしかなくなったりするのだ。
日本の状況は周囲を含め冷たいと思う。自分に非がなくとも死を余儀なくされるのだから。通常の40倍以上の放射線でも救いの手が差し伸べられない。


 資産家への課税は減らされているのに普通に暮らす人々への税は上がっていく。事故を起こした東電は助けられるのに、その被害に遭った人々は見捨てられる。その「原子力損害賠償紛争解決センター(ADRセンター)」では、せっかく中立的な機関からの調停金額が提示されても、東京電力側が認めない。実に120件以上が棚ざらしにされている。


 私自身は定職がなくて利用できなかったが、新たに岡山県和気町周辺に住む場合にアパート代程度の金額で支払い可能な「フラット35」融資の仕組みを利用した新規住宅のローンを作ってみた。土地価格の安い地方だからこそ成り立つ仕組みだ。建物は私のしている非営利の「天然住宅」の仕様だから、化学物質のない住まいで永く住まうことを前提として建てている。もちろん「フラット35の利用条件」はあるが、選択の一つにはなるだろう。小さな子を育てているのであれば、さらに金利の安いフラット35「子育て支援型」も利用できるようになった。


 何かと「自己責任」と言われる日本だが、自殺まで考えなくて済むような仕組みを作りたい。地域や自分たちでも可能になる仕組みを考えて、ぎりぎりまで他をあてにしないですむ暮らしを実現したい。


 そこにさらに余裕のある庭に自分で農地を作っていく、※「食べる庭」の仕組みを入れたらどうだろうか。元気な体を作る食べ物を作れるコツは土作りにあると思う。それは微生物たちのマンションになる炭を入れて、生ごみと土を混ぜて発酵させた土作りでできるのだと思う。

 うまく土作りに成功すれば、虫の繁殖しない栄養素豊かな土地ができる。そうすれば買い物で悩まなくても自分で無農薬の作物を作ることもできるだろう。栄養素で大事な根、皮、生長点を活かしきった調理もできる。それは働かなければならない収入の圧力を下げていくことにつながるはずだ。


 私は死を選ばなくてすむような社会を作りたい。それはもしかしたら言葉以上に大変なことかもしれない。それでももう一つの選択肢のあることを伝えられるのではないだろうか。


 今と違う場所に住むこと、

 今とは違う仕事に勤めること、
 今とは違う生活をしていくこと。


 それも元気に暮らすときには楽しみになる。生活はときに悪循環に入ってしまうこともある。そんなとき、何か一つをきっかけにして、良循環に向かうこともある。あなたが失われてしまったとき、周囲の人たちは力になれなかった自分の不甲斐なさに思い悩むことになる。周りの人にそんな思いをさせずにすむように、別な可能性も傍らに準備しておきたい。

 別な選択肢がある時、圧迫されているような閉塞感に、少しだけ風が吹き込むように思うからだ。



写真:田中優が移住した岡山県和気町の風景


※天然住宅「食べる庭」についてはこちらもご参考ください

天然住宅コラム 



「自給住宅」と食べ物

吉田俊道さんとつくる「食べる庭」

吉田俊道さんとつくる「食べる庭」

吉田俊道さんとつくる「食べる庭」


2019年3月21日

3月24日(日)NO NUKES 2019 トークゲスト出演します!

【坂本龍一さん、後藤正文さんと対談します!】
 
3月24日(日)NO NUKES 2019
にトークゲストで出演します!

坂本龍一さんとも久しぶりの再会、楽しみです。
(たぶん311以降初めてお会いします)

原発問題のその先、ではこれからの「
新しい未来」をどう作っていくか?“未来の話なら優さんにお願いしよう”となったそうで坂本さんから直接依頼を頂きました。
とても光栄です。
 




3/24(日)13:00~  トークセッション
・司会 いとうせいこう
・田中優(未来バンク)
・坂本龍一
・後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 
 
 

