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田中優の“持続する志”
優さんメルマガ
第366号
2014.9.16発行
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※このメルマガは転送転載、大歓迎です。
□◆ 田中 優 より ◇■□■□
「なぜ水素に期待しないのか」について書きました。
とてもとても長いですが以下に続きます。
先週、フェイスブックにて「ぼく自身は水素には期待していない派です」と
「R水素(RはRenewable)」の運動を進めている江原春義さんから「水素の広が
らない理由は本当に本当に沢山あるのですが、その一つにはこのような誤解の
流布もあるかと思います。これはいい機会ですので、皆さんも一緒に勉強をして
みませんか?」ということで、HPに説明をいただいた。
あまりきつい反論もしたくなかったけれど、そのままにしておくのも誠意がない
ことだと思うので、逆の立場からの話をしたい。「」内は元の本からの引用だ。
元の本は小澤祥司著の岩波新書「エネルギーを選びなおす」によるものだ。
燃料電池自動車の影が薄くなった。10年前に発表された経産省の「燃料電池戦略
研究会」の報告では、2010年には5万台の燃料電池車が走っていることになってい
た。もちろん、現在市販されている燃料電池車はない。」
に対しては、
「水素はすでにさまざまなところで使われています。…一般家庭の7万5千軒にエネ
ファームが導入されていますが、これも天然ガスやプロパンから水素を取り出す
水素発電です。…水素ステーションは国内で17カ所、世界には200カ所以上ありま
すが(これらも化石燃料から水素をとりだしています--つまり「R水素」ではな
い)。
TOYOTAやHONDAなどの大手自動車会社が2015年から量産販売する水素燃料電池車に
伴い、国内においても100カ所の水素ステーションが設置されます。これらも化石
燃料からとりだす水素が利用されます。
と書かれている。
確かに水素利用がたくさん行われていることは事実だ。しかし元の論議は
「車の燃料電池の話」になっている。
自動車では水素が中心になることはないだろうとぼく自身は考えている。とい
うのは、江原さんによれば燃料電池は総合効率が「電気と廃熱を利用して80~85%」
としているが、電気に戻せるのは今のところ30%もなく、残りは熱となっているか
らだ。車の中でお湯を作られても使いようがない。お風呂付のリムジンでもない限
り、単なる排熱になる。
同じく江原さんの説明から引用すると
「直流から交流に変換する時のロスが5~10%。…1電気分解で約80%」になるとし
ているから、最初のエネルギーが100であったとして、90%×80%=72%、それに上記
の熱以外の発電効率30%を掛けると、21.6%になってしまう。これでは現状のハイブ
リッド車程度の効率であり、自然エネルギーを充電した自動車には遠く及ばないこ
とになる(通常の計算では、モーターのエネルギー効率を約90%と計算するので、
最初から自然エネルギーを利用した場合、直交変換に10%ロスするだけなので81%に
なる)。
もうひとつ大きな問題は、燃料電池を利用した場合、燃料電池そのものは急な出
力変動が苦手だという点だ。そのためホンダの燃料電池自動車は、スーパーキャパ
シタと呼ばれる超高性能な蓄電装置を積んでいた。急発進・急加速ができないため
(しかもさほど「急」でもない)、その分を瞬時に電気を貯めて瞬時に大量に発す
ることができるスーパーキャパシタに任せたのだ。
しかしそもそも電気を水素を経由しなくても、スーパーキャパシタに貯めた方が
いい。ところがスーパーキャパシタは大量生産されておらず、高い上に嵩張る。
最近ではエネルギー密度の高いものが開発されたが、未だ実用段階にない。
将来に期待するなら、スーパーキャパシタに期待した方が良いのではないだろう
か。それならほとんどロスなく蓄電し、自由自在に使うことができるからだ。
「R水素」であったとしても、電気をそのまま使う方法と、いったん水素に変換
して貯蔵し、さらに取り出して発電する余分なプロセスを経る方法では、結果は
おのずと明らかであるからだ。
「再生可能エネルギー→電気→水素→電気」という変換になる。電気から水素で
