『 家にこだわる 』
■これまでにない楽しみ
ぼくは「一般社団法人 天然住宅」の共同代表をしている。その関係で住宅にはこだわりたい。
個人的には二回目の住宅建築だ。前に住んでいた住宅を建てるときもこだわったがセミオーダーだったため、当時珍しかったペアガラスやプレキャストコンクリートの断熱壁、太陽温水器などまでしか導入できなかった。
今回は完全オーダーなので分離発注方式にして工務店が「瑕疵担保責任」を負う請負契約とせず、自分のリスクで建ててもらっている。
まず素材にこだわった。木材は外材を使うのが普通で、その木材は防カビ槽に漬けられて高温乾燥でぼろぼろになっている。それを宮城県のくりこま木材にお願いして純国産で、全体はスギ、土台部分は水やシロアリに強いヒバ材を使ったもらった。
乾燥は新たな低温乾燥炉で60℃以下で行い、黒い芯は小豆色に、赤い芯はピンク色に仕上がっている。外から見える部分はカンナ掛けしてもらい、接着剤やベニヤ板などは一切使わない。壁は通気性のある素材で断熱し、高断熱だが高気密にしない建物に
した。
木材は伝統的な仕口・継ぎ手で組み合わせ、建築基準法上使わなければならない以上の金物は使わなかった。ダイニングの対面キッチンのテーブルには『キハダ』の一枚板を入れ、仕上がりがこれまでになく楽しみになっている。
■体への摂取量は食べ物より呼吸が多い
なぜこれほどこだわるかと言えば、住まいは安全でほっとできる空間でないと困る
からだ。よく食べ物をオーガニックにとこだわる人はいるが、その実、呼吸する空気を気にする人は少ない。ところが体内への摂取量は食べ物・飲み物の5.5倍も呼吸の方が大きく、しかも肺には腎臓・肝臓のような毒消し機能がない。しかも吸う空気のほとんどが、自宅にいるときの室内空気なのだ。オーガニックにすべきなのは建物内の空気なのだ。
しかし一般的な住宅ではドラム缶一本分の接着剤が使われ、家自体がガス室のようになってしまっている。よく「新築の匂い」「新車の匂い」と言われるのは、有害な揮発性ガスの匂いなのだ。
家を上棟してみると、スギのさわやかな匂いがする。ヒノキもスギも殺菌作用があるのでダニは死滅する。だがヒノキが興奮作用があるのに対して、スギには鎮静作用
がある。ゆっくり眠れたり健康になったりするにはスギがいいと思っている。
土台をヒバにしたのはシロアリが寄りつかない木材だからだ。これがシロアリの大好物のベイマツ・ベイツガ・ホワイトウッド(トウヒ)にしたら、人体に有害な防蟻材を塗り込まなければならなくなる。しかも室内空気の多くは、床下から上がってく
るものなのだ。我が子はアトピーだから、そんな空気に曝したくはない。安全な空気に囲まれて暮らせるのが、とても楽しみなのだ。
■伝統の技と新技術
建て方は伝統構法の板倉造りにした。柱の真ん中に刻みを入れ、そこに厚いスギ板を落とし込んでいく。木材は湿気を呼吸して湿度を調整してくれる。なんとスギ一本の柱だけで、ビール瓶二本分の水分を吸収できる。 その板倉造りの耐震性を検査したとき、最大荷重をかけても傾くだけで壊れなかったから、どこまで耐震性があるかは
未だわかっていないほどだ。
基礎コンクリートは水・セメント比50%以下の固練りにした。これなら300年はもつコンクリートに仕上げられる。普通に使われる『シャブコン』と呼ばれる水分比
65%のコンクリでは、50年程度しかもたなくなってしまう。運んできたコンクリ屋さんは、わざわざ研究所の人が来ていた。「どんなところに使われるのか見に来た」の
だそうだ。
また基礎の鉄筋は二か所でアースした。鉄筋に勝手に流れてしまう誘導電流を逃がすためだ。もちろんコンセントもすべてアース付だ。パソコンを使うときアースすれ
ば、体中を流れてしまう電気を逃がせるので肩こりや頭痛も少なくなる。
すでに見学したいという申し出がたくさんあり、構造と完成の二回、見学会※をすることにした。関西・中国地方では例が少ないので、よく知ってほしいと思う。
■楽しい家づくり
しかも電気も水も自給するし、太陽温水器やペレットストーブも入れている。そうすると将来、毎月支払わなければならない支出も減る。以前に書いたように、カネにらない暮らしの第一歩になるわけだ。
天然住宅の基本的なコンセプトは、300年持つ住宅をめざしている。日本人が貧し
くなるのは住宅が短命で、建て替えを何度もせざるを得ないからだ。ヨーロッパなら
500年以上の建物なんかざらにあるのに、日本では30年ほどで建て替えを余儀なくさ
れる。
子どもに引き継げる家どころか、負債を残しかねない。万が一転居せざるを得なく
なったとしても、この家なら「取り壊して更地にする」より「家ごと購入する」ほうが得になる。取り壊しの費用が不要になって建物の価値が評価できるようになれば、
家を手放しても貧しくならずにすむのではないか。残念なのはこの家が何年持つか、
自分の目で見ることができないことだ。
家はさらにたくさんの実験をしている。虫が入らないように基礎コンクリートと土
台の間に空間を開けなかったり、床下の空間を乾燥させる無電源の装置を入れたり、
虫返しを外壁につけたりしている。
今回の窓は「Low-E」ガラスで、内側にはもう一枚木製サッシを入れられるように
している。家を建てるのが見栄えの問題ではなく、機能の組み合わせと考えるととて
も面白い。しかも毎月のように新たな製品が出ているのだから、調べ甲斐があるのだ。
たとえば「室内に設置できるセミオートのFFガス給湯器で、太陽温水器に対応できるもの」などを探すのも楽しかった。
それに合わせて友人が優れた断熱材を作ってくれた。これならリフォームに使える
ものになるのではないかと実際に使ってみることにした。家を建てるのがこんなに楽
しいとは思わなかった。
自分のリスクで家づくりを考えたら、今のハウスメーカーのような家にはならない。
健康的で長持ちして、山を守ることにもつながる家づくりを広めたいのだ。
( 川崎市職員労働組合様へ寄稿したものを、好意を得て転載しています。)
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~伝統工法で作る天然住宅仕様&オフグリッドミニマムハウス~
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