☆24日は当日券があるそうです 
皆さまぜひお越しください

ホームページ   http://no-nukes.jp/



2019年3月18日

3/23(土)・24(日)天然住宅 無料見学会@埼玉 ~菜園・床暖房つき賃貸『だんだんハウス』


完全予約制で各回組数制限がございますので、お早めにお申し込みください。
3/23 3/24は田中優のミニセミナー付きの回もあります。

都心に通いながら、心地よい郊外生活を楽しみたい方へ向けて3戸の賃貸住戸を設計・建設しています。大宮駅であれば、片道30分強、新宿駅でも片道1時間強の立地。
 

各戸は18坪とこじんまりとしていますが、窮屈にならないように、家事導線や収納の設置場所に気を使って設計しました。
 
日射のコントロールや、風が室内を心地よく通り抜ける配置、床暖房の設置など四季を通じて自然と心地よく暮らせるように設計しています。
 
そして賃貸住宅でもいつも通り、素材に妥協せず、国産無垢材100%、合板集成材不使用、自然素材をふんだんに使用した住宅です。
 
無垢杉の香りと、柔らかさ、心地よさ、自然素材でつくる空間の気持ちよい空気感をぜひ体感いただければと思います。

天然住宅特有の「新築のにおい」をぜひ体感しにいらしてください。
 

★建物データ
延床面積:189.77平方メートル
間取り:2LDK×3戸
工法:木造(強化筋交い)
 

▼オーナー様作成のホームページもぜひご覧ください。
だんだんハウスのホームページ
https://dandan11ie.wixsite.com/dandanhouse

 
▼企画・建築の様子はこちらをご覧ください
https://tennen.org/blog/tennnenxchinntai

  
■日時 

3月23日(土) 13:00~、15:00~
3月24日(日)  10:00~、11:30~



☆3/24(日) 14:00~16:00の回は、田中優のミニセミナーも予定されています。


【3/21追記】↓田中優出演日程の変更がありました。
3/23(土) 13:00~15:00の回は、田中優のミニセミナーも予定されています。


天然住宅代表田中優から家づくりの際に気にしてほしいことや、家づくりから社会を変える方法についてお話いたします。
他の会より30分長い時間を設定していますので、建物の見学やスタッフとの質疑応答の時間もございます。

 
■場所 埼玉県上尾市
 
■参加費 無料
 
■当日は安全素材で作られた、「すまうと」さんの家具も展示予定です

■申し込み
下記フォームよりお申し込みください
https://tennen.org/event/dandanhouse-openhouse.html


2019年3月12日

3/16(土)・17(日) 天然住宅 無料 完成見学会@鎌倉


※田中優は都合により出席できません。

  
『番台のある家』

趣味を楽しむご夫婦の「暮らしの宝石箱」になるように、と考えながら、建築しました。

寝室とリビング、水回り等、生活の主たる部分を1Fにまとめ、バリアフリーへの移行も想定して間取りを考えました。

2Fはご夫婦の趣味スペース。「番台」と呼ばれるスペースは、2Fに居ながらにして、リビングや玄関を見渡せます。2Fの階高を抑え、大屋根をかけ、使用勝手も、見た目にも「ほぼ平屋」の家。

広くとった玄関土間、玄関ポーチには有田焼の欠片(べんじゃら)を埋め込みます。

お庭は奥様のお知り合いの造園屋さん「よろこびの庭」にお願いしました。石をつかって、オーガニックガーデンをつくる予定です。


見学会では、安全素材で作られた「すまうと」の家具も展示予定です。
 
ぜひ、お越しください。

★建物データ
敷地面積:135.25㎡
延床面積:71.40㎡
間取り:2LDK
工法:木造

■日時 

▼3月16日(土) 
10:00~11:30
11:30~13:00
13:00~14:30
14:30~16:00


▼3月17日(日) 
10:00~11:30
11:30~13:00
13:00~14:30
14:30~16:00

■場所
神奈川県鎌倉市(湘南モノレール「湘南深沢駅」より徒歩)

■参加費 無料

■内容  オープンハウス形式の見学会(予約制)

■お申込み 下記フォームよりお申し込みください
https://tennen.org/event/kamakura-3.html

2019年3月5日

3/10(日)「ネオニコチノイド系農薬に関する企画」公募助成  一般公開プレゼンテーション

~参加無料&どなたでも参加OKです!~
 
田中優も審査員として参加します!
 

