2015年5月21日

『生命体、破滅の足音』

2015.4.27田中優無料メルマガより




■数年前、雑木林で  

 今や全員が勤め人になってしまっているが、三人の男の子がいる。しかしかなり 最近まで、一緒にカブトムシなどの虫取りに出かけていた。ぼく自身が昆虫を捕まえるのが好きなこともあるし、子どもたちの側も親になる前に自分で虫を捕まえられるようにならなければ、という気合を持っているようだ。  

 虫は種類によって特定の木に集まる。その暮らしを理解すると、予想外な場所でも捕まえることができる。そうして成人している子どもたちと共に、昆虫採集に出かけていたのだ。  

 しかしある年のこと、目を背けたくなるような現実に出会ってしまった。いつも採りに行く場所は梨畑に沿った雑木林で、あまり下草の高くないフェンス沿いの場所だった。そこを訪ねると、カブトムシが腹這いになり、足を絡ませながら死にかけていた。しかも一匹や二匹ではない。こんなにこの森にいたのかと思うほどのたくさんのカブトムシが、すでに死んだもの、死にかけているもの、おそらく数日という連続性ををもって転がっているのだ。

 子どもたちにぼくは言った。「農薬だ」と。  

 思えばその時から次第に虫捕りから遠ざかることになった。二度と見たくないという気持ちもある。しかも福島原発事故以降は、それまで聞いたこともないような昆虫の奇形が見つかり始めた。あくまで一方的な思い込みだが、ぼくと昆虫との美しい思い出と無垢なる存在に対する思いを壊したくなかったのだ。



■ネオニコが作る「沈黙の春」  

 それはおそらくネオニコチノイド系の殺虫剤だろう。今では専門的には「浸透性、持続性、水溶性殺虫剤」と括られる。ネオニコと成分は異なるが、同様の被害をもたらすフィプロニルという名の殺虫剤も現れているからだ。  

 それらの殺虫剤は殺すべき対象であるカメムシだけでなく、トンボやミミズ、甲虫類をも殺してしまう。そしてダニとクモ類にはほとんど害がない。その結果、撒いた場所はクモやダニが増え、ミツバチの大量死についても「ダニのせいだろう」 と言われるような状況になっている。

 これに対する世界的研究が行われた。「浸透性殺虫剤タスクフォース」というもので、世界中から集まった中立の立場のさまざまな分野の研究者によって、 1121もの査読付き学術論文を読み解きながら進めてきた研究だ。昨年日本を含むアジアでも発表され、辞書のように厚い報告書が、間もなく日本語でも読めるよ うになる予定だ。※

(※ 2015.4.30に発行されました 
http://www.actbeyondtrust.org/wp-content/uploads/2015/05/wia_20150502.pdf ) 


 その調査結果は寒気を感じるほどのものだ。1990年代に入ってから(それはネオニコが使われ始めた時期だ)、ヨーロッパの各地から昆虫と野鳥の数が著しく 減少した。殺虫効果を生かすため、作物の種子自体をネオニコに漬けておく。 すると育った作物もまた殺虫効果を持つからだ。  

 ところがこの殺虫剤は著しく分解が遅く、数カ月から数年も土壌内で蓄えられる。それまで使われていた「有機リン系農薬」のように数日で分解しはしないのだ。毒性が減らずに残るだけでなく、殺虫剤が分解された後の成分も、最初の殺虫剤と負けず劣らずの毒性を持っている。  

 毎年農地として利用されているなら、分解する間もなく蓄積することがある。 その処理をした種子の数粒を野鳥が食べただけで致死量に達することもある。被害を与える効果が、生物種によって大きく異なるためだ。  

 そして怖いのは、これまでの殺虫剤のように臭い匂いがしたり、木の葉の上にべたべたと残りはしない点だ。何も気づかずに虫たちは被害を受け、ことによると絶滅してしまうだろう。

 そう、カブトムシたちは何度かに渡って殺虫剤で殺されていた。だから撒いた日に対応して死骸が並んでいたのだ。何の警戒心も持たないまま。



■ネオニコ漬けになった私たち

 しかしこのタスクフォースの報告書には書かれていないことがある。重大なのが人体に対する影響が書かれていないことだ。  ヨーロッパでは今年までの3年間、ネオニコ殺虫剤は使用モラトリアム(不使用) されていて、その理由の一つには人体に対する危険性も書かれていた。

 それは誰の研究発表によるものだったか。なんと日本人研究者によるものなのだ。数人しかいない研究者だが、それでもきちんと追い続けてくれている。それはたまたま群馬県でクリニックを開業している医師が統計的に調べ、その基礎データを研究者に渡してくれたおかげだった。その最新調査結果を聞く機会を得た。  

 主に出る症状として「抑うつ」「短期記憶の喪失(過去三日間の食事内容を書かせてみるとわかる)」「高血圧」「心不全」「皮膚病」そして「振せん(手の 震え)」などがある。

 特にこの震えである程度の判定ができる。手を伸ばして握り、その後に指先まで伸ばしてみたときに指に震えがあるかどうかで見ることができる。職場でやってみてほしい。もし震えがあったとしたらネオニコ中毒の可能性がある。  

 ネオニコ系殺虫剤が最も使われているのは果実で、健康のためにと果実をよく食べている人が危ない。次に茶葉だ。野菜にも使われるし、家庭内のゴキブリやイヌネコのノミ取りにも使われている。それを除去していくと一週間程度で症状が収まることが多い。

 ネオニコはニコチン系殺虫剤なので、喫煙者の方が大丈夫になることも多い。  


 もしこうした殺虫剤がなかったなら、人々はもう少し賢くなっている可能性すらある。
最新研究は被害のない対照群と被害のある人の比較で、その尿中に含まれるネオニコ系殺虫剤とその分解物の検出結果だった。なんと被害の出た人は、そうでない人と比べて33倍も検出されていた(オッズ比というが、33を超えていた)。 これほどのオッズ比など聞いたことがない。被害とネオニコ接種との間には、ほぼ間違いない関係があると言えるだろう。

 このネオニコといい、放射能といい、私たち暮らしは五感では感知できない毒物に囲まれ始めた。しかも両者ともに脳にダメージを与え、本人は気づかないままに問題を集中して考え続ける能力が失われていく。  


 せめて子どもたちだけでも守れないものかと思う。