2017年8月23日

『 リニア中央新幹線の夢は、夢のままがいい 』

田中優無料メルマガより

「自分のおこずかいで買うからいいでしょ!」
そう突っ張ったJR東海にみんなの
財政投融資から3兆円

葛西会長のペットプロジェクトと呼ばれた葛西会長は、「朝鮮戦争が再度起こって景気が良くなればいい」とする論者。アベと共に消えてほしいです。

今回公開します有料・活動支援版メルマガバックナンバーは、この
JR東海のリニア新幹線についてです。

※参考記事

「“超黒字”JR東海に公的資金3兆円投入!?
リニア建設資金不足で、やっぱりツケは国民に…(樫田秀樹さん)」

http://www.excite.co.jp/News/column_g/20170701/Shueishapn_20170701_87127.html

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『 リニア中央新幹線の夢は、夢のままがいい 』


    (田中優 有料・活動支援版メルマガ バックナンバー2012.12.15号)


■リニア中央新幹線の夢

リニアの夢は何だろうか。

 とても速くて名古屋まで40分、大阪まででも67分、すると東京~大阪間が都内のように行き来できて、同一エリアのように活用できる。すると当然効率的になるので地域経済の活性化が図れる。東海道新幹線の混雑が緩和でき、中央ルートなら次の東海地震でも被害を受けずに東京~大阪間のルートを確保できる。

 いやいやそれよりも世界初の技術で世界をリードする鉄道になれる点だ、といった感じだろうか。


■速度の制限因子は何か

 しかし調べてみると、時速500キロと言われるリニア新幹線も、平均速度では429キロなのだ。この速度は従来型の新幹線でも夢ではない。現実に今でも姫路から先の山陽新幹線では300キロの速度で走行しているし、フランスのTGVでは320キロで走行しているし、最高速度で言えば429キロを超える従来型の列車はたくさんある。

 では何が違うのか。直線性なのだ。直線であればスピードが出せるが、山岳地帯が多く小さな日本では、その条件が整わないだけなのだ。

 そして今回の中央新幹線の線路はひたすら真っ直ぐなのだ。その理由はリニアの欠点のせいでもある。リニアは小回りが利かず、最小曲線半径が8000メートルもあるのだ。250キロで走行する東海道新幹線の最小曲線半径が2500メートル、300キロを出している姫路から先は最小曲線半径4000メートルであるからだ。


 つまりこの8000メートルの最小曲線半径なら、リニアでなくても429キロの速度で走行できる可能性が高い。違いができるはリニアは勾配に強く、従来型ではそこまでの能力はないということだろうか。


 ここでもうひとつの選択肢が登場する。リニアではなく、従来型の新幹線を走らせるという方向だ。


■東海道新幹線は満杯か


 以前はJR東海も、「東海道新幹線が輸送力の限界に近付いている」としていた。しかし2010年5月の政府審議会以降、「輸送力の限界」説は取り下げてしまっている。理由は簡単だ。

 図1にあるように、座席利用率は2003年の66.2%を上限に、2009年の55.6%まで下がり続けてしまっているからだ。今後は人口も減る。そんな中で「輸送力の限界」説は維持できなくなっているのだ。

図1 (メルマガにて公開中)


 もしそれが事実だとしても、JR東日本が導入している二階建て新幹線を入れれば足りてしまう。東海道新幹線のN700系が1323席であるのに対し、二階建て新幹線では同じ16両編成でも1634席と23%増加する。


■東海地震と老朽化した設備の更新のため


 東海道新幹線は鉄道が造られてから、実に50年経っている。そのためJR東海は、老朽化した設備の更新のために二重系化が必要としている。また同時に来たるべき東海地震対策としても必要だとしている。

 もし設備の更新だけなら、今のままでも一部運休すればできるだろう。座席利用率は55.6%(2009年)なのだから、不可能とは言えない。JR東海の言葉で言えば、「長期間にわたる部分運休や徐行運転が想定される」だけだ。

 しかしもう一方の東海地震対策となると、不要とも言えない。東海地震が被害を及ぼすであろう地域と中央新幹線のルートを比較してみると図2のようになる。確かに東海地震では沿岸部を走る東海道新幹線には不安がある。その範囲を避けて通る中央新幹線のルートには確かに二重系化のメリットがある。ただしそのことは、リニアでなければならない理由にはならない。

図2 (メルマガにて公開中)