『3月10日(日)
2019年度
「ネオニコチノイド系農薬に関する企画」公募助成 
一般公開プレゼンテーション』

 https://www.actbeyondtrust.org/info/4516/

 EUの暫定使用禁止後の欧州食品安全機関による再調査でもハチへの危険性が再度指摘されたネオニコチノイド系農薬は、世界的な研究の隆盛により、さらに広範な生態系への悪影響や、脊椎動物における神経毒性のメカニズムなどが明らかになりつつあります。
 
そのような動向を踏まえ、本年度は調査・研究分野に的を絞った公募としました。

一次選考を通過した6企画について、最終選考に向けたプレゼンテーションを公開で行います。

 身近に迫る汚染の実態に着目する研究者たちの提案を吟味できる機会です。
多数のご来場をお待ちしております(参加無料)
 


【日時】 2019年3月10日 14時~17時

【会場】 小山台教育会館205 会議室 (東京都品川区小山4-11-12)
     東急目黒線 武蔵小山駅西口より徒歩3分 
     http://www.koyamadai50.jp/access/


【プログラム】
https://www.actbeyondtrust.org/wp-content/uploads/2019/02/2019-presentation.pdf


1次選考を突破し公開プレゼンテーションに臨む6企画はこちら!(敬称略)
 

1)特定非営利活動法人 福島県有機農業ネットワーク
Moms Across America から学ぶ、浸透性殺虫剤ほか農薬のフリーゾーンを作るための
プラットフォーマーに関する調査研究


2)千葉工業大学創造工学部 亀田研究室 亀田豊
ネオニコチノイドによる水生生物への生態リスク比較~作目種及び散布方法による影響~
 

3)木口倫
都市排水中における浸透性殺虫剤の流出実態の解明


4)辻野兼範
ネオニコチノイド系農薬が佐鳴湖の生態系に与える影響調査


 
5)特定非営利活動法人河北潟湖沼研究所
平野部の水田ではネオニコを使う必要が無いことを証明し見える化する

 
6)苅部治紀
ため池や自然止水域におけるネオニコチノイド系農薬の汚染状況と絶滅危惧水生昆虫の生息状況の相関調査


【主催】abt(一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト)


農業や農薬、環境問題などの、今後の活動のヒントになるかもしれません。
皆さまお待ちしています!



☆ネオニコチノイド系農薬、何が問題?
についてはこちらもご参照ください。

https://www.actbeyondtrust.org/project-neonico/


2019年3月4日

映画「アウト オブ フレーム」への田中優応援コメント

ぼくの三男がなんとドキュメンタリー監督デビュー!
応援コメントを頼まれたので書きました。

その映画が現在クラウドファンディング中です。
皆さま、よしろければ拡散やご支援をお願いします!

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【映画「アウト オブ フレーム」への応援コメント】

映画「アウトオブフレーム」完成に向けて

環境活動家田中優さんから応援コメントをいただきました!
田中優さんは、本作の監督・田中悠輝の実父でもあります。

***田中優さんからの応援コメント***

 悠輝くんはぼくの息子だ。男の子ばかり三人兄弟の一番下の子として生まれた。ぼくの名前は環境問題や人権関係で知られていて、上の子たちはそれを知られるのを嫌がっていたが、悠輝くんは嫌がるどころかそれを楽しんでいるようだった。

 
 悠輝くんの叔父に当たる『てっちゃん』には知能に障害がある。
 
 妻の弟は赤子の頃に黄疸がひどくて、そのせいで知能に障害が残ってしまったらしい。見た目には普通なのに意味ある言葉を発することができないし、会話もできない。自転車が置かれていて車輪がロックされていないと、蹴ってロックを掛ける。相手は驚くと同時に見た目に普通なので怒り出したりする。謝って障害のある子なのだと説明しなければならない。
 