7割程度、水素から電気で理想的な5割の効率だとして、総合効率は35%。3分の2が
失われる。そのまま電気をバッテリーに貯めて使った方がいいことは誰の目にも明
らか。
これに対し江原さんは以下のように述べる。
「R水素サイクルの効率について説明します。仮に、自然エネルギー発電で【100】
の半分の【50】を直接電気で使ったとして、直流から交流に変換する時のロスが
5~10%。
残りの半分の【50】を、1電気分解で約80%、3水素を燃料電池にいれて電気と廃
熱を利用して80~85%、として概算で【35】(内電気は【20~25】)。合計すると、
R水素サイクルの総合効率は75%前後といえます。」
この数字の中では、自然エネルギーの半分は直接利用されるとして「50%」を別
枠にしている。その上で残りの50%だけを計算している。その結果、50%が20%~25
%だけ使えるから、最初に別枠にしていた50%に足して「75%前後」としているのだ。
普通は直接利用だから50%を別枠にするというような計算はしない。
我が家はオフグリッドして太陽光発電だけで自給しているが、同じ計算をした場
合、総合効率は残り50%を直交変換で10%ロスするだけだから45%、最初に別枠にした
50%に足して95%の効率であることになってしまう。熱は熱でペレットストーブを導
入しており、間もなく太陽温水器も導入するからほとんど足りてしまう。その方が
効率が高くて簡単な仕組みになる。
「水素の体積エネルギー密度はガソリンの3000分の1。逆に言えばガソリンタンク
並の容器に搭載するには、3000分の1に圧縮(あるいは液化)しなければならない。
そのためには極低温と超高圧を必要とし、大きなエネルギーを使うことになる。
ここでまた相当のエネルギーロスが生じる。」
これに対して江原さんは以下のように述べる。
ちょっと長いが有益な情報なのでそのまま紹介したい。
********引用ここから
「水素はそのままだと貯めるのにスペースを取りすぎてしまいます。そこで、コン
パクトに収納するための方法を2つ紹介します。
1高圧タンク
車の場合は狭い空間に、沢山の水素を積んでおきたい、例として東京~大阪の500
Kmですね。TOYOTAのタンクは700気圧の高圧です。
メリット:軽い。
課題:高圧ガス保安法の規制対象となり、タンク・取り扱う人員・設備にコストが
かかる。圧縮時にエネルギーロスが発生する。
2水素吸蔵合金
充電式電池のエネループと似たようなもので、10万回以上繰り返して使える水素乾
電池のようなものです。鉄は酸素を吸収して錆びるのですが、ある種の合金は常温、
常圧で水素ガスを吸収します。容器の体積の1000~1500倍以上の水素ガスを吸い込
んで、水素化合物(固体化)になるので安全性は高いです。コンパクトで高密度、
大容量の水素貯蔵可能です。水素を吸ったり出したりするので、繰り返し使えます。
燃料電池の熱を加えると、水素ガスが出てきます。
参考製品:水素吸蔵合金キャニスター
オーストラリアのグリフィス大学では、コチラを採用しています(下の写真)。
水を電気分解をしたときに7気圧発生するマシンがあり、そのまま水素吸蔵合金に
貯蔵ができるので、圧縮するためのエネルギーは必要ありません。
********引用ここまで
この水素吸蔵合金は画期的なものと思う。水素は元素記号で最も小さく、そのお
かげで貯蔵がきわめて困難だった。普通のボンベでは抜けてしまってダメで、これ
までは油を中間に入れたボンベで密封していたが、水素の腐食能力のせいで長く使
うことができなかったからだ。
しかしその水素を取り出したとして、その後に燃料電池まで運ぶルートはどうす
るのだろうか。水素は爆発性が高いので、下手に扱うこともできないし腐食性の問
題もあるままだ。さらにこのキャニスターの価格が問題だ。それがいかに良いもの
であったとしても、価格が高かったら自動車に使うことはできない。市場性がなか
ったとすれば実現には程遠いものになってしまう。
基本的にこうした検討は大切なことだと思う。しかしプロセスが長くなれば、否
応なしに効率は下がるのだ。「将来的に使える技術になるかどうか」が決め手だが、
少なくとも自動車では総合効率で見たように無理だと思う。次に家庭ではどうだろ
うか。家庭で使うエネルギー消費量は主要国の中で日本は最も少ない国である上に、
家庭のエネルギー消費では電気3に対してお湯1になっている。ところが燃料電池
