2014年5月24日

『劣化する地球環境 ~砂漠化の広がりを止められるか~』

□◆ 田中 優 より ◇■□■□

『劣化する地球環境 ~砂漠化の広がりを止められるか~』


内モンゴル砂漠植林ツアー

 4月中旬、中国の内モンゴルのウランバハ砂漠に植林に出かけてきた。
しかし砂漠化は今に始まったことではない。原因となった過剰な農耕は、
西暦が始まる以前から起きていたからだ。万葉集にすら登場する「春霞」
が黄砂の影響なのだから、当時から黄砂は届いていたのだ。しかし著し
く砂漠化が進んだのは1960年以降のことだ。文化大革命が進めた過剰な
耕作に加え、後に過剰な放牧が加わった。


 従来一世帯で20~30頭しか飼っていなかったヤギの牧畜が、今や300頭
以上飼うようになった。しかも中国政府の定住化政策があるために、
わずかな草原に大きな負荷がかかる。今や砂丘は動き、村を呑み込んで
居住地を奪っていくようになった。訪ねた村は砂丘が目前に迫って廃墟
となり、移住していた。


 もし地域の人たちが植林地に放牧しなければ、木は育って砂丘の移動を
止めることができる。ポプラやナツメは砂を押さえることに有効で、20年
前に植林された防砂林はきちんと砂の移動を止めていた。しかし過剰な放
牧と農耕地の開発圧力は今なお強く、すでに漢民族が人口の8割を占める
状況ではモンゴル族の伝統的な暮らしの復活も困難だ。


 PM2.5や公害物質、黄砂に悩まされる日本は、自らを被害者と考えるか
もしれない。しかし過剰放牧のヤギは「カシミアヤギ」で、ユニクロの販
売するカシミアウールの原料となっている。過剰な農耕をして作っている
のはソバで、中国人はソバを食べないからこの全量が日本に輸出されてい
る。

 さらによく話題になる携帯電話やパソコンに使われるレアメタル(希少
金属)は中国が独占的に生産しているが、その8割が内モンゴルから採掘
されている。関係ないどころではない。私たちの暮らしのために砂漠化が
進んでいるのだ。


 そこに植林に出かけ、最後には北京の日本大使館で中国の人たちとの交
流会も開いた。意外に思われるかもしれないが、中国の一般の人たちは親
日的だ。中国で習いたがる外国語では日本語が人気で、国境を接している
ロシアよりはるかに学生数が多い。


 厳重に管理されている日本大使館でこのようなイベントをすること自体
が異例だそうだが、「国と国ではなく人と人でつながろう」というアピー
ルは彼らに熱く受け容れられ次回の植林は一緒にしようと盛り上がった。
大使館からもこのイベントが両国のつながりを強くしたと歓迎された。
政府対政府でなければ、人々は互いに親しくすることができるのだ。


水不足をどうするか

 しかし中国の半乾燥地域は圧倒的に降水量が少ない。一見すると絶望的
な気持ちになりそうだ。しかし「一人当たり水資源量」では、日本も世界
平均の半分しかなく、中国よりやや多い程度だ。それなのになぜ私たちは
「水の豊かな国」と思い込んでいるのか。その答えこそが砂漠化を解決す
るヒントになる。


 答えを先に言うと、日本の水は徹底的に再利用されているからだ。棚田
に流れ込む水の7割が次の水田に流れ込む。それを何度も繰り返して川に
流れ込む。さらに水道の原水として汲み上げられて使われて、下水処理場
で浄化されて川に戻る。その下でも再び水道の原水として使われもする。


 「水は一回使えばおしまい」ではないのだ。水は繰り返し何度も使うこ
とができるのだ。特にすごいのは工業用水の再生率だ。工場が使っている
工業用水では、実に8割が再生利用されている。こうして水が再生されれ
ば、その分だけ水資源量は膨らむ。解決策は「再利用」なのだ。


 でも砂漠地にはそれだけの水はないと思う人もいるだろう。認定NPO
「緑の地球ネットワーク」の通信「黄土高原だより」から紹介してみよう。

 活動地は中国の黄土高原、内モンゴルよりさらに水に不足する地域だ。
ここで植林をしていたが干ばつに遭い、植林木が枯れてしまう状況に陥っ
た。そこで下水を使って水を与えたが、根腐れして枯れてしまう。わずか
しかない水を植林に使うわけにもいかず、とても汚れていた下水を浄化す
るプラントを建てた。プラントといっても日本円でわずか400万円ほどの
ものだ。


 すると汚れきっていたはずの水から、ほとんど飲用に近いレベルの水を
作り出すことができた。この小さな装置で毎月7500トンの水を浄化する。
黄土高原の人々の水消費量/月はひとり約1トン。つまりこれだけのプラ
ントで、7500人の水をまかなえるのだ。水がないのではない、「きれいな
水がない」のだ。水を循環させれば使える水を生み出すことができる。


世界の片隅で働くこと

 中国に行ったことのある人なら、町中に捨てられたゴミを思い出せるだ
ろう。しかしこれも堆肥になる。砂漠にすら点々とヤギの糞がある。その
ペレット状の糞もまた、発酵させれば使いやすい堆肥になる。これを用い
るなら有機物はたくさん存在する。水辺には使われていないアシが繁茂し
ているが、それを使えばマルチ材になる。強い日差しや水分の蒸発から木
の根を守ることができる。水はすでに書いた通りだ。


 しかし何より重要なのは地域の人たちと共に働くことだ。もともと
「援助」がキリスト教の布教活動から始まっているせいか、欧米の支援団
体の多くは「啓蒙」的な精神で接することが多い。援助される側は「無知
蒙昧」の人々の扱いを受けることもある。しかし日本人は違う。多くは彼
らと同じ目の高さで接することができる。彼らのために、彼らと共に植林
している草地に、彼らは草原を破壊してまで放牧させはしないのだ。


 日本政府と一緒になって中国を非難することはたやすい。しかしそれで
解決することはない。必要なのは国同士の非難合戦に加わることではなく、
人と人が共働して未来を作ることなのだ。その一歩を踏み出すとき、考え
込んでいた悩みが行動によって解消される。
 砂漠の植林はいくら掘っても周囲から砂が流れ込んで埋まっていく。
さながら蟻地獄だ。しかしその汗もまた心地良い。乾燥した風に乾かされ、
いくら飲んでも十分な気がしない水を飲み、夜ともなれば寒いほどの気温
になるその場所で生きてきた彼らに、自然に敬意を感じる。人懐こい目で
握手を求められると、悩みも疲れもすべて解消される気がした。


( 川崎市職員労働組合様へ寄稿したものを、好意を得て転載しています。) 



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【植林は役に立つのか 内モンゴル植林ツアーに参加して(上・下)】

4/8~4/14まで参加しました、中国・内モンゴル植林ツアーの
取材レポート。
田中優が実際に木を植えて砂漠を見て、現地の人に聞いて感じたこと・・。
帰国次第書きましたホヤホヤの記事です!


<4/15号(上)>

・内モンゴルに起きていたこと
・砂漠化の原因
・どうしたら解決できるか
・座視してはいられない
・それでも植林を


<4/30号 (下)>

・砂漠化問題
・問題から解決に
・最大の制限因子「水」
・工業用水はどうか
・生活用水はどうか
・大問題なのは「バーチャルウォーター」



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