 その『てっちゃん』は散歩と水泳が好きで、出掛けるのを毎週休日の日課としていた。当然悠輝くんは赤ん坊の頃から一緒に出掛けていた。少しすると悠輝くんの知能が『てっちゃん』の知能を上回るようになり、悠輝くんが『てっちゃん』の世話をするようになった。『てっちゃん』は怒ることもあったが全体としては素直で明るい子だ。その『てっちゃん』のことはそのまま受け入れていた。
 
 高校生になったあるとき、悠輝くんが言った。「『てっちゃん』はインフラだから」と。悠輝くんにとって『てっちゃん』はいるのが当たり前の存在で、自分を形作っている一つのファクターだという意味だろうと思った。取り立てて言わないが、当然のこととして悠輝くんは『てっちゃん』をありのままに受け入れていた。

 
 ぼくは人に指図されるのが嫌いだし、命令されるのは真っ平御免だ。
 
 自分がそうなのだから子どもたちにもそう接していた。自分で決めたことを尊重し、無理強いすることはなにもしなかった。その中で長男は運動中心に体育会系の人ともつきあなるように育ち、二男は学問中心に活動しながら今は弁護士になった。悠輝くんはどちらもできるにもかかわらず体育会的な関係を嫌って、自分なりに福祉的な活動に分野を広げた。
 
 何をするかはその人次第だ。でも親としてその妨げだけはしたくないし、その後ろ支えはしてやりたい。そんな中で、いつも仲良く楽しめる家族となった。一緒に合宿のようなスタディーツアーに出掛け、夜になれば酒盛りを楽しむ。何も強いられることはなく、その人なりにその時間を楽しめばいい。友人を共有するように紹介して一緒に活動する。


 そんな中で悠輝くんは頭角を表したのかも知れない。彼は誰一人除け者にすることなく、その人の内側から見ていく能力を身に着けた。理解するのではなく、内側から共感し、了解していくのだ。その彼が障害者の人たちのドキュメンタリーを撮った。
 
 それは差別観のない彼の、殻を破って活動のフレームを壊して広げていく人たちのドキュメンタリーであるだろう。「障害者」という枠ではなく、共に同じ時代を拓いて生きていく人たちへの共感が綴られるだろう。彼に「障害者」という枠組みに対する特別視はないからだ。
 
 
 ぼくは一人の人として悠輝くんが好きだ。彼には兄弟たちもまた見方のアドバイスを受けている。彼から見てどう見えるかを知ることはとても役立つからだ。そして自分が入院した時に、彼がどれほど温かく身をもって献身してくれるかを知った。
 
 その彼が作ったドキュメンタリーだ。第三者的に客観を装ったドキュメンタリーではないだろう。一方で悠輝くんには動いている自分を後ろから観察するような目もある。冷静に分析してしまうのだ。それに加えてもともと私自身の友人だったはずの鎌仲監督のプロデュースも加わっている。監督の目の確かさはすでに作品に示されている通りだ。

 鎌仲監督が宣伝を引き受けた映画「ほたるの川のまもりびと」の冊子の中に、ぼくの友人である新村安雄さんが文を寄せている。それはとても格調高くて良い文だ。彼のことは悠輝くんも飲み交わす友人として知っている。悠輝くんは彼が父親を通じて見るところに不満がある。彼は余分なフィルターを通して見られることが不満なのだと思う。


 だからぼくが父親であるというフィルターを外して、彼の見せたかったものを観てほしいと思う。そこに懸命に生きている人の想いだけが伝わるのではないだろうか。

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”自立生活運動の現在”を描く映画、
「アウトオブフレーム」完成のための
クラウドファンディング!
https://readyfor.jp/projects/out-of-frame

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映画「アウト オブ フレーム」は、“自立生活運動の現在”を描く作品です。

自立生活とは、日常的に介助(手助け)を必要とする障害者が、親元(親の家庭)や施設を出て、地域で生活すること。

自立生活は、自由と安全の戦場です。

施設や親元から出て、当事者の意志によって営まれる自立生活では、本人の選び取れる自由が増す一方で、しんどくてもその責任を引き受けなければなりません。選択をあやまり、自分の命を危険にさらすこともあります。

