2015年12月1日

『資源エネルギー庁のデータを信じない理由』

2012.5.15発行 
田中優有料・活動支援版メルマガ "未来レポート" 第14号より転載

"お試し読み"
としてご参考ください。


□◆ 田中 優 より ◇■□■□◆◇◆◇■


『資源エネルギー庁のデータを信じない理由』


■「日本の電気料金が安い」のウソ

 政府と電力会社が「偽装停電」「偽装計画停電」をしかねないと書くと、陰謀論ではないかと言われる。しかし資源エネルギー庁のデータのウソは実績があるのだ。

 たとえば資源エネルギー庁は平成23年11月、「電気料金制度の経緯と現状について」というレポートを発表している。その中で電気料金を決定する「総括原価方式」合理性を主張するとともに、必ずしも日本の電気料金が他の先進国と比べて高いわけではないと述べている。

これがまず2000年の家庭用電気料金の比較グラフだ。
(グラフ)

 日本は明らかに突出して電気料金が高い。それに対してこれが2009年時点の家庭用電気料金の比較グラフ。ドイツ、イタリアの電気料金の方が日本より高くなっている。イギリスもほぼ並び、続いてフランスがある。
(グラフ)

 『そうか、日本の電気料金は突出して高いわけではないんだな』と思ったら早計だ。
資源エネルギー庁のデータは常に疑ってかからなければいけない。そこで下にとても小さな文字で書かれている注意書きを見てみよう。
これがそうだ。
(図)

注3)に書かれている内容が特に重要だ。

注3)税込みの値を使用。なお、税には消費税、付加価値税だけでなく、我が国における電源開発促進税のような目的税も含まれる。

 と書いてある。「電源開発促進税」というのは私たちの電気料金1Kwhあたり0.375円(月約110円)かかっている税金だ。これは原発やダムを受け容れる自治体に対して『迷惑料』のように支払われる税金だ。受け容れ自治体はこの税と核燃料税、それに電力会社からの『匿名希望の寄付金(これも電気料金に原価として含まれる)』の三つが払われている。


 そのひとつが「電源開発促進税」だ。これを読むと日本だけが余分に料金に含まれているのだから、正味の電気料金はその分だけ安いように感じてしまう。

 しかし違うのだ。

 ドイツ、イタリア、イギリス、フランスには、すでに二酸化炭素排出量に応じて炭素税が掛けられている。環境のための目的税だ。そこで文言をもう一度見てみよう。
『我が国における電源開発促進税のような目的税も含まれる』と書いてある。

 つまり炭素税も含んで比較しているのだ。日本では検討されながら、未だ導入していない炭素税を、炭素税を含んで比較しているのだ。では日本で検討されている炭素税額を含んだらどうなるだろうか。

 環境省「地球温暖化対策のための税について(2010年12月8日税務調査会資料)」によれば、電気料に0.115円/Kwh加える予定になっている。
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/policy-insight/MSI110331.pdf
(8枚目)
(表)



 足してみよう。現在が0.228ドルだから0.115円=0.14375ドル(1ドル80円として)を足すと0.37175ドルになる。再び突出して、日本の家庭の電気料金が最も高い額になる。
どうだろうか、それでも資源エネルギー庁のデータを信じるだろうか。
(グラフ)


◆「原子力の発電単価が一番安い」のウソ

 現在のように高すぎる電気料金が国際競争力上で問題になっているときに、安い発電設備を導入するのは当然の話だ。しかしここにもまた資源エネルギー庁のウソが邪魔をしている。

 資源エネルギー庁は原子力が一番発電単価が安いとしている。
 


 それが事実なら原子力を推進することで、日本の電気料金を安くすることができる。
なお、このグラフは資源エネルギー庁自身の計算ではなく、電力会社の業界団体「電気事業連合会」の数字をそのまま引き写しただけのものだ。

 ところが立命館大学の大島堅一氏は、「原子力のコスト(岩波新書)」の中で、電力会社の発表している「有価証券報告書」などから発電単価を試算している。

 さらに揚水発電を水力発電から外し、蓄電しかしない揚水発電が原子力発電の発電量が硬直的であるために原子力とセットとして足したものがそれ以上に高くなる。
 その二つのグラフを比較したものがこれだ。
(グラフ)




 資エネ庁では原発が一番安いのに、大島氏のデータでは揚水発電を除いた一般水力が最も安い。これは世界的な常識と一致する。大島氏のデータは原子力+揚水発電が最も高く、他の追随を許さないレベルにある。

 資エネ庁のデータを信じて原発を進めてきた日本の電気料金が世界一高くなるのはこのためだ。
 どうだろうか、これでも資源エネルギー庁のデータを信じないことが陰謀に思えるだろうか。


◆夏の消費ピーク時の家庭の消費を10%程度と見積もる根拠

 まずはぼくが信じていないデータから紹介しよう。資源エネルギー庁の発表している夏場の電力ピークのデータがこれだ。
http://www.meti.go.jp/setsuden/20110513taisaku/16.pdf
(表)

 ところがこれについては2011年8月1日、朝日新聞の記事で問題にされている。
「家庭の電力、2割過剰推計 「15%節電」厳しすぎ?」という記事だ。
いい記事なので全文紹介してみよう。

 「真夏のピーク時、東京電力管内の家庭が使う電力の政府推計が、経済産業省資源エネルギー庁が調べた実測値よりも2割多いことがわかった。
 政府は節電メニューを示して家庭にも15%の節電を要請しているが、消費量を多めに見積もったため、家庭に必要以上の節電を求めたことになる。

 エネ庁が5月に公表した推計によると、真夏の午後2時の家庭での使用電力は、 在宅で1200ワット、留守宅と合わせた平均で843ワット。東電がエネ庁に提出した昨夏ピークのデータを元に推計した。全使用量は6千万キロワットで、東電はこのうち家庭を1800万キロワットと見積もった。

 この値は実測データよりかなり高い。エネ庁が、電気料金と使用量との関係を調べる目的で、推計とは別に実施した調査によると、昨夏ピークに在宅世帯で1千ワットで、今回公表の数値より200ワット少なかった。シンクタンク「住環境計画研究所」も、エネ庁の委託で2004~06年度に電力需要を調べた。

 夏のピーク時に世帯平均670ワット、管内全体では1200万キロワットというデータが得られたが、エネ庁はこの数値を今回の推計に使わなかった。

 エネ庁が家庭向けに示した「節電対策メニュー」に従うと、1200ワットの15%にあたる180ワットの節電はエアコン利用を減らさないと達成できない。 だが、1千ワットの15%にあたる150ワットなら照明などエアコン以外の工夫で間に合う。

 東電企画部によると、電力使用量の詳細は大口契約の一部しかデータがなく、エネ庁に出した数字は様々な仮定をおいて推計した。

「提供を求められてから、数時間ほどで作ったデータ。
 家庭の使用分は実際より大きめの可能性がある」

(戸田直樹・経営調査担当部長)と説明する。」(朝日新聞 2011.8.11)
http://www.asahi.com/national/update/0731/TKY201107310433.html

 この2割過剰に計算した数値は、もともと東京電力が調べたものだそうだ。

 そして東電のせいにし、東電は
「提供を求められてから、数時間ほどで作ったデータ。家庭の使用分は実際より
大きめの可能性がある」という苦しい言い訳をしている。

 しかしそれ以前に、同じ家庭の電力消費量を資エネ庁自身も調査している。

 東電の出した数字よりも2割少ない数字が実態だった。それなのに資エネ庁自身は自分の調査結果を信じず、東電の過剰な見積もりを信じて「家庭に必要以上の節電を求めた」のだ。

 ここまでで「ピーク時の電気消費量の30%」という数字自体が過大評価で、本来なら24%ということになる。しかしこれは8月の家庭消費である「従量電灯」の比率、24.1%に一致するのだが、それは一か月の合計に対する比率であって、ピーク時の消費電力に対する比率ではない。

 電気事業連合会 2011年5月分電力需要実績(速報)[需要実績の概要(10社計)]
http://www.fepc.or.jp/library/data/demand/__icsFiles/afieldfile/2011/06/17/sokuho0617.pdf


2010年全体では家庭の比率は22%、2011年5月の家庭の比率は24.1%
(図)







 朝日新聞の記事はさらに、「資源エネルギー庁の推計によると、真夏の午後2時の家庭での使用電力は、在宅で1200ワット、留守宅と合わせた平均で843ワット。東電がエネ庁に提出した昨夏ピークのデータを元に推計した。全使用量は6千万キロワットで、東電はこのうち家庭を1800万キロワットと見積もった。

 この値は実測データよりかなり高い。エネ庁が、電気料金と使用量との関係を調べる目的で、推計とは別に実施した調査によると、昨夏ピークに在宅世帯で1千ワットで、今回公表の数値より200ワット少なかった。シンクタンク「住環境計画研究所」も、エネ庁の委託で2004~06年度に電力需要を調べた。夏のピーク時に世帯平均670ワット、管内全体では1200万キロワットというデータが得られたが、エネ庁はこの数値を今回の推計に使わなかった。」と書いている。

 その資源エネルギー庁が「住環境計画研究所」に委託して調べた結果がこれ(2004~06年度)だ。

「トップランナー基準の現状等について」
http://www.meti.go.jp/press/20110124003/20110124003-10.pdf

 その二つの調査結果のデータは全く一致しないものだ。同じ資源エネルギー庁の中に、まったく異なる二つのデータがあるのだ。そして正しかったのは「住環境計画研究所に委託して調べた結果の方だった。

 一方の資エネ庁の見積もりは、ピーク時6000万キロワットのうち1800万キロワットが家庭、個別家庭の消費量を843ワットだった。しかし委託データは「ピーク時のうち1200万キロワットが家庭で、個別家庭の消費量を670ワット」としている。

 ここまでのデータで、「夏期最大電力使用日の需要構造推計(東京電力管内)」は、間違っていたことがわかる。「家庭の電気消費が3割を占めるから家庭の節電が重要」というのは誤っている。

 さらに「エネ庁が、電気料金と使用量との関係を調べる目的で、推計とは別に実施した調査によると、昨夏ピークに在宅世帯で1000ワットで、今回公表の数値より200ワット少なかった」と記事に書いている。

 そこに資エネ庁の今回出しているデータの中から、「在宅率」があるので、それを入れてみよう。
(図)

 全世帯に対する在宅世帯の比率は、33%となっている。不在の世帯が三分の二を占めるのだ。そして在宅世帯と不在世帯の電気消費量の比率を、資エネ庁は27%程(1200÷320)として計算している。在宅世帯1000ワット×1/3と、不在世帯(1000ワット×27%=)270ワット×2/3を平均すると、在宅・不在宅合計平均は513ワットになる。

 それを資エネ庁同様に計算してみると、ピーク時の家庭の電気消費量は、1095万キロワットに過ぎないことになる。つまり18%に過ぎなくなるのだ。


 しかし私はまだ実態に近くないと感じている。たとえば従来使っていた一般的な家庭の電力消費量の図と一致しないからだ。一般的に家庭の電気消費量は、このように表現されてきた。これは太陽光発電設備の販売用のデータだ。
(図11)

 これと今回の資エネ庁の描いたグラフとは大きく違っている。

(図12)


 (図11)では午後1時から3時にかけては、凹型になっている。それに対して資エネ庁の描く(図12)では、凸型になっている。全く逆だ。どちらが正しいのだろうか。

 これを読み解くためには(図12)の右側の電気需要比率のグラフを見る必要がある。

 14時を見てみると、在宅でも不在でも、エアコンの消費量が一番大きな比率を占めている。しかも在宅世帯では58%と、半分以上の電気消費がエアコンになっている。

 これが問題を解くカギになる。


 実は資エネ庁の家庭の電気消費量のグラフは、ここでも二つある。ひとつは資エネ庁が公表している「電力需給の概要」によるもの、もう一つは資エネ庁が委託調査した「住環境計画研究所」の結果だ。


 資エネ庁の方ではエアコンが電気消費の25.2%を占め、四つの家電製品(エアコン、冷蔵庫、照明器具、テレビ)で67.3%を占めている。ところが委託調査の結果はエアコンはわずか7.4%しかなく、四つの家電製品合計でも46.1%に過ぎなくなる。この数値のどちらが正しいのだろうか。それ如何によって省エネすべき家電製品が全く違ってしまうことになる。


 実はこのことに気づいたのは、自分たちで省エネ家電への買い換えの融資事業をしていたからだった。融資して、減った電気料金から返済を求める仕組みを実施したのだが、資エネ庁及び省エネルギーセンターの数値を信じて融資すると、全く正しい値にならなかったのだ。
 結果、実態は委託結果の方が正しかった。エアコンの電気消費量は、こんなに大きくないのだ。

 そのエアコンの電気消費量が過大に推定されていることの原因は、意外な事件によって見つかった。「エアコン省エネ偽装事件」だ。


★省エネ性能かさ上げ、エアコン試験見直しへ

 家庭用エアコンの省エネ性能が過大表示されているとの批判を受け、業界団体の日本冷凍空調工業会は28日、エアコンの性能試験を2011年4月をめどに第三者機関に分離する方針を固めた。

 消費者が重視する省エネ性能を高く見せるため、日常生活では通常使わない設定で試験をした例があったためだ。日冷工は、新たに設立する財団法人に性能試験を委嘱し、家庭での使用実態に近い試験を行う体制を整える。

