田中優無料メルマガ
http://archive.mag2.com/0000251633/20140623140801000.html より
『せめて論理の通じる政治家を』
■ 権力者を縛るためにある憲法
憲法問題について書くのは難しい。なぜなら言葉と論理の通じること
が、論議の最低ルールなのだが、今の首相周辺にはそれがないからだ。
憲法とは何か、それすら理解していない。憲法というのは法の上の法、
行政が法を執行するときに従うべき規範だ。だから公務員になるときに
「憲法を順守します」と誓約書を書く。行政は権力を乱用しないように
憲法に縛られるのだ。
ところが行政の一番の長である総理大臣と閣僚たちが憲法の解釈を変
えようとしている。彼らこそが縛られるべき最大の機関なのに。
マフィアの格好を真似た口の曲がった大臣と、甘やかされたぼんぼん
のような首相が言うことをイメージしてみてほしい。
「この縛っているロープが邪魔なんで取ってくれないか。
そうその調子。やっと外れたね。
でもせっかくここにロープがあるんだから、
このロープで君たちを縛らせてもらえないかな。
だって『公の秩序』って大事だろ?
君たちが義務を忘れて権利ばかり言い出したら困るだろ?
全員じゃないよ、一部のわがままなヤツを縛るだけさ…」
これでは縛るべき相手が違う。憲法が「法の上の法で、権力が乱用さ
れないための法なのだ」ということが理解されないと、これすら理解
されない。それが今の状態だ。
■ 集団的自衛権は「いじめ」だ
「集団的自衛権」の話も同じだ。これは「他人の喧嘩に参加すること」
を意味する。日本が外国に攻められたなら、個別的自衛権で戦うことが
できる。ここまでは現憲法でも認められている。それを超えて戦争する
ことは、憲法に「交戦権はこれを認めない」と書かれている以上は許さ
れない。
それを可能にするために、「友だちがやられているんだから黙ってら
れない」と戦うことを認めようとするものだ。ところがその友だちに問
題がある。世界で最も多くの喧嘩を起こし、その後相手国は長く血生臭
い内乱に陥っている。
ベトナム戦争と言えばアメリカがしていたように思うだろうが、もと
もとはフランスがしていた戦争だった。ここに「集団的自衛権」を振り
かざして参加していったのがアメリカなのだ。
同じことを日本がしようとする。これが危険でなくて何だろう。
学校でいじめ問題が言われるが、いじめは世界に蔓延している。
弱い国を強い国が力で押さえつける方法だ。なにせ世界の軍事費の半分
はアメリカ単独で使っている。他の国が束になってもアメリカに勝てな
いのだ。だから日本もアメリカに付こうとする。ジャイアンに従うスネ
夫くんみたいに。そうじゃなくていじめ自体を止められないのか。
「ジャイアン、それはダメだよ」と。
■ 戦艦や軍隊を使うと危険になる
憲法解釈を変更する閣議決定をしようとしている政府は、「交戦国から
脱出しようとする母子を助けられない」と図を示して説明した。しかし
その母子はなぜか他国の軍艦に乗っている。さて、軍艦で交戦国から脱出
することがあるだろうか。こんなことはあり得ない。普通は民間機をチャ
ーターして脱出する。なぜなら民間機を爆撃することは国際法上許されな
いからだ。
「戦争になったら何でもアリ」と思っているのは日本人ぐらいのもので、
そのときにも人権を守る戦時国際法の適用がある。だから民間機を撃墜す
ることはできないのだ。
しかし軍艦は話が違う。戦争遂行のための軍艦なのだから爆撃されても
文句は言えない。実際に戦後これまで、一度も民間機で脱出しようとした
日本人が撃墜されたことはないのだ。
さらには「PKO(平和維持組織)やNGOを守るために武装した軍隊
を派遣して救いたいのだ」という。しかしNGOはこれに反対している。
なぜなら政府が軍隊を派遣すれば、NGOは軍隊の仲間だと勘違いされて
活動自体が危険にさらされるからだ。
その事例は紛争地でたくさんあった。今なおアフガニスタンやイラクに
NGOがでかけることは外務省によって実質的に制限されているが、これ
も同様だ。アメリカ軍が見回りに来て、勝手にNGOの施設を接収してい
る。NGOが抗議してもお構いなしに。
ところが現地では、「あのNGOはアメリカ軍に協力した、アメリカ軍
の手先だ」と思われてしまい、逆に反政府軍から攻撃される事態を生んで
いるのだ。だから真面目なNGOの多くは、自衛隊に守られたいどころか
その派遣に反対しているのだ。
■ 軍需産業を再び喜ばせるな
ところが甘やかされたぼんぼん首相は、それを情緒的に訴えることで
人々の賛同を得ようとする。首相が守ると言っている人たちがやめてく
れと反対しているのに。何のためにここまでするのだろうか。
ここでもまた利権だ。日本の軍需企業の利権のためなのだ。今や戦争
はゲーム機さながらのバーチャルなものになっている。アメリカの兵士
は朝家族に見送られて出勤し、夕方家族の元に戻る暮らしをしている。
無人偵察機「プレデター」を飛ばして、そこからミサイルを撃って敵
を撃退するのが仕事だ。勤務時間内にイラクで午前三時間、アフガンで
午後三時間の爆撃を行う。それをアメリカ本国の基地内で行うのだ。
そこに必要な技術が「ミサイル、衛星通信、電子技術、エンジン」
などだ。それが得意なのが「三菱重工、NEC、川崎重工、三菱電子、
DSN(スカパーJSAT、NEC、NTTコミュケーションズの共同会社)、
IHI、東芝」といった世界100位に出入りする日本の軍需企業なのだ。
しかも日本の軍事費は世界第六位の巨額に上り、2011年から12年にか
けてロシアに次いで大きな伸びを記録している。
しかもすでに日本は「宇宙基本法」という名の宇宙戦争に参加するた
めの法も制定している。軍需企業の利権のために集団的自衛権などを認
めていくとしたら、戦前の財閥による戦線拡大の二の舞になる。集団的
自衛権は必要ないし、NGOへの警護も迷惑千万だ。
憲法は「法の上にある法で、閣僚たちのような行政の長の暴走を許さ
ないためにある」ものだ。理の通った話ができるならあり得ない話だろ
う。軍事オタクやマフィアかぶれのお涙頂戴ではなく、世界に通用する
論議が必要なのだ。
( 川崎市職員労働組合様へ寄稿したものを、好意を得て転載しています。)
◆◇◆ 集団的自衛権に異議を唱えるJVCの見解に賛同します ◆◇◆
田中優より
「集団的自衛権に異議を唱えるJVC(日本国際ボランティアセンター)の見解。
ぼくはこの団体の理事ですが、この主張に賛同しています。」
【私たちが異議を唱える理由】
1.私たちは、徹底した安全対策に基づいて、紛争地での国際協力活動を行っています。
2.自衛隊による救出は、現実的ではありません。
多くのケースは武力でなく交渉で解決に導かれています。
3.『外国軍が、平和維持活動の一環でも武力を行使する』ということは、
紛争の当事者になり、紛争に巻き込まれることを意味します。
4.軍との連携は危険性を高めます。
5.日本の平和協力の独自性が失われかねません。
▼JVC「集団的自衛権をめぐる論議に対する国際協力NGO・JVCからの提言」
http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2014/06/20140610-%20right%20of%20collective%20self-defense.html