2016年1月29日

『 フランスのテロ、ロシア機撃墜と石油利権 』

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田中優の“持続する志”

優さんメルマガ 第492号
2015.12.25発行
http://www.mag2.com/m/0000251633.html

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□◆ 田中 優 より ◇■□■□◆◇◆◇■


『 フランスのテロ、ロシア機撃墜と石油利権 』


■不可思議な二つの事件

 11月13日、フランスで起きたテロ事件には奇妙な点がある。偽造パスポートが現場
に落ちていたこと、フランス政府が即座にISによるテロと断定し、シリア領内のIS基
地を爆撃し始めたことだ。

 刑事事件なら証拠を固めて容疑者を捕まえて尋問し、有罪判決を下してから刑を執
行するのに、二日後にはシリアのIS支配地域を爆撃している。容疑者と思われる人た
ちはほぼ全員が射殺され、死人に口なし状態となっている。フランス政府はどんなに
乱暴なことををしてでも、スピード解決したいようだ。


 続いて11月25日にはトルコがロシア機を領空侵犯をした国籍不明の軍用機として撃
墜した。国籍不明ではない。誰だってロシアの軍用機だとわかるし、撃墜した場所も
シリアとトルコが半島状に入り組んだ場所で、シリア領空を侵犯したと言っても二回
合計で17秒間にすぎない。撃墜されたのもシリア領内1キロ、墜落した場所もシリア
領内4キロだ。


 それなのになぜ爆撃したのか。一連の流れだけ見ていると、何が起きたのかさっぱ
りわからないだろう。

 それを今回読み解いてみたい。もし近くに世界地図があるなら、地図を見ながら地
域を押さえた方がわかりやすいかもしれない。


■ISの強さの秘密は石油の密輸出



 ISというテロリストグループが、なぜこれほどの力を持つことができたのか。それ
はイラク北部とシリアの原油を奪い、密輸出しているおかげだ。豊富にある原油を密
輸することで膨大な資金を稼ぎ、その資金力で兵器や物資を調達し、これだけの影響
力を持った。原油の密輸出をこれほど大掛かりにできたのは、それに協力する国があ
ったおかげだ。ロシアが調査した結果、先進国を含む20カ国ほどが関わっていたと発
表している。その中で最大に貢献していたと思われるのがトルコだった。

 トルコはシリアと国境を接しながら、長らくシリアと敵対している。シリア反政府
軍のひとつであるISからの密輸出に関わっているとされるのが、トルコのBZN社、
現在のエルドアン・トルコ大統領の息子が所有している会社だ。


 同社がトルコの石油輸出基地である「ジェイハン」からタンカーでイスラエルに運
び出し、イスラエルが偽造書類をつけて他国に売りさばくという流れだ。密輸石油の
価格は通常レートより安いから、各国の石油会社は喜んで恩恵に預かることにした。
おそらくアメリカもそのメンバーか、もしくはイスラエル・トルコとの関係でIS側に
協力してきた仲間だろう。アメリカがISへの攻撃をしていた間、ちっともISの壊滅に
役立たなかったのに、ロシアがIS基地の爆撃を始めた途端に、ISはほぼ壊滅状態にな
ったのだ。

 どう考えてもアメリカはサボタージュしていたとしか思えない。こうしてISは、
各国の生命線である石油取引を通じて大国とつながりを持っていた。


 さらにトルコは、地理的に重要な位置を占めている。現在はアゼルバイジャンの所
有となっている元ロシアの巨大なバクー油田からの石油は、地中海東部沿岸にパイプ
ラインで運ばれてくる。その港こそが先ほどの「ジェイハン」なのだ。カスピ海沿岸
やロシアの石油をヨーロッパに出すとすれば、トルコを経由するしかない。地中海東
部沿岸は「エネルギー回廊」と呼ばれ、北からの石油、南からの天然ガスの輸出基地
なのだ。

 トルコは石油運搬のボトルネックに位置する国だからこそ、国力の割に大きな地位
を占めているのだと思う。そのトルコ大統領の息子のビジネスの邪魔をするのがロシ
アだったからこそ、ばかげた撃墜をしたのだろう。


■石油を持たないISは不要だ


 シリアの石油の確認埋蔵量自体は大きなものではない。しかし毎年の採掘量が少な
いために、可採年数はまだ122年分もある。加えて今年、シリア領の「ゴラン高原」
というイスラエルに占領されている地域に、巨大な油田が見つかった。埋蔵量は膨大
と見られており、すでにその採掘権はブッシュ政権時代のチェイニー・元アメリカ副
大統領の会社が手に入れているという。


 シリアは未確認の油田が見つかる可能性が大きい。この石油を手にするには、今の
アサド・シリア大統領の強権が邪魔になる。石油をめぐって紛争地となった国々は、
その後ほとんどの地域がイラクのように混乱した無政府状況になっている。その方が
混乱に乗じて資源を漁るには適しているからだ。アメリカやEUがシリアの反政府勢
力に軍事支援をし、アサド大統領を追い出そうと画策してきたのはこのためだろう、
その反政府勢力の最も大きなものがISなのだが、アメリカが支持してきた反政府勢力
は別なグループだと言い続けてきた。


 この政府と反政府勢力との争いで、シリアは安全に暮らせる場所ではなくなった。
おかげで人々は難民と化して流出しなければならなくなった。ところが反政府軍を支
援している隣国トルコは、難民を支援するどころか、次々とEUへと流出させた。
おかげでEU諸国は難民支援に手を焼いているのだ。

 もともとはEUも、アメリカやトルコとともにシリアのアサド政権に敵対してきた。
しかしロシアがIS潰しに参戦し、たちどころに主要な基地を叩き潰した。特に大きい
のが石油基地だ。そのほとんどを爆撃してしまったから、ISは資金源を失い、隠れて
支援してきた国にとっても利益にはならなくなった。ISは風前のともし火となり、
このまま隠れて支援し続けるには不都合な状況になった。ロシアが本気である以上、
シリアはアサド大統領の下、安定に向かうだろう。安定すればEUは難民問題から逃
れることができる。


 状況から見ると、このロシアが爆撃を始めたタイミングで勝ち組に乗らないとまず
い。そしてフランスに不自然なテロ事件が起こり、翌々日にはIS爆撃側に加わり、各
国も見習ったようにIS撲滅に参加した。IS、トルコ、イスラエルが見捨てられ、ロシ
アやシリア側についたということだ。その儀式としてテロ事件が誘発されたように見
える。


 石油をめぐる資源戦争が、この間のわかりにくい事件の真相にあるのだと思っている。


( 川崎市職員労働組合様へ寄稿したものを、好意を得て転載しています。)




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