2016年6月11日

『 6年目に入る福島 』

2016.6.10無料メルマガより
 
 『 6年目に入る福島 』
       未来バンク事業組合 理事長 田中優


 先日、福島の経営者と同席してイヤな目に遭った。そう言っただけでわかる通り、原発事故被害の過小評価だ。「風評被害」と言えばまるで「放射能は危険だ」と言った側が悪人になる。そうなのか?

 残念ながら実際の放射線被害は内部被ばくの方が悪影響を大きく与える。なぜなら放射能の被害は実際には「電離放射線」による被害で、元素を別な元素に変えてしまったり、電子を奪って反応性の高いラジカルに変えてしまったりする。それが電離放射線の反応で、アルファ、ベータ、ガンマ線それぞれが起こす。その電離放射線は近い位置にあるものに大きく影響し、遠くなるにつれて弱くなる。届く距離もアルファ線はほんのわずかで(空気中で 1センチ程度)、ベータ線でも1メートルより短い。

 したがって外から届くのはほぼガンマ線だけだが、体内に取り込んでしまったものの影響とまるで違う。体内から放射線を撃たれるのを内部被ばくというが、その影響は「距離の二乗に反比例する」ので、1メートル離れた場合と1センチの場合とでは、1万倍違ってくる。


 だから放射性物質を体内に摂るのは危険なのだ。そしてその被害はチェルノブイリの実際を見るとわかる。すでに何度も取り上げられている数値だが、チェルノブイリ原発事故で被ばくした北ウクライナの住民は、添付のグラフのように疾病にかかった。旧ソ連では5ミリシーベルト/年以上の被ばくをする地域の人々は強制的に転居させた。つまりそこで被ばくした人たちは5ミリシーベルト以下の地域に住む人で、日本では東京以北に住む人たちと同様になる。


 恐ろしいほどの被害が発生したのは、事故から7年目のことだった。日本でいえば2017年になる。そこでは95%を超える人たちが循環器系の病気になったのだ。特に心臓病が多発し、死因の半数を超える部分が心臓病になった。多くの人たちが病気になり、それから人々の避難が始まっていった。

 ただし日本とチェルノブイリは違う。

 まず第一に食品の汚染レベルが違う。日本の方がずっと低いのだ。大きな影響を及ぼすセシウムでは、雲母系の岩石から作られた粘土層に触れると取り込まれ、外に出にくくなる。チェルノブイリの土地が「ポドソル土」と呼ばれる風化の進んだ土壌であったのに対し、日本の火山が作る新しい土壌がセシウムを閉じ込めているおかげだろう。

 第二に汚染が濃縮される肉や牛乳の消費量が違う。日本は伝統的に野菜や発酵食品を食べてきた。これもまた体内の放射能を体外に排出させる「キレート効果」を持っている。

 しかし、それでも放射能を濃縮する食品もある。キノコ類、山菜、野生動物、川魚や海の底魚だ。例外的に放射能が高くなるものに、大豆、ソバ、レンコンなどもある。それらは残念ながら高い汚染となっている。

 ところがその人は言葉をさえぎって言うのだ。

「じゃ福島に住むなと言うのか」と。
「福島に住んでいないから言えるんだ、事情を知らない外部の勝手な意見だ」と。


 放射能の被害は、福島に住んでいるいないに関係なく襲う。その物理的な法則性は、どんな思いを持っていようが関わりなく届く。もし福島に住み続けるなら、まず第一に食べ物に気をつけ、第二に被ばくを避ける努力が欠かせない。だからといって安心になるわけではない。

 放射線と被害の発生は確率論なのだ。一定の被ばくをした人たちには、一定の被害が必ず発生するからだ。その中の一人は一切発症しないかもしれないが、全体でみると一定数が必ず病気になる。


 第三に内部被ばくを抑えるために、体外に早く排出させる食べ物を選択するのがいい。キレート効果としては食物繊維が高く、一方で病気を抑え込むには抗酸化物質を多く含む食物を摂るのがいい。

 病気になる確率は、被ばくした量に比例して多くなる。特に内部被ばくは大きな影響を与えるので、きちんと対策することが必要だ。ところが今さら人の意見を聞きたくない人たちは、「風評被害」と「よそ者」の言葉ばかり並べる。しかし来年は7年目だ。統計が正しかったかどうかはその時点で検証される。そこに居続ける大人はいいが、子どもたちには選択の余地がない。

 福島から自主避難した友人は教えてくれた。今や病院で処方される薬剤は、すでに変化していると。切迫流産を防ぐ薬の処方は従来よりずっと多くなったそうだ。そして心臓病は今や珍しくなくなったと。そう言われて調べてみた。従来から全国平均と比べて多かった心筋梗塞は、全国平均の1.9 倍から2.5倍まで増えている。もちろん全国一の高さだ。

 ぼくはその人に静かに答えるしかなかった。
「その人次第です」と。


2016.3.24発行 ※「未来バンク事業組合ニュースレター」より抜粋


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