『 荒野の知性 』
■幻のエルドラド
エルドラドは「黄金郷」と訳される、「豊かな都市」のことだ。コロンブスが新大陸に渡った後、一獲千金を夢見た探検家たちが新大陸に渡った。
そのひとりに、アマゾンを探索した「オレリャーナ」がいる。彼は1542年、アマゾンの支流のひとつ、リオ・ネグロ流域を探検し、その際に「農場、村、さらには巨大な城壁を巡らした都市さえ目にした」と伝えた。それから100年後、黄金に魅せられた人々は、隠された黄金都市「エル・ドラド」を探し求めた。しかし誰ひとりとして、オレリャーナが目にした都市を発見できなかった。彼らが見出
したのは、バラバラに孤立して暮らす狩猟採集民たちだけだった。
科学者たちの結論は、オレリャーナの話は「嘘」というものだった。理由は農業にある。いかなる文明であれ、その前提には農業生産がある。生産性が高い農業がなければたくさんの人口を養うことはできない。一見生産的に見える熱帯雨林は、一度焼き払えば元に戻らず、その土壌は三作耕せば荒れ地になってしまう脆弱な土地だった。今の化学肥料や資材を用いても、持続的な食料生産はできないのだから、エルドラドなどあり得ないと。
■奇跡の「テラ・プレタ(黒い土)」
ところがそのアマゾンに、「テラプレタ(黒い土)」と呼ばれる不思議な土が見つかった。最初は日系移民ぐらいしか注目しなかったものだが、連作障害を起こさず、何度も豊かな作物を収穫でき、過酷な熱帯の条件の中でも劣化していかない土なのだ。この「奇跡の土」は一体何なのか。
西暦2002年になって、ある研究者が発表した。「テラプレタは人が作り出したもので、6000年、あるいはもっと以前から作られていたものだ」と。それは大きな衝撃だった。アマゾンの過酷な気象の中で、誰も手入れしないままに数千年の時を経て、未だに豊かな養分を維持していたのだ。
そのテラプレタは、ゴミ捨て場のようなものだったと考える人もいる。土に200度程度の低温で焼いた未熟な炭と、炭を作るときに取れる木酢液を混ぜ、骨や陶器の破片、排泄物などが混ぜられたものだったからだ。しかしその考えもまた、かつて住んでいたアマゾンの人々を見くびった考えかもしれない。今、同様の土を作ろうと実験されているが成功しないのだ。大地から養分を集めて、維持される土を作るのは簡単ではない上、数千年も耐えるかどうかは年数を経ないと実証できないからだ。
しかも驚かされるのはテラプレタの分布する広さだ。集めるとイギリス二つ分、フランス一国分の面積に匹敵するのだ。これだけの広さがあれば多くの人を養い、都市を形成するほどの収穫量も得られる。今では「エルドラドは実在したかもしれない」と考えられている。あまりにも多くの陶器片や埋蔵物は、点在する集落で使うには多すぎるのだ。
なぜ100年後の探検隊はエルドラドを発見できなかったのかについても推理がついている。おそらくオレリャーナたちが持ち込んだ伝染病のせいで、エルドラドに暮らしていたほぼすべての人たちは滅びてしまったのだろうと。「天然痘、インフルエンザ、はしか」などへの免疫のない人々は、初めて知る伝染病で滅びてしまった。そして生き残ったわずかな末裔の人々が、点在して狩猟民として暮らすようになったのだろうと。
現にアマゾンの奥地に灌漑した跡や堤防が見つかり、言語には複雑な社会構造の痕跡を残し、さらに今は存在しない作物の名称すらある。今や世界は、半信半疑ながらアマゾンに住んでいた人たちの遺構に、一種の畏敬を覚え始めている。
■荒野の知性
このことは、さらに大きな衝撃を与える。FAO(国連食糧農業機関)のデータによれば、地球上には「38億エーカーの農耕地」と「83億エーカーの草原」がある。
もしそこがテラプレタと同様にできたなら、どれほどの量の二酸化炭素吸収ができるだろうか。もしそこで「炭素吸収農法」を行うなら、草原は、1エーカーあたり平均2.6トンで21.6Gtを復元でき、農耕地は、1エーカーあたり平均0.55トンで2.1Gtを吸収できる。これは「1年あたり23.7のギガトン」の吸収ができる。大気中に放出されてしまった106.25Gtを吸収するのに5年未満で達成できるとする論文もある。
ところがテラプレタの炭素吸収量は、これまで考えられていた「炭素吸収農法」よりけた外れに大きいのだ。実にその5倍から20倍も吸収できる。もし炭素源が足りるなら、たった1年で解決できてしまうのだ。
そもそも炭は、人間が作ることのできる唯一の化石燃料だ。木材の8割の炭素を炭の中に固定し、燃やさない限りそのまま固定することができる。多孔質の空隙は微生物のマンションとなり、微生物は土壌から溶け出した微量元素を貯め混んでいく。
そのおかげで長年経っても肥沃さが失われないのだと考えられている。この炭の技術では日本は群を抜いている。しかしその日本の技術もまた洗練されすぎたのかもしれない。白炭と呼ばれる高温で焼いた炭と、黒炭と呼ばれる中温の炭はあるが、200度という低温で焼く「半生の炭」などはない。
私たちは、そろそろ「科学技術が高度に発達した現在が最も優れている」と思い込みを捨ててはどうだろうか。「科学の知性」はさまざまなものの説明には役立し、それぞれの原因を調べるには必要不可欠だ。しかし、それが新たなものを作るわけではない。新たな方策はいつも長年の「経験知」が作り上げている。
これを荒野の知性と呼んだとすると、今新たに生まれつつある方策は荒野の知性が作っているではないか。
第七の栄養素と呼ばれる「ファイトケミカル」にしても、ずっと生活の中に生かされてきた調理法はそれを活かしきっている方法だし、「乳酸菌」と呼ばれるまでもなく漬物などたくさんの利用がなされてきた。
私たちの「科学的慢心」は、もう捨てたらどうだろうか。新たな知性は荒野から生まれる。それを学ぶことで、もしかしたら地球人は温暖化防止の方策を得られるかもしれない。しかしそれは科学が見出したものではない。荒野の知性を科学が説明したに過ぎないのだ。
(写真、図は以下田中優有料・活動支援版メルマガより引用)
テラプレタ+無機肥は880%の収穫
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■2016.11.30発行 第127号
謎から読み解く地球温暖化問題(上)「ミッシングシンク」
■2016.12.15発行 第128号
謎から読み解く地球温暖化問題(下)「幻の黄金都市、エルドラド」
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「The Secret Of Eldorado - TERRA PRETA」
Lost Cities of the Amazon - Terra Preta
Lost Cities of the Amazon - Terra Preta from James Shikada on Vimeo.