 省エネ性能は、日冷工が日本工業規格(JIS)に基づき、消費電力に対する冷暖房能力を指標化している。ところが、一部メーカーの試験では、消費電力が大きい騒音防止機能を切り、轟音(ごうおん)が出る「爆風モード」で行うなど、省エネ性能のかさ上げが発覚した。(2010年8月29日03時07分 読売新聞)
http://desktop2ch.net/newsplus/1283021331/


 「家庭用エアコンの省エネ過大表示」は機械の性能を見るための試験(日本工業規格JIS)の数値を、そのまま使ったことに端を発している。機械の性能のために、一日最大18時間の利用をもとに算出しているが、実際の利用では一日3時間程度で、約6倍も過大に計算していたことが原因だった。
http://s-joho.jp/detail/221br0/consumerseye.html


 この資エネ庁の調査データでは、ピーク時の家庭消費の53%がエアコンとなっている。
これは以前から故意か過失か不明だが、家庭のエアコンの使用時間を過大に見積もる傾向を誤ったままにしているためだろう。もしこの家庭内のエアコンの電気消費量が、25.2%ではなく7.4%としたなら、このエアコンが「ピーク時の家庭消費の53%を占める」という数字は出てこなかっただろう。

 ぼく自身が推定計算したグラフがこれだ。このグラフは2000年に出版した「日本の電気料金はなぜ高い(北斗出版、ただしすでに廃版)」で公表している。
(図15)

 このグラフは以前、「自然エネルギー推進市民フォーラム」の理事をしていたときに、太陽光発電の設置家庭のデータを調べていた。そのデータから、作ったものだ。
これは、太陽光発電販売会社がよく例示している家庭の電気消費量のカーブ(図11)によく似ている。

 家庭は朝夕に電力消費のピークがあり、社会全体の電力消費ピークの発生する「夏場・平日・日中、午後2時から3時」には消費量が最も低くなる。

 これまで見たピーク時の家庭の電気消費の過大な見積もりに、さらにエアコンの電気消費量の過大評価を加えると、おそらく家庭は、ピーク消費時の1割程度しか使っていないことになるだろう。
 残念ながら電力会社は、このピーク時の家庭の消費電力量を把握していない。


 家庭の電気消費量は、社会の電気消費全体に対して22%しかない。
東京電力のデータで、一日の最大消費100に対して最少時間帯の消費は47だ。これを「日格差」と言う。最小と最大との差が2.1倍になっている。もし家庭が一日中全く同じ消費量であったと仮定しても、家庭の消費量の比率は、ピーク時には16.2%になる。

図表で見る東京電力 平成23年度
http://www.tepco.co.jp/corporateinfo/company/annai/shiryou/report/suuhyou/index-j.html


 しかも家庭の電気消費は在宅している土日祭日に大きく、平日では朝夕に消費が多い。家庭の在宅率が33%しかない平日・日中・午後2時から4時に、家庭は電気消費量全体の30%を消費することはそもそも不可能だ。資エネ庁の数値はデタラメと言う他ない。

 家庭の電気消費量の日格差が社会全体と同じだと仮定して、社会全体の電気消費量に対する家庭の割合は10%ちょうどになる。ピーク時の家庭の電気消費量の比率は10%程度だとする私の推定は正しいものと思う。模式図で描いてみるとこのようになる。

 大阪市の橋下市長は言う。
「家庭に冷房の温度設定など負担をお願いすることになる。安全はそこそこでも快適な生活を望むのか、不便な生活を受け入れるか、二つに一つだ」
http://mainichi.jp/select/news/20120426k0000e040248000c.html


 民主党の前原誠司政調会長は言う。
「関西電力大飯原発3、4号機の再稼働がなければ、関西地方は計画停電が必要になる。
再稼働しなかった場合、計画停電をするのかどうか。関西地方はそこまでしないといけなくなる。計画停電を実施した場合、医療機関などでは人の命にかかわるだろう」
http://sankei.jp.msn.com/life/news/120513/trd12051313060006-n1.htm

 しかしピーク時の家庭の電気消費の割合が1割程度だと知っても、それでも家庭の節電などの「ライフスタイル論」を唱える気になるだろうか。こうした主張は実態を知らないのか、それとも知っていて「偽装計画停電」とようとする話なのだろうか。

 もし知らずに資エネ庁のデータを信じているのだとしたら、誰か本当のことを伝えてあげてくれないか。


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