2019年10月30日

現実は「二重、三重のフェイク」

 東京電力福島第一原発事故を巡って、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東京電力の旧役員に対しての裁判で、東京地裁は無罪判決を言い渡した。判決は旧経営陣が津波に対策を取らなかったこと、引いては事故回避ができたかどうかが論点となった。


 裁判の経過を知っていればわかるが、実は国から今回とほぼ同じレベルの津波が起き得ることの確証は得られていた。ところが当時、新潟中越沖地震の被害によりもう一つの柏崎刈羽原発は停止しており、さらに福島原発までも停めて改修するのは経営的に大きなダメージになる。


 それを恐れて津波を過小評価したい東電経営陣は、仲間の土木学会に再調査させることにして時間稼ぎをしようとしたことがわかっている。それでも「無罪」だった。結論先にありきで、何があろうと「政財界の大物は有罪にできない」ということだった。日本に三件分立はなく、内閣という行政の中心がすべて決めていいという独裁政治体制を示す結果だった。関電の収賄事件もまた同じように無罪にされそうだ。  

 東電無罪判決は「三権分立」を知っていれば、独立していない裁判所に誰もが腹立たしく思うだろう。しかし、それ以前に大きなフェイクがあるのだ。

それが
「津波の届く前に、核燃料が暴走していた」ことだ。


 津波が非常用電源を押し流した映像を見たりすれば、誰もが津波の破壊力を脅威に思うし、そのせいで原発事故が起きたのだと思うだろう。確かにそのせいでも事故は致命的になったのだが、実際の事故の経過はもう一段複雑だった。  

 事故を起こしたのは冷却水を失ってメルトダウンしたのだが、そのメルトダウンの前に、小さな燃料棒の上部が泡だらけになり、部分的に冷やすこができなくなって、部分的に冷却水を失う状況、「ドライアウト」を起こしていたようなのだ。  


 原子力の専門家なら「ドライアウト」の深刻さはわかるはずだ。燃料棒は何もかもを溶かすほどの高熱になるもので、絶えず水に触れて冷却し続けていなければならない。ところが湧いたやかんの中を見てほしい。沸騰して泡立っていて、その泡の部分は水が触れていない。これが「ドライアウト」だ。

 やかん程度なら大丈夫だが、相手は核燃料だ。チェルノブイリですら爆発まで数秒だった。このドライアウトが地震の直後に起こり、さらに冷却水漏れが起きたようで水量が減少していた。地震直後の一分半の時点で、部分的にはメルトダウンの状態になっていたのだ。  

 この地震直後に炉内が「元の流量に戻らなかったこと」はとりわけ重大だ。
原発は事故があった時に安全側に傾く(これを「フェイルセーフ」という)ように設計されていて、本来動力が失われても、自然に10%ほどの流れは維持されるはずだった。それだけで最大熱量の半分を取り除けるのだから、もしかするとメルトダウンしなかったかもしれない。


 ところが実際の計器のデータでは、地震後一分半ほどで全く流れが止まっていた。設計の「フェイルセーフ」が機能しなかったのだ。このことは元東電職員の炉心屋であった木村俊雄さんが文芸春秋9月号の中で詳しく書いている。その重要な流量計のデータを添付したい(図)。  

図 


 ということは、津波が来なくてもメルトダウンが不可避だという重要な事実を示唆する。ところが今回の判決は「津波の予見性」に集中している。


 「政府」を始め、「東電」「民間」「国会」の事故調査委員会が、津波を原因としてしまっているためだ。  


 だから津波を防ぐ「防潮堤」を建設していれば原発事故は起こらないとして、政府は再稼働まで許してしまっている。全然話が違う。そんなところに事故原因は隠れていないのだ。

 原因は「ドライアウト」にあり、設計通りに炉心を冷却水が循環しなかったことにあるのだ。おそらく流量を失わせたのは流量の計測するための小さな流量計につながるパイプが、小さな破断を起こしたことにある。

 これは「小さく重要な設備」ではないからと、強度の低い配管で外部である原子炉建屋とつながれていた。現に当日は稼働していなかった四号炉の流量計配管が破断しているのが見つかっている。小さな破断だが、原子炉の冷却水は70気圧270℃に保たれている。それが一気圧の原子炉建屋に吹き出したのだ。



 核燃料を含んで汚染された冷却水が、水滴にすらなれない熱さで吹き出したからこそ、東電の作業員は夕方5時半の時点で原子炉建屋にすら放射能汚染度が高くて入れなかったのだ。  

 それ以前にチェルノブイリ原発事故でも、ロシアのスパイ機関(KGB)が原発事故の12秒前に起きた、地震のデータを極秘にして隠している(デンマーク国営放送が作成した「チェルノブイリ 隠された事実」にある。「youtube」で見ることができる) 。 


チェルノブイリ原発 隠されていた事実 1/2 1997
https://youtu.be/OgpKmk3mrEI

チェルノブイリ原発 隠されていた事実 2/2 1997
https://youtu.be/8-puEWgy_ZY


 地震と爆発の時点の関係では、時計がくるっていたことまで理由にされている。
これはクオーツ式の時計で、事故の一時間ほど前に合わせてばかりなのに。  


 原発は異常に地震に弱いのではないか。それが知られると不都合だったのですべて隠されてきた。しかしこの日本は世界の二割の地震が起こる国だ。知らされてこなかったのではないか。  


 私たちが知らされてきたのは「フェイクニュース」ではないか。しかも玉ねぎの皮のように幾重にも重ねられたフェイクだ。地球温暖化問題で、スウェーデンの環境活動家の16歳のグレタ・トゥンベリさんのスピーチが脚光を浴びている。
私はそれを正しいと思うし、関心もしている。


 しかし学ぶべき点は、フェイクをフェイクであると言い、自ら騙されようとはしない点だと思う。グレタさんでなければある程度のところで、「まぁまぁ」と言うだろう。しかし彼女は自分の未来のことだから、妥協せずに怒るのだ。その姿を見ていると、大人ぶって妥協する私たちと大人の態度に腹が立つのだ。




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★田中優 有料・活動支援版メルマガ 2019.9.30発行
 
「津波がなくてもフクイチ(福島第一原発)は地震でメルトダウンしていた!」

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https://www.mag2.com/archives/0001363131/2019/9



また、2013年10月12日の田中優ブログでも取り上げています

【事故は津波ではなく地震で起こった 】
https://tanakayu.blogspot.com/2013/10/blog-post_8475.html



こちらの動画もご参考ください

メルトダウンは津波ではなく地震で引き起こされた!1/2 (2013/10/04 )
http://www.ustream.tv/recorded/39736493


メルトダウンは津波ではなく地震で引き起こされた!2/2 (2013/10/04)
http://www.ustream.tv/recorded/39737375