天然住宅バンクで「コモンズ(共有)の森」をつくろう!
田中 優です。
あけましておめでとうございます。
年末は二回も連続して宮城県栗駒にある「栗駒木材」と、その管理する「エコラの森」に出かけたので、メールに追いつくのもやっとという状況でした。そして年間で一番余裕のある年末年始を迎えました!
そこで今年始めようと思っていることを書こうと思います。
「エコラの森」とは
エコラというのは「エコ」を怪獣的に表現したもの。栗駒木材の大場さん、白鳥さんたちのネーミング。エコラの森の広さは260ヘクタール、現場でも「あっちの高い山から、こちら側は見えないけど、見えている山の二つ向こうの山まで」という広さ。ここを栗駒木材さんが買った。栗駒木材だって経営も厳しいし、その山自体は「盗伐」されていて良い木材が少ない。でも買い取った。バブルの時代、「リゾートだ、観光ホテルだ」と踊らされて買った会社がつぶれ、その債権者が盗伐に入って森を壊した。この山は一時、「泥棒山」と呼ばれていた。次に転売されそうになったのが産業廃棄物の業者。山をごみで埋めるつもりだ。下流には由緒ある「川渡(かわたび)温泉」があるのに。その上流に産廃処分場だ。ここに至って栗駒木材は購入を決めた。経営的にはムダだが、次の世代に残さなくてはいけないと。それを今、「エコラの森」というNPOを設立して、間伐・植林している。
「栗駒木材」
天然住宅の木材は、栗駒木材からのものだけを使っている。大場さんたちの人柄の誠実さもそうだが、ここからの木材しか使えない事情がある。まず木材はくん煙乾燥させるが、本物のくん煙乾燥ができる場所がない。しかもくん煙するのに全部木材の端材だけを使うところは絶無だ。わずかでも接着剤が使われている木材は燃料にも使わない。栗駒木材には人体に悪い素材そのものが置いてない。10日間くん煙乾燥させた後に、三カ月天然乾燥させる。ここまでする材木屋は他に存在しない。
天然住宅は栗駒木材に、「仕口・継ぎ手」と呼ばれる複雑な木材の掘り込みを依頼する。伝統建築の住宅は強い。その秘訣は木材を組むことだ。木材は面で組めば強いが、金属などで点で留めれば弱くなる。それをお願いするのだから高く買う。栗駒木材さんに聞いてみた。「こうしたことのできる材木屋さんを他に知ってますか」と。答えは「知らないけど、ウチが成功すれば真似するところは出てくると思う」というものだった。
「コモンズの森」をつくる
この「エコラの森」を全面的にバックアップしたい。そこで考えたのが「森の買取り」だ。コペンハーゲンでのCOP15ではっきりしたのは、結局国に任せているだけでは解決しないということだ。ならば自分たちで解決したい。
「ナショナルトラスト」同様に、自分たちで森を買ってしまいたい。「エコラの森」は取得時8000万円だから、買えない値段ではない。所有者である栗駒木材に融資して、天然住宅バンクで森に担保をつけたらどうだろう。このカネを無利子・長期で栗駒木材に融資する。万が一、栗駒木材が倒産したとしても守られるように、仮登記担保する。森の所有権がバラバラにならないようにするのだ。ただし限られた場合にだけ、他の人に譲れるようにしよう。たとえば100坪で5万円でどうだろう。あなたの出資額5万円が、「エコラの森」の100坪になる。もちろんその土地を自分のために開発することはできない。あくまで森のままの共同所有、いうならば共有地(コモンズ)としての管理(正しく法律的に言えば「買う」のではなく「融資して、森を担保する」仕組み)だ。
メリットは自分たちの山があるということだけ。普段の管理はこれまで通り栗駒木材さんにしてもらう。それを融資金利に換算したら金利より高くなる。だから無利子で融資しよう。その代わり間伐ができる。保養施設に安く滞在できる。森の一部は伐採して販売する(経済林にするのが妥当な部分)ことになるから、天然住宅で建てるときには、自分で木を選んで使えるようにしよう。
「皮むき間伐」
間伐体験も楽しい。今回は小さなノコギリで伐採したが、今年からは「皮むき間伐」を開始する。これなら楽しみながら、楽に間伐できる。スギは初夏から夏までの時期だけ、皮が簡単にむける。間伐する木の皮を下から上に、可能な限りの高さまでむいてしまう。すると活動しているのは木の周囲の細胞だけだから、木は枯れる。枯れるとその分だけ光が入るので、間伐の効果を達成する。皮をむかれた木はそのまま一年、立ったままで乾燥する。葉がついたままなので「葉枯らし」同様に美しい木材になる。それを一年後に大人が伐採しに来るのだ。
そうすると間伐作業は簡単で、危険ではないから子どもたちと一緒にやれる。伐採する時にだけ職人が来れば足りるから、人件費が安くなる。しかも木材は一年間乾燥しているから、重さは約三分の一以下になっているし、その後の乾燥も簡単になる。何より天然乾燥するためのスペースがいらなくなる。ペレットや薪にