2015年6月4日

『原発事故から5年、私たちはどこまで愚かにされるのか』

田中優無料メルマガ 3/25発行・第423号より


□◆ 田中 優 より ◇■□■□


『 原発事故から5年、私たちはどこまで愚かにされるのか 』


あれから4年過ぎ…

 あり得ないはずの原発事故が人々を戦慄させて、はや4年経つ。首相の「コン
トロール下にある」という言葉とは裏腹に、新たに隠されていた汚染隠しが噴出
した。

 これまで隠されていた「K排水路」から、とんでもない量の放射能汚染が垂れ
流され続けていたのだ。放射性物質を環境中に出す際の制限値である「告示濃度」
の数十倍の濃度だというが、そもそも測定したのが排水そのものでなく周囲の海
水の調査だった。どれだけの汚染かわからず、流出した総量も明らかにされない。


 本当のところが知らされない。事故を起こした本人が測定をし、客観的にする
仕組みもない。国自体が口では「一歩前に出る」と言うが、事故から4年経った
今でもどこにも責任を取る主体がいない。口でばかり勇ましいことを言いながら、
事態を理解するだけの知性がないのか解決策のひとつもない。

 しかも東電にとっては、今回の流出には責任がないと思っている。そもそも事
故は天災が引き起こしたものだから東電に責任はなく、その時点で各地に降り注
いだ放射能は「無主物(所有者のないモノ)」であり、東電の知るところではな
いと考えている。

 今回「K排水路」から漏れ出した放射能は新たなものではなく、事故時に空中
に放出したものだから、その後どこをどう通って海に流出しようが東電の管理責
任はないと考えている。新たな箇所から放射能を流すのは問題だが、すでに降り
注いでしまった放射能は自分のせいではないと考えているのだ。彼らは「K排水
路をたまたま調べたことが不運だった」ように話している。いわき市の漁協が
「信頼に対する裏切りだ」と怒ったが、怒るのが面倒になるほど彼らは責任を感
じていない。

 すべては天災のせいで、彼らこそが被害者だと言わんばかりの意識なのだ。
見渡す限りの無責任体制で、将来を楽観する人の方がどうかしている。


過剰診断のウソ

 事故の後に調べた甲状腺の検査では、異常が出ても「まだ発生する時期ではな
い、過剰に診断したから将来の甲状腺がんを見つけてしまっただけだ」と御用医
師たちは述べた。

 それから3年経って調べると、前回は問題なかったはずの子どもにも異常が見
つかった。すると今度は御用医師たちの過剰な治療のせいではないかと疑われた。
御用医師たちはそれでも原発事故時のヨウ素流出との関連はないと言い続ける。

 そして原発事故との関連でないとすれば、御用医師たちの過剰診断・手術のせ
いではないかという板挟みに遭っている。名誉なのか地位なのかカネなのか、何
のために放射能被害と認めずにいるのだろうか。


 しかしなぜか「甲状腺がん・疑い」は、二本松市周辺などヨウ素の高汚染地域
に高くなっている。それだけではない。「ふくしま共同診療所」の発表によれば、
事故前の福島県内の小児甲状腺がんの報告数は、年に1人いるかどうかだったのに、
今年の発表数ではがん確定が86人に増加している。

 他の各種病気も増加傾向で、被ばく症状に認められている白内障は倍増、脳腫
瘍や血液関連の病気も150%以上に増加している。その傾向は東京なども同じで、
該当疾病数は各地で最多を更新している。

 「過剰な診断」が高汚染地域にだけ起こるということが、考えられるだろうか。


 チェルノブイリ原発事故から事態を注視してきた側からすると、こうした被ば
くによる疾病の増加は十分に起こり得る。しかし正直まだ早い。ぼくの予測では
2016年後半から爆発的に増え、2017年には汚染地域のほとんどの人が循環器系の
疾病で正常値を超え、他の疾病数も増加するだろうと思う。

 早い時期から発生している可能性として、放射性物質の放出量が大きいか、
安全キャンペーンが強すぎて人々が汚染食品を食べて内部被ばくしているかが考
えられる。日本では、体の内と外から悪い状況が襲ってきているせいではないか。


墜落する飛行機の中で

 今の現実はまるでフェイク(ニセモノ)だ。私たちは今、真っ逆さまに落ちて
いく飛行機に乗っているようだ。しかし乗客は慣れたふりをしながら、危機を無
視しようとしている。「飛行機が墜落するぞ」と叫んで機長を起こすか、交代さ
せなければいけない。

 しかし乗客のある人はカネを数え、名刺の肩書にうっとりし、勲章の数を数え
ている。あなたの隣に座っている子どもが死ぬかもしれないのに。機長はアナウ
ンスする。「私を信じていれば大丈夫です、揺れても心配ない」と。一部の乗客
は威勢良く叫ぶ。「もし落ちたら機長を八つ裂きにしてやるぞ!」と。

 しかし今必要なのは、自分たちの状況を理解し、すべきこと、できることを
することだ。


 津波が原因とされる事故だが、津波が届く前に放射能漏れが起きていた。事故
以前の被ばく上限量は年間1ミリシーベルトまでだったのに、今や20ミリシーベ
ルトの場所にすら人々を帰還させようとしている。その被ばく量は、18才未満は
入室も許されないレントゲン技師の年間被ばく制限量の4倍だ。

 事故の原因調査も進まないのに原発を再稼働しようとしている。「今度は事故
は起こらない」と新たな神話を信じさせようと。

 「放射脳」だの「放射能フォビア(恐怖症)」だのと揶揄されたからといって
考えるのをやめてはいけない。これは私たちの子や孫、将来世代への責任なのだ。

 ぼく自身は確信している。被害は来年末頃から明瞭になっていくだろう。正誤
の判断はそのときでいいが、ひとつだけ問題が残る。その時点からでは間に合わ
ないことが今よりさらに増えてしまっている点だ。


 人は目の前に大きな悩みがあると、その先のことが考えられなくなる。雨なの
に傘がないことの方が、自殺する若者の増加より重要に思えるのだ。だからメデ
ィアは傘がないことを訴える。しかし誰かの離婚やスキャンダルが問題ではない
のだ。

 ずっと重要なのは、今乗っている飛行機の状態だ。私たちはこのまま墜落して
しまうのだろうか。冷静に見つめる目が求められている。


( 川崎市職員労働組合様へ寄稿したものを、好意を得て転載しています。)