また、自立生活にはヘルパーの存在が必要になります。

ヘルパーのいる暮らしは、当事者ができることを増やし、見守りがあることで安全の向上につながります。その一方で、気の休まる時間を失うことにもつながります。自立生活は誰かと生活を協働していくことが宿命づけられているのです。

ぼくは自立生活の現場で、様々な葛藤を経て自由を獲得していく人たちの生き様を見て、その姿を撮影してきました。

それぞれの自立生活を歩む当事者の日常を描くことで、あまり知られていない自立生活の実相や、より自由に生きられる世界をより身近に知っていただくができるのではないかと思っています。


【ごあいさつ】

はじめまして、ぶんぶんフィルムズの田中悠輝(たなか ゆうき)です。映画「アウト オブ フレーム」で初監督を務めます。

「おれたちの姿を撮ってほしい」

2016年、制作支援者の一人である今村登さん(全国自立生活センター協議会・副代表)が、障害者のヘルパーとして彼の介助をしていたぼくに言いました。

ぼくは元々、ホームレス支援・生活困窮者支援の現場で働いてきました。現在も自立生活サポートセンター・もやいというところで働いていますが、困窮に陥る人の中には、見える/見えない障害に苦しんでいる人が少なくありません。

自立生活運動に出会ったのは、そうした困窮者の方々と一緒にいて、いきづまりを感じていた時でした。

社会の中にある障害を乗り越えるために、当事者として自ら声をあげ、仲間を募って、その社会環境を変えてきた先進的な当事者運動が、自立生活運動でした。

その現場をより深く知りたいと資格を取得し、障害者のヘルパーをはじめ、その中で「一緒にいるなら、空いた時間だけでもいいから撮ってほしい」と言われたことがきっかけに、カメラを手にしました。


左から鎌仲、今村さん、田中、磯部さん(自立生活センター自立の魂・代表)


出会ってきた人たちに誠実に向き合いたい

今回の映画製作プロジェクトが立ち上がった背景には、多くの人たちとの出会いがありました。

最初に「映像を撮ってほしい」と言ってくださった今村さんをはじめ、プロデューサーを引き受けてくださっている鎌仲ひとみさん、製作支援を担ってくれた平下耕三さん(全国自立生活センター協議会・代表)との出会いがありました。

ぼくは当初、映像に関しては全くの素人でしたが、ヘルパーをしながら撮りためた映像をプロデューサーの鎌仲ひとみさんにプレビューしていただき、鎌仲さんと一緒に応募した文化庁・芸術文化振興基金の助成対象に選ばれたことで、本格的に作品完成に向けて動き出すことができました。

また、全国自立生活センター協議会・代表の平下耕三さん、副代表の今村登さんが製作支援者として参画していただいたことで、より深い取材が可能になりました。

二人は映像製作についてなんの実績もないぼくに、「ゆうきならできる、ゆうきにやってほしい」と言ってくれました。そんな風に期待をしてもらえたことはあまりなかったので、この言葉にはとても勇気をもらったことを覚えています。

さらに現場での経験不足で行き詰まっていた時に、撮影・編集・構成として経験豊富な辻井潔さんが製作に加わっていただいたことで、作品の輪郭が見えてきました。

辻井さんは、撮影の基本的なことや構成・演出上の技術的なことについて、辛抱強く丁寧に指南してくれました。今回のクラウドファンディング用の映像も、辻井さんと二人で撮りに行った大阪のライブハウスや、泊まり込みで行った介助風景のロケからのものがメインになっています。

この製作チームの誰が欠けても、ここまで製作を進めることはできませんでした。すべての出会いがあって、3年間続けてきた映画製作も、あと一歩のところまで進めてくることができました。

普段のぼくは、いつも斜に構えて恩知らずなことも多い若者ですが、「今回ばかりはきちんと誠実に応えたい」、そう思ってクラウドファンディングに至りました。

映画の完成まであと少し、ぜひご協力をお願いします!!



