2017年12月14日

『 アルジャーノンになる日 』

2017.12.13発行 田中優無料メルマガより

■アルジャーノンの話

 「アルジャーノンに花束を」という小説はとても面白く、感動的な物語だ。
ここであらすじを書いたとしても伝わらないことは分かっている。それでも簡単に書いておこう。

 チャーリイ・ゴードンは知的障害者でパン屋に勤めている。その彼を大学で「ロボトミー手術」の研究をしている医師が研究材料にして、知的障害者の彼を天才にしてしまう。誰も及ばないほどの天才となり、自分の知性でその手術の効果を読み解いてしまう。やがて彼は自分がモルモットにされていたことにすら気づき、ネズミを飼い、そのネズミに「アルジャーノン」と名付ける。

 さらに彼の施された手術を調べ、「確かに天才になるがそれと同じスピードで低下していってしまう」ことに気づく。次第に衰えていく知性に怯えながら、残りわずかな知性の中で養護学校に戻っていく決意をする。彼の飼っていたネズミが死ぬと、庭に埋めた。さんざん面会を断っていた医師たちが管理する報告書の中にこう書く。


「ついしん。どうかついでがあったらにわにうめた
アルジャーノンのおはかに花束をそえてやってください」。

 このアルジャーノンの物語は知性を中心に生きているつもりでいる私たちに存在価値を投げかける。知性の乏しい人に生きる価値はあるのかと。相模原の大量殺人事件のような問いを投げかけるのだ。


 しかしそのことが今回の文章の趣旨ではない。それを頭に入れた上で、添付した文科省の調査データを見てほしいのだ。このグラフは学校で、指導が必要になる児童の数の推移を示している(図1)。

(図1)



 グラフは2000年を超えたあたりから激増している。その内訳は、上から増加の著しいADHD(注意欠陥多動性障害)、LD(学習障害)、自閉症、情緒障害の順だ。
増加の見られない下の二つは「難聴その他」と「言語障害」になっている。


 簡単に言うと、今の子どもたちが壊されつつあるのだ。何が原因かについての説明はない。もし何らかの文化的要因だったとすれば、こんなに短期に著しく増加するはずがない。「母原病」と呼ばれるような母の子育てを原因とするにはやはり時間が短すぎる。


 この原因として考えられるのは、全体的に増加しているのだから誰もが摂取するような化学物質を疑うしかなく、しかも脳の情緒を司る海馬や偏桃体を想定するしかない。そこに影響を与えるような化学物質として考えられるのは、最近それ以前の「有機リン系農薬」に代わって出てきた「ネオニコチノイド系殺虫剤」を疑わざるを得ない。

 人間に影響が少ないとして広がったこの農薬は、その受容体である「ニコチン性アセチルコリン受容体」が海馬や偏桃体に多く分布している点で人間に影響しないはずがなかったのだ。


 実際にそれとおぼしき症例がたくさん出ていて、農薬を摂らないような食事に変えると治っている。このネオニコチノイドの出荷量だが、添付したグラフのように推移しているのだ(図2)。


(図2)


 一方でこのネオニコチノイド系農薬に対して、欧米は禁止したり規制したりし始めている。ところが日本では、逆に規制を緩和しつつあるのだ。理由は不明だが、少し前まで経団連の代表をしていた人物こそ、ネオニコチノイド農薬を生産している住友化学の米倉会長だった。ここにつながりを想定しない方がおかしいだろう。


 かくして化学薬品メーカーの利益のために、子どもたちが壊されていく時代が進んだのだ。このままなら、すべての子どもたちが「要指導児童」になる日も近いだろう。最近、「何でしたっけ?」とファミレスで聞かれることが多くなった気がしないだろうか。

 ネオニコチノイドは短期記憶に影響を及ぼす。破壊衝動やうつ状態、不眠や物忘れに症状が出る。 


 大人もまた同様だ。酒で頭を壊した大人たちに加えて、さらに融通の利かない石頭の大人たちが増えていく。調べたければ真っ直ぐ腕を伸ばした手を、指先まで伸ばさせてみるといい。指先が震えるのがその特徴だ。


 何で化学物質を摂取してしまうかというと、ネオニコチノイド農薬の特徴は「水溶性、持続性、残効性、神経毒性」にある。つまり農薬を撒いた果物の皮を剥いても効果なく、その果実自体の水分に残るのだ。分解しても分解された成分自体が人体に有害で、しかも長く土地に残るのだ。残効性が高いので、農薬を少なく使う「特別栽培」によく使われる。

 日本で健康を気にする人たちが、果物を食べ、お茶を飲むようにすることが多いが、それこそがネオニコチノイド農薬摂取のワースト一位と二位なのだ。


 さらに主食であるコメに対しても、カメムシ対策で膨大に撒かれている。空中散布されている長野県松本市では。学校が成り立たないほど子どもたちへの影響が出ている。

 まず摂取しないことが大事だ。そして呼吸しないこと。しかし不可能だから松本市のように訴訟してでもやめさせる運動をするか、他の土地に逃げるしかない。


 私たちは世代を越えた「アルジャーノンの実験」をしているようなものだ。
アメリカではついに平均余命が短くなった。歴史上初めてのことだ。アメリカでの自閉症の発症率は、遺伝子組み換え作物のコーンと小麦の出荷量と比例している。日本は農薬に甘く、アメリカは遺伝子組み換え作物に甘いことが人々の健康に影響しているようだ。


 アメリカで売れなくなった遺伝子組み換え作物は日本に輸出され、さらに日本政府は遺伝子組み換え技術に対して規制緩和しようとしている。

 アルジャーノンの話と違っているのは「頭が良くなる栄光の日がないこと」だ。
栄光のない影ばかりの未来を作ってしまう。でも人々は今の暮らしのすばらしさや努力のない利益に溺れている。こんな社会は変えなければならないと思う。


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以上、2017.12発行 
※「未来バンク事業組合ニュースレター No.93/2017年12月」より抜粋

※PDF版はこちら
http://www.geocities.jp/mirai_bank/news_letter/MB_NL_93.pdf

※原文では主人公の名前がチャーリイ・ゴードンではなくアルジャーノンになっていました。訂正させて頂きます。(追記2017.12.21)

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