2015年10月13日

『森鴎外の汚点 「放射能被害は現代の脚気か」 』

『 森鴎外の汚点「放射能被害は現代の脚気か」 』 

■ 結核と並ぶ恐怖の疾病  

 脚気などという病気は今では名前すら聞かないかもしれない。膝の下を叩くと足がびゅんと伸びる。それで脚気の診断ができる。伸びなければ脚気の可能性がある。 この脚気が江戸時代から蔓延し、毎年1~3万人が死亡していて、結核と並ぶ「二大 国民病」となっていたのだ。

 これが日清・日露戦争時に大きな問題になった。  
 今でこそ原因はビタミンB1不足であるとわかっているが、ビタミンの概念すらなかった当時は伝染病説が主流を占めていた。コメを玄米で食べるならビタミンB1は不足しないが、白米にすると不足する。しかし「銀シャリ」と呼ばれて珍重されていた白米を、玄米に戻すことには大きな抵抗があった。戦に出征してくれた兵士たちに、いくら栄養のためと言われても玄米に戻すことは困難だったのだ。  

 しかし1884年、海軍軍医の高木兼寛氏が実際に航海中に実験し、ビタミンB1を含む麦飯にすることで脚気を防ぐことに成功した。しかしそれでもその後の日清・日露戦争の脚気を防ぐことはできなかった。伝染病説が主流の意見として蔓延し、「白米飯を変えてはならない」とされる意見書が軍の中枢から出されたのだ。  

 その一翼を担ったのが森鴎外(林林太郎)だった。  

 その時期に欧州帰りのインテリである森鴎外は、軍医総監に昇進、陸軍軍医の人事権をにぎるトップの陸軍省医務局長にまで上りつめた。しかし彼は最後まで伝染病説から動くことなく、学術的権威に従ったまま多くの兵士を救わなかった。  

 結果的に、戦地入院者のうち44%が脚気であり、在隊の脚気患者をあわせると、戦地で25万人強の脚気患者が発生した。その責任を森鴎外は取っていない。 


 ■権威主義的対策、ふたたび  

 なんともぶざまな権威主義だが、その失敗は本人ではなく名もなき兵士が被った。簡単に防げたはずの病気を、わざわざ拡大したのだ。  

 この事態に今の放射能被害が重なって見える。世界的に今でも、一般人の放射線被ばく量の上限は年間1ミリシーベルトになっている。しかし今福島の除染後の土地に戻る人たちは20ミリシーベルトまで受容させられている。  

 これを危険だと指摘すれば、「放射脳」とか「フォビア(恐怖症)」とか言われて、「病は気から」と精神に問題があるかのように扱われる。さらに「笑っている人には放射能被害は来ない」と権威ある医師は発言し、さらに付け加えた。 「これは動物実験で実証されている」と。どうやって動物が笑っていることを確認したのだろうか。  

 それでも「忘れたがっている人たち」や「原発を擁護したい人たち」にとっては好都合だから、行政や自治体、教育機関を通じてその意見が流布される。再稼働する鹿児島・川内原発では鹿児島県知事が、通常の100倍に当たる5マイクロシーベルト/時(年間では43.8ミリシーベルト、政府の甘い計算式を使っても26ミリシーベルトになる)であっても、「避難の必要がない。普通に生活してもいい」 「もし福島みたいなことが起きても、もう命の問題なんか発生しない」と述べている。

 日本人だけが特殊な免疫力を持っていて、放射線の被害を受けないとでも言うのだろうか。世界は日本を異常なものを見るかのように見ている。これは森鴎外的な権威主義の誤りではないのか。 

 ■白血球分画の異常  

実際にはもっと怖いことがある。ぼくの住む岡山県に、東京小平市で代々開業医をしてきた三田先生が転入された。面識はないが、その発言にはずっと注意を払ってきた。 

三田先生は言う。

  「放射能の被害は出ていると思う。免疫をつかさどる白血球には5種類の白血球(好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球)があり、その比率を白血球分画という。疾病の種類によってその比率が変わることから、診断に役立てられる検査法だ。  
 放射能濃度の高い地域では、そのうちの好中球が減少することを見出した。好中球は全体の6割を占めるもので、減ったからといってすぐに病気になるというものではない。しかし、あまりに低いと敗血症の原因になり得る。その人が汚染されていない地域に転地療養すると改善が見られる。  今では高汚染地よりも、特にゴミ焼却場やコンクリート焼成工場の近くで見られる。・・・できれば、東日本から移住してほしい」と話す。  

 ぼくはこの原因に、ゴミ焼却場の焼却温度とセシウムの気化温度があると思う。セシウムは政府発表で705℃で気化する。一方のゴミ焼却施設はダイオキシン対策で1000℃以上で燃やしている。しかも汚染は地域の木々の枯葉や下水スラッジなどに蓄積され、それが焼却される。するとゴミに多く含まれる塩素と反応して、塩化セシウムになるだろう。  

 塩化セシウムは水に溶けやすく水を汚染し、小さな粒子なのでこれまで花粉症用マスクで防げたセシウムと違って、N95という特殊なマスクでなければ防げなくなる。さらに人間は、飲食物で摂取する重さの5.5倍の空気を毎日吸い込んでいる。 


 ■未来のための安全  

 この話が脚気のときのビタミンB1の例に重なるのではないかと危惧する。
 権威主義で「それが原因ではない、問題ない」としていたとしても、実際には健康に大きな被害をもたらす可能性があるのだ。  

 チェルノブイリでは、事故から6年後に疾病が著しく増加した。それはガンではなく、最も増加したのは心臓を含めた血液などの循環器系の病気だ。そして多くの人々が避難を始めたのはそれからだった。日本は先にチェルノブイリの被害を見ることができる位置にいた。ところがその被害を見ようとしていない。

 ウクライナはホームページ上に英語で、『チェルノブイリ事故から25年 “Safety for the Future(未来のための安全)”』という詳細なレポートを発表してくれているというのに。  

 私たちは福島原発事故の6年後である2017年をどう迎えるのだろうか。 
ぼくはせめて生ゴミや草木は燃やさないようにしてほしいと思う。 


 (2014.12.24発行無料メルマガ http://archive.mag2.com/0000251633/20141224115409000.html より)