では、今のところ電気1に対してお湯が3発生する状況になっている。エネルギー
のミスマッチを起こすのだ。
となると使えるとしたら膨大なお湯と電気を必要とする、工場などの産業利用に
なるだろう。それを家庭に導入すること自体に無理がある。
「水素は宇宙でもっとも軽くて小さい物質で、極微少な空隙であっても通り抜けて
しまう。もし天然ガスやガソリンのようにパイプラインを使ったら、大量の水素が
大気中に漏れ出るだろう。それどころか水素は大気圏を突き抜けて宇宙空間に拡散
してしまう。水から取り出した水素が地球上から失われていくというの
は、考えた
だけでも恐ろしい。もし本格的な水素社会になったら、海が後退し、砂漠化が進む
ことになるかもしれない。生物は水がなければ生きていけない。」
これに対し江原さんは以下のように述べている。
「水素を40年間研究なさってきた山根公高さん(元
東京都市大学准教授)からの
回答(2011/02/16)を紹介します。
"物質には、万有引力という力が作用していて、必ず引き合ってよほどのエネル
ギーがない限り、地球引力圏から脱出することはできません。ロケットで人工衛
星を打ち上げて地球周りに周回させる場合でもその脱出速度は、11.2km/秒
の速度がないと地球を脱出できません。よって、地上で漏れた水素は、その浮力
である高さまで上昇しますが、11.2km/秒の脱出速度を持つ運動エネルギー
は持っていませんので、地球の高い大気圏内にところにとどまっています。
酸素と反応して、水となるかもしれません。また、フロンが光で分解してふら
ふらしている塩素と手を結んで塩酸になっているかもしれませんね。どのような
状態になるのでしょうか。小生にはわかりません。
しかし、空に上っていった水素は地球脱出できるほど大きい運動エネルギーを
もっていませんので、途中でふわふわ大気圏中を浮いているのでしょう。太陽光な
どで科学反応が起きて重くなって、地表に降りてきているのではないでしょうか。
調査してみてください。”」と。
しかしWikipediaには以下のように書かれている。
「宇宙空間に散逸する地球の大気は少ないが、それでも
1 秒あたり水素が 3 kg、
ヘリウムが 50 g
ずつ放出されている。」と。
毎秒3Kgだから1分で180Kg、1時間で10.8t、年間では9万4608tが宇宙空間に
散逸していることになる。これが多いかどうか知らないし、それが本当に問題なの
かどうかも知らない。この4.の点は不明だが、少なくとも山根公高さんの見解と
は異なっている。
総じていうなら、R水素利用は自然エネルギーの利用を、いったん水素にして保
存するものだ。電気のままではないが、機能としてはバッテリーと競合する。そこ
からのプロセスが長くなるのが水素の側なのだ。その分だけ効率が下がるのは避け
られないだろう。
図も示しておこう。水素・燃料電池実証プロジェクト(JHFC)の「平成22年度
JHFC国際セミナー」で、東京大学名誉教授の石谷久氏が「総合効率とGreen
House
Gas排出の分析」と題した講演で比較した各種の自動車の効率だ。
p37を参照。
もうひとつ、バッテリーの廃棄物としての問題や価格の問題もあるのは事実だ。
日本で生まれた元東芝技術者の岡村廸夫氏のスーパーキャパシタ(電気二重層コ
ンデンサ)は、中身に炭とアルミ、有害物質を使っておらず、寿命も物理的限界
まで使える。
また、ソニー製のリチウムイオンバッテリーは1万サイクル使えるので、底まで
使い切らなければ相当長く使える。リチウムが希少金属だから未来がないと言われ
ることがあるが、リチウムを使わない『リチウムイオン電池?』もあり、その金属
の組み合わせには数百通りあるので、必ずしもリチウムでなければならないもので
はない。
鉛バッテリーについても、元東北大学教授小澤博士によって開発された
「ITE」の技術によって大きく塗り替わっている。これはこれまで寿命となっ
ていた鉛バッテリーの電極につくサビを、延命剤を投入することで再生してしま
う仕組みだ。今のところどこまで使えるかわからないほど再生できている。車で
はバッテリーの再生不可能になる以前に、自動車そのものの寿命が先に来てしま
っているためだ。
このような技術がある中で、プロセスを長くしてしまう「R水素利用」に、
ぼくは期待をしていないのだ。