『 「電力自由化」でどうするか 』
■どうして東電じゃいけないの?
いよいよ4月から低圧の小口電力自由化が始まる。なんと計画されたのが2000年頃だから実に16年も経ってようやく始まる。
東京電力の利益は、電気の62%を消費する事業系から9%を得、残りの91%は38%しか消費しない家庭と小さな事業所から得られている。簡単に言えば「家庭はドル箱」なのだ。そのせいもあって、家庭などの小口は自由化されない予定だった。ところが東電が原発事故によって頂点から転げ落ちたことで、自由化されるようになった。もしそのままの力関係なら、家庭の電力自由化は起こらなかった。
昨年末の東京新聞の調査では、実に56%の世帯が「すぐにではないが東電からの切換えを検討する」と答えている。その理由の35%は「より安く」であったが、28%は「原発を持たない事業者の電気を使いたい」となっている。しかも7割が「脱原発を望む」と答えているのだから、「より安く」の中にも脱原発の思いが含まれていることが見て取れる。
■選択肢はどうなっているか
この1月からいよいよ広告が開始され、東急パワーサプライはすでに1万件の申し込みを受けたそうだ。東京周辺にはたくさんの小口電力会社が立ち上がっていて、全部を見るのは困難だが、大手と目される選択肢を調べてみた。
たとえばソフトバンクのような携帯電話会社があるが、携帯電話の会社の電気はすべ て東京電力と提携している。事実上、東電別動隊だ。「脱原発を望む」人にとって携帯電話系は選択肢にならない。しかもその契約は、今の携帯の乗換え時と 同様に違約金を取られる仕組みとなっている。2年に一回しか違約金を取られずに乗換えることができないのだから不適切だ。
他の会社を見てみると、東京ガスは東北電力と組んでいて、今は東北電力の女川原発は止まっているからいいものの、再稼働を計画している上、二酸化炭素の排出が多い石炭火力発電所の建設を予定している。ここも「脱原発を望む」なら、将来は変更しなければならなくなる。ローソンは原発企業三菱と組んで中部電力から電気を受ける仕組みだから、再稼働となれば東京にとって最も危険な位置にある浜岡原発の電気を使うことになる。
他にも、ネットショップ等の楽天も総合商社の丸紅が持つ発電設備からの電気を供給することにし、プロパンガスや灯油などを販売する「東燃ゼネラル」や「中央セントラルガス」なども参加する。それらは今のところ原発の電気を受けるわけではないが、脱原発の要望に対応しているところはない。しかも出資関係にある会社には原発関連の名がちらついている。
各社の電気料金をグラフにしてみたが、特徴的だったのは「節電している世帯では全然電気が安くならない」ということだった。無駄に電気をやたら消費する電気浪費家庭の電気料金であれば安くなるが、普通の家庭では安くなってもごくわずかで、節電している家庭では全く安くならない。この電気自由化は、「電気を浪費する家庭は得になる」だけの競争となってしまっているのだ。
■なぜ今回の自由化ではダメなのか
最も大きな理由は、今回自由化されるのは小売りだけで、最も重要な送電線網や発電に無駄な金をかければかけるほど儲かるという総括原価方式は、 2020年までそのまま温存されてしまっているからだ。
電気を運ぶ送電線は電力会社たちで作る「広域的系統運用推進機関」に握られたままになっている。電気を使いたければ送電線を使うしかない。しかも道路には電力会社以外の電線はつけられない。その電気を送る費用に「託送料金」がかけられる。
その託送料金は著しく高く、他の国ならばその価格で電気が買えてしまうほどだ。
ただの送電線を使う料金であるはずなのに、その中には「電源開発費」という名の原発推進費や、これまでに使った原発の使用済み核燃料を再処理するための費用も含まれている。
しかもここに、2020年以降はさらに原発事故の処理費や原発廃炉費用まで入れられてしまう方向なのだ。託送料金が1kWhあたり9円かかる。 それに電気そのものの価格が乗る。現時点では「電力取引所」の電気価格は1kWhあたり約11円だから、電気原価は電気価格11円に託送料金9円を足した20円となる。
しかもこの「電力取引所」の電気は素性がわからない。原発でも太陽光でごちゃ混ぜなのだ。
東電より安くするためにはこれまで東電が説明してきた1kWhあたり25円(ひと月の電気消費量によって異なる)より安くなければならず、するとわずかなマージンで事業を成り立たせなければならなくなる。しかも政策的に電気価格は節電すればするほど安くなるように作られているので、節電している世帯の電気といえどもそれ以下に下げられない。節電して原発を使わずに価格を下げられるとすれば、30A以下の契約はないが東燃ゼネラルの「myでんき」しかない。
■オフグリッドの未来しかない?
送電線を使う以上、こうした「勝手に原発推進」政策から逃れられない。少なくとも大きな政治変革がなければ政策に変わりはないだろう。人々は脱原発を求めていて、できれば安い電気にしたいと思っている。しかし脱原発の夢は、今後事業に参加してくる生協系の電力会社でない限りかなわない。
しかも生協系であっても「電力取引所」からの電気を使わざるを得ないから、完全な脱原発はできない。
そうなると費用は高くつくが、我が家のように太陽光の電気をバッテリーにプールして自給するしかない。この方向はもしかすると今後大化けするかもしれない。電気自動車が世界的に推進されているおかげで、リチウムイオンバッテリーの価格と性能が急激に改善しているからだ。今だと電気料金で元を取るのに、最も安い仕組みでも15年はかかる。でも10年以内の電気料金と同じになるなら多くの人が導入するのではないか。
私たちは脱原発を望んで電力自由化を喜んだのに、いつの間にかそれは価格だけの話にすり替えられてしまった。そうでない未来は、どうしたらできるのだろう。
2016.2.24発行 第505号 田中優無料メルマガより