■本当に速いのか

 JR東海は9兆円かかると見積もられる中央新幹線を、二段階で実現しようとしている。名古屋までの一部開通と、その後の大阪までの延伸だ。一方、建設に期待する「リニア新幹線建設促進期成同盟会」は一気に大阪までの全面開通に期待している。しかし期成同盟は責任を負う団体ではなく、あくまでJR東海の費用負担で進められる話だ。しかもJR東海側では国鉄から買い取った新幹線負担5兆円を、3兆円まで返済した実績に基づいて考えているのだから、一気に9兆円負担というのは無理な相談だ。

 しかしそのことが速さのメリットを減殺する。

 名古屋まででは航空機からの乗り換えは期待できないからだ。JR東海は名古屋まで開通の時点で、


1.航空からの転移、
2.料金アップ(名古屋まで+700円、大阪まで+1000円)、
3.高速道路からの転移と新規需要

の三つ図3でカバーして図4のように「経営体力を回復し、速やかに大阪開業に取り組む」としているが、一体どこに名古屋まで行くのに飛行機に乗って行く人がいるというのか。料金の高さから新幹線が敬遠されているというのに、高速道路からの転移がなぜ起こるのだろう。

図3(メルマガにて公開中)

図4(メルマガにて公開中)



そして極めつけが品川駅、名古屋駅での乗換えだ。

「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(通称:大深度法)が2001年に制定され、地価高騰を回避するために深度40メートル以深を「公共の用に利用できること」とした法がある。リニアでは、これを使って用地買収を避ける方向で考えられている。

しかしその結果、現在でも東京駅での新幹線への「標準乗換え時間」が10分とされているのに、地下40メートル以下では最低でも15分は見込まなければならないはずだ。

すると品川で15分、名古屋で15分、合計で30分ロスすることになる。これで大阪まで行った場合、図5のとおり従来の東海道新幹線が153分であるのに対し、128分となってわずか25分しか違わない。しかも荷物を持っていたら大変な作業だ。

図5 


 これで航空から転移するとは考えられない。すると「経営体力を回復」するこ
とは困難になり、大阪までの延伸は困難となってしまう。するとメリットはほとんど感じられないものになる。



■デフレ是正のためには公共事業が必要

 そもそもぼくは公共事業が嫌いだ。しかし正しく言うと、これまで進められてきたダムだの原発だのリゾートだのという、公共事業が嫌いなのだ。しかしもし洋上風車の建設だの、発送電分離のための海底送電線設置と言われたら、ぼくは賛成する。

 要は「公共事業」が悪なのではなくて、公共事業の選び方が「悪」なのだ。そして15年続くデフレの日本では、緊縮財政や増税の前にデフレ撲滅をしなければならない。そのためには「良い公共事業」が選択される必要があるのだ。

 この間のデフレで、今日買うより明日の方が価格が下がるから、誰もがモノを買うのを待つようになった。そのためモノは売れず作れず、産業は衰退して人々は失業するようになった。投資できないために余ったカネで、アメリカの戦費を支えてきた。


 しかし日本が経済的に復活したいなら、石油・天然ガス・ウラン・石炭の輸入に費やしている資金を国内に回すのがいい。そのための投資は抜群に雇用を回復させ景気を改善する。2008年には24.5兆円も海外に流出させてしまった燃料費を国内に回せれば、一都道府県あたり毎年5210億円も回せるのだ。
だから公共事業が悪いのではなくて、その使い道が悪いのだ。



■リニアは公共事業として適切か

 新幹線がどれほど世界的に信頼性が高いかは、今さらぼくが言う必要もないだろう。50年間も事故らしい事故を起こさず、しかも毎年毎年性能を高めてきた。

 図6の燃費を見てほしい。最初の新幹線と比べると、実に半分の電気で走行できている(時速220キロのとき)。その電気代で言うと、今や一両に一人乗客がいるだけで燃料費が賄えてしまうほどなのだ。

図6 (メルマガにて公開中)


 それではリニアはどうだろう。図7の比較を見てほしい。「1座席あたり」と「1人あたり」の違いがあるが、少なくとも航空機の「1/12」だったのが「1/3」になっているので四倍効率は劣化している。さらに直接の数値では、4.2kgco2/座席⇒29.3kgco2/人になっているので、7倍劣化している。これで他社が導入したいと思うだろうか。

図7 (メルマガにて公開中)


 しかも路線に乗り入れることができないのだから、従来の車両も路線も使えない。専用の最小曲線半径8000メートルという直線ルートでなければ走れないのだ。

 この技術が使えるとしたら、日本のような狭い国ではなく大陸的な広い国で、しかも従来は鉄道がなくて乗り入れを考えずに済む国しかないだろう。しかしドイツは断念し、中国も今や消極的だ。つまり地球上にほとんど売り込める先のない技術なのだ。もし売りたいのなら、最小曲線半径をもっと小さくするなどの改善が行われてからでなければならない。

 しかも車両や周囲の出す電磁波は人間の耐えうるレベルを超えている。
ヨーロッパでは人体に対する許容基準から考えて、永遠に導入できるレベルにならないだろう。中津川市での説明会でJR東海が公表したデータによると、「時速500キロのリニアが通過すると、その横4メートルで1900ミリガウスの電磁波が発生する」そうだ。

 停車時における車内の値は1万3000ミリガウスとされている。さらに国立環境研究所は2005年、リニア実験線の車内床上での電磁波は、6000から4万ミリガウスになると報告した。





 これはWHO(世界保健機構)が発表している「日常的に浴びている子どもが、小児白血病が倍になってしまう3~4ミリガウス」(図8)という基準の1万倍だ。

図8 (メルマガにて公開中)

 しかも全線の8割以上がトンネルで、火災が起きたとしても次の駅まで停まれない。停まったとしても、最も深いところでは地表まで1400メートルもある。浅いところでも大深度地下だから40メートルある。これでは屈強な登山家でなければ安心して乗ることはできない。

 リニアはひいき目に言っても未熟な技術だし、もっとはっきり言ってしまえば発展性の見込めない技術なのだ。これは公共事業としても適切ではない。



■JR東海は勝手に事業を進めていいのか

 公共料金に対しては政府が関与できる。JR東海が単独の企業だけでリニアを進められるのは、東海道新幹線がドル箱だからだ。新幹線の電気代は、新幹線運行費用の4%程度だから、25倍の費用がかかることになる。

 つまり今の余裕ある経営の仕方でも、一両に25人乗っていればトントンになる。16両編成で400人乗れば元が取れる。ところが16両1323席に対して55.6%乗っているのだから、740人になる。つまり1.85倍の収益を得ていることになる。


 この余剰収益でリニアを作る以外に、料金を46%下げる選択肢もあるということだ。約半値にすることも可能なのだ。

 もし未来に対して先行投資するのならば、このような不適切な投資であるべきではない。もし東海地震に備えて二重系化するのなら、実績があって他路線とも乗り入れ可能な従来型新幹線にすべきではないか。

 もしそれを考えないのなら、二酸化炭素を排出しない発電方法によって走らせるほうが、ずっとエコになる。

 電気料金は原発に頼る頼らないに関わりなく値上がりが見込まれている。しかもJR東海の支払っている電気料金は、私たち一般家庭の負担によって著しく安く購入されている。しかしなぜかJR東海葛西社長はそうした社会的責任を負うのではなく、東電や中電に原発を動かせと発言しているのだ。

 公共料金で人々に負担させながら事業をする企業にしては、電力会社並に横暴ではないか。きちんと社会的責任を果たさせるべきだ。


■人々が受忍する計画を

 トンネルを掘られる地域では、水みちが切られるなどして影響を受ける。
しかも直線にしなければならないために、岐阜県の東濃地域にあるウラン鉱山に当たってしまっても避けられないし、図9の阿蘇周辺の高森線で起きたようなトンネルからの出水にあっても止めることができない。高森ではあまりの湧水の多さに、ついに鉄道敷設を断念して「湧水トンネル」とせざるを得なかった。


図9 


 しかしそれでも地図全体で考えたら線の被害だから、図10のような環境破壊があるにせよ、もし必要性が高いならば受忍せざるを得ないだろう。


図10 (メルマガにて公開中)


 しかしリニアでは、受忍せざるを得ないものとはとても言えない。むしろ東名・名神高速を走るトラック輸送の代替に使えるものにした方が、はるかに社会的意義も高いものになる。社会的意義が高くなければ人々は受忍する気にならないだろうし、それをさせることは横暴にすぎない。

 JR東海を「ブラック企業」にしないためには、社会的意義あるプランにするべきだ。

 二酸化炭素を出さない発電方法に資金を投資するなり、環境負荷を多大にかけるトラック輸送をトレイン化して減らさせるなり、できることは他にあるはずだ。

 少なくともドル箱路線で利益を貪った資金でしていい事業ではない。
甘えた子どもの玩具ねだりのようではないか。


 リニア中央新幹線の夢は、夢のままがいい。


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今回は、2012.12.15発行 第29号
『 リニア中央新幹線の夢は、夢のままがいい 』です。

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