【作品の見どころ】

個人的な思いもありますが、この現場にいる障害当事者の方々は「おもしろい」です。

撮影する中で、彼らはぼくと同じ人間だけど、ぼく以上に自由でおもしろく日々を生きているような印象を受けました。

でも、それは彼らがいろいろな大変さを引き受けて獲得してきたものなんだ、と撮影を続けてきてわかってきました。


「自由はいいけど、自由すぎてもあかん」

ある飲み会の席でお酒の好きな当事者が言いました。お酒を飲んでも、タバコを吸っても、パチンコをやってもいいけれど、それだけじゃ日々は充実しない。いろんな役割や責任を自ら進んで引き受けて日々の充実がある。

そんな日々の葛藤があるけれど、だからこそその光景はとても刺激的でした。

この映画はきっと障害のある当事者のみならず、ぼくと同じように漠然とした生きづらさを感じて、いきづまっている人にも勇気を与えるものになると思っています。

これまでつくってきた枠を出ることは勇気がいりますが、そのあとに開ける世界を映画に出てくる当事者たちは見せてくれます。



【今回のクラウドファンディングについて】

今回のクラウドファンディングでは、「映画の仕上げにかかる費用」と、「映画を劇場で上映するためのフォーマット制作費用」をご支援いただきたいと考えています。

300万円のご支援をいただければ、なんとか映画を完成するための費用をまかなうことができます。使途については以下の通りです。

・編集機材費
(3年に及ぶ取材で撮影した膨大なデータを保存するために必要な機材購入費など

また、スタジオ経費を節約するための映像編集ソフト購入費)
・スタジオ使用料と人件費
・カラーグレーディング
・予告編制作費
・ヴィジュアルデザイン費
・原版制作費+劇場用フォーマット制作費


【今回の映像について】

音楽を提供してくれたガナリヤ・サイレントニクスGt.Voの川崎さんは、映画の重要な登場人物の1人で、障害者のヘルパーをしています。

夜の大阪を疾走する車椅子にのった男性は、川崎さんが働く自立生活センターの代表・渕上賢治さん。

川崎さんがライブを終え、渕上さんの自宅前で2人が出会うところから、介助の日常が始まります。
今回の映像はその2人が交差するまで。

今後も少しずつ映像を出していきたいと思いますので、引き続きページをご覧いただければと思います。


【プロデューサー・鎌仲ひとみさんからのメッセージ】

ページをご覧いただきありがとうございます。 ぶんぶんフィルムズ代表の鎌仲ひとみです。

私は長年、ドキュメンタリー映画、 特に社会の中で声が届きにくい人たちの声を届ける作品を作り続けてきました。 今回は、障害当事者の方々の取り組みを知っていただきたいと思い、 新作映画「アウト オブ フレーム」の製作に取り組んでいます。

ぶんぶんフィルムズのスタッフである悠輝くんを通じ、 自立生活を獲得しようと取り組む当事者の方々に出会い、 本作をプロデュースする決意をしました。

ドキュメンタリー映画の分野に「障害者もの」と呼ばれるジャンルがあるように 「障害者」を主題にした作品はこれまでも沢山作られてきました。

私自身はこのテーマで監督作品を作ろうと思ったことはなく、 正直を言えば、 障害者の方々と自分を重ね合わせることがこれまでできていなかった。

しかし、今回は初めて監督を経験する悠輝くんの新鮮な眼差しで、障害当事者の方々の 取り組みを捉えた時、 映画は「障害者もの」という限界を超えて行けるのではないかという予感がしました。

これは、誰にとっても、「私のことでもある」、そう思える作品になるのではないか、と。

これまでにない、枠を超えたドキュメンタリー映画を世に送り出すために 悩みながら格闘する新米監督悠輝くんの力になれたらと思っています。

皆さまのご支援、応援をよろしくお願いいたします。


【映画「アウト オブ フレーム」概要】

▷完成予定日:2019年4月
▷上映予定日:2019年9月
▷上映場所:東京の劇場を皮切りに全国の劇場で上映
▷上映時間:90分
▷主な出演者:平下耕三 渕上賢治 大橋グレース愛喜恵 川崎悠司 他 
▷撮影場所:東京、大阪、アメリカ、ネパール、コスタリカ