2009年11月17日

低成長時代は、非営利バンクの時代だ


□◆ 田中 優 より ◇■□■□◆◇◆◇■□■□


低成長時代は、非営利バンクの時代だ


現在の経済成長

 来年版の「現代用語の基礎知識」の執筆をした。その中に、「デ・グロウス」という言葉を入れた。これは成長(グロウス)の否定形で、成長が見込めない時代、すなわち低成長の時代を指す言葉だ。この言葉が世界の中に浸透しつつある。

 それは現実のことでもある。グラフを見てほしい。日本の1991年から2008年までの経済成長率は、なんと平均が1.0%でしかない。1974年から1990年までの成長率平均が4.2%、それ以前の1956年から1973年までの成長率平均が9.1%もあったことと見比べると、いかに成長しない時代になっているかがわかる。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4400.html



 経済成長率が1%しかないのだから、平均的な企業の収益率も1%しか伸びていないことになる。しかし金利はどうだろう。その企業が5%の金利で融資を受けていたとすると、毎年4%ずつ損をすることになる。そこで銀行の状態を見てみよう。グラフは銀行の不良債権率を描いたものだ。減りつつあるとはいえ、大手銀行で1.8%、地域銀行で4%も不良債権がある。つまり返済できずにつぶれてしまった企業、もしくはその予備軍の不良債権だ。さらに銀行は融資するのに職員の給与などの経費が必要になる。最低でも1%は必要になるだろう。すると大手で計2.8%、地域銀行では5%の金利が必要になる。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2008/1212nk/pdf/08-2-2.pdf

企業は最大でも1%の金利にしか耐えられないのに、銀行側も融資金利が2.8%から5%の金利でなければ耐えられない。この金利で融資を受ければ、倒産は時間の問題になってしまうではないか。まして今流行の「社会的事業」ではどうなるだろうか。社会的事業は儲けのためではない、社会的に有用な事業をするのだから、なおのこと収益率が低いだろう。つまり自己資本でしない限り、長続きはしないということになる。

しかしNPO法は出資を禁止している。寄付だけだ。寄付が集まるなら苦労はしないが、実際には寄付を当てにできないのだから融資を受ける。つまりNPOでは経営は困難になるのだ。


社会的事業に融資するには

 低成長時代の未来のためには、どうしても金利を稼がなくていい金融機関が必要だ。その役割を果たすのが「非営利バンク」になると思う。私たちのような非営利バンクを、今は「NPOバンク」と呼んでいるが、この仕組みが不可欠になる。しかしそれにしてもわずか1%で融資することはできない。どうすべきだろうか。アメリカ・ヨーロッパでは、そうした「社会的事業」を守るために、出資者に税額控除を認めた。たとえば社会的事業者に10万円出資した場合、毎年1万円ずつ、5年間税金が控除される仕組みだ。事業がうまくいけば10万円出資しても全額戻る上に、さらに税額が1万円ずつ5年間安くなることになるから、5万円得することができる。こんな仕組みをNPOバンクを通じて実現できれば、きわめて低い金利で社会的事業者に融資することができるだろう。

 銀行にもできそうだが、社会的事業の必要性を見極めたり、低収益の事業の持続可能性を計るノウハウを持っていない。ぼくはこうした仕組みに対応できるのは、現時点でNPOバンクしかないと思う。

 実はNPOバンク連絡会のメンバーたちは、このような「社会的事業融資のための出資の税控除」の 仕組みを政府に提案している。時代は大きく舵を取るように変化した。その変化に対応できる仕組みがない。低成長の時代には、私たちのような非営利バンクが主流にならなければならないと思うのだ。