2012年8月20日

「権威主義者につける薬はないか」~ニコ生出演を終えて~


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田中優の“持続する志”

優さんメルマガ 第153号
2012.8.16発行

※このメルマガは転送転載、大歓迎です。

http://archive.mag2.com/0000251633/20120816133419000.html

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□◆ 田中 優 より(出演後に原稿を作成しました)■□■□


『 権威主義者につける薬はないか 』

「ニコ生」出演に意味があるか

 今、「ニコ生」の番組に出てきた。結構うんざりしてる。
というのは実態的な論議がなく、ただの権威の争いに終始したからだ。

 チェルノブイリ事故の被害者について、澤田氏と池田氏は
「甲状腺がんの被害者が10人程度出ただけだ」と言った。

 もしそうなら放射能は恐れる必要はない。あれだけの放射能を撒き散らしても
その程度の被害ですむなら、原発事故は恐れるに足らない。
 この数値はIAEA(国際原子力機関)の調査報告書から採っているのだろうが、
その後に6,000人に訂正されたことを彼らは知らないのだろうか?それとも死亡者の
15人を指しているのだろうか?

 しかもその6,000人という数字も著しい過小評価だ。残念ながらIAEAは原発
推進の組織なのだ。しかもデータを用いるのに、権威づけされたものばかり選ぶ。
ところが困ったことに、権威付けされたデータは原発推進派によって過小評価され
ている。WHO(世界保健機関)のデータなら彼らは納得するかも知れないのだが、
WHOは秘密協定によって、IAEAの承認なしに放射能の健康被害について発表
できないことになっている。

 澤田氏が否定してみせた「バンダジェフスキーの論文」についても、WHOの
会議で発表され、事務局長は発表することを約束していた。ところが秘密協定に
よって、それは今まで発表されないままとなっている。しかもバンダジェフスキー
氏は無実の罪で収監されてしまった。

困ったことに、権威あるデータの発表元はことごとく原発推進派によって押さ
えられ、そう
でないデータは権威的でないところからしか公表できないのだ。  ここで困った事態が発生
する。

 「そんなのは誰も信じない」「認められていない」 という一言で、権威側は片付けることが
できるのだ。そうでないデータの方は、 残念ながらたくさんの言葉を必要とする。時間のな
い討論番組では、とても説明 するだけの隙は与えてもらえないのだ。

 ぼくはとにかく発展的な一言を引き出させることに終始した。
「澤田さんの発言では内部被曝量を気にされていますよね。それならもし汚染地に 住むの
であれば、内部被曝を避けることに異論はないですよね。それなら内部被曝 しないように
アドバイスをするのがいいと思うんです」 

「池田さんは放射能に危険性はないというんですね」
「誰も危険じゃないなんて一度も言っていない。危険性と利益との比較衡量なんだ」
というように。 

 この先に来るのは 「どちらにせよ原発は止めるのだから、どのように止めていくかの議論」
になるし、 「一定の線引きをして居住・転居の義務範囲と勧奨範囲を決め、汚染地に残った
人 たちへの被曝を避けるアドバイスをする」ということになるはずだ。

  ならば今後は発展的な議論が期待できるはずだ。しかしまた次回もまた、同じ話 の繰り
返しになるのかもしれない。  もしかしたらこの番組はただのエンターテイメントで、戦う猛獣
を見ながら ツイートするだけの娯楽番組なのかもしれないからだ。ツイートを見る限り、どう
 にも後者である気がしてならないのだが。


 ◆きちんとした論議がしたい  

ICRP(国際放射線防護委員会)の基準も、そもそも原発を経済的に進めていく ための安全
基準でしかない。人間の体を基準にして作られているものではなく、 経済的に成り立つ範囲
での安全レベルだ。

 それ以外にBEIR(米国科学アカデミー 研究審議会)やECRR(欧州放射線リスク委員会)
もあるが、どれもICRPの 基準よりは厳しいものになっている。日本ではICRP基準以外に基
準はないもの と思わさせられている。 

 そのICRPですら、他の二つと同様に閾値(しきい値)なしの考え方を採っている。 つまり100
ミリシーベルト/年の被曝量は将来5%(注:ICRPの基準では、0.5%が 正しいはず。ここでは、
パネルトークでの澤田氏らの発言のままとした。)のガン 死者を増加させるのだから、その百
分の一の1ミリシーベルト/年の被曝量でも 0.05%のガン死者を増加させることになる。

  従って池田氏が言う「1ミリシーベルト/年の被曝量を危険だと反原発側が言う から(福島県
から県外に避難している)16万人の人々が住めなくなったのだ」と いう数字を利用すれば、80
人のガン死者を防いだことになる。80人が苦しんで ガン死するのを防ぐことが過剰で、「それだ
け死なせても原発を推進した方が 経済的」というロジックはいかがなものだろうか。 

 ICRPのいう緊急時の20~100ミリシーベルト/年の被曝量基準というのは、 もともとの「緊急
時被ばく状況」の基準だ。当然に一時的に許される基準と見る べきで、こんな一年半経っても
継続して当てはめるための数値ではない。事故後の 回復期に適用することになっている「現存
被ばく状況」にしても、子どもにまで 適用できる基準と考えられるものではない。

平常時基準・・(計画被ばく状況)=一般人の被ばく限度、年間1ミリシーベルト以下 
事故や核テロなどの非常事態・・(緊急時被ばく状況)=年間20~100ミリシーベルト
事故後の回復や復旧の時期等(現存被ばく状況)=年間1~20ミリシールト(職業人は別に指定)


 緊急時被曝であればこんなに長い間適用することは許されず、「現存被ばく状況」
と解釈したとしても数年という単位で適用できるものではないと解釈すべきだ。
 職業人の基準が年間5ミリシーベルト、5年間に100ミリシーベルト以下となって
いることから類推して、その五分の一以下の5年間に20ミリシーベルト以下と考える
べきだ。最大に譲ったとしても、年間4ミリシーベルト以下までしか解釈できない。
しかも子どもや妊娠可能性ある人には適用できない。わずか「年間4ミリシーベルト
以下」であっても、先ほどの16万人に当てはめたら、ICRP基準でも320人×年数分
の被害者数になる。


◆権威主義者につける薬は

 このようなマジメな論議がしたいのだが、権威主義者はIAEAの作った怪しい
報告書や、本当のことが言えないWHOのデータや、ICRP基準の「費用と便益
(コストとベネフィット)」の比較の部分だけを引きずり出し、勝手な解釈を加える。

 澤田氏は「ベラルーシは今、被害を受けたのに原発推進をしている」というが、
ベラルーシは独裁国家だ。日本で多くの人が原発に反対していても、原発推進なのと
同じだ。
 独裁者のおかげでバンダジェフスキー氏は無実の罪で獄中につながれ、人権団体
アムネスティーの圧力でやっと解放された。しかしベラルーシを追放されている。
ゴメリ医科大学の学長だった彼の論文を、澤田氏は「デタラメ」呼ばわりしたが、
ぼくにはバンダジェフスキー氏の方が、助教よりははるかに権威あるように思えるが。

 権威に従って判断するなら、どっちが格が高いのだろうか。バンダジェフスキー氏
は研究成果に対し、ラルーシコムソモール賞、アルバート・シュバイツァーのゴール
ドメダル、ポーランド医学アカデミーのゴールドスターを授与されている。

 一方、現実に起こった被害のレポートは残念ながら権威は低い。なぜならそれらの
国際機関が推進側に傾いている以上、そこで認められる可能性はほとんどないからだ。
原発推進側の論文なら簡単に認められるのだが。

 マジメで建設的な議論を期待するぼくが間違っているのだろうか。こんなくだらな
い権威主義の誇張競争では、ぼくの出番はない。ぼくには権威がないし、もしあった
としたら自分で否定してしまうだろう。「権威」はヤクザや国会議員の「バッジ」の
ようなものだ。

 そんなものにこびへつらうより、現実に起きたことを基準にして判断できないもの
だろうか。そうでなければ何も先に進まない。

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  ◆ 編集後記 ◆
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昨日のニコ生出演前、司会者の田原さんが控室に来られた直後「台本は使わない」
とひとこと。どなたがどんな主張で、どんな論点にしていくのかもあまりよく
打ち合わせがなく始まりました。こちらが用意した何枚ものフリップも使う機会が
ありませんでした。

 私自身もこんなので建設的な話し合いになるのだろうか?と心配していましたが、
案の定、実態を調査したレポートを「そんなの権威がない、○○で認められていない」
と却下され、全く建設的な話にはならなかったです。

 きっとそういう方たちは目の前で何人もの人が苦しんでいようが、「権威のある
レポートにあがっていない!」と認めないんでしょう。
やっぱり優さんは、権威があるものしか信じない評論家ではなく、実態の方で動く
“活動家”なんだと改めて思いました。

優さんの言うように、感情的になって机を叩いたり人を罵倒し合うようなショーを
期待していた方には残念な結果だったと思います(笑)
(“感情的にはならずに議論を”と言っていた方が一番感情的だったような・・)

その同じ土俵に乗ってしまって罵倒するような優さんだったら、やっぱりカッコ悪い
ですよね(*^_^*)

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合同会社OFFICE YU 担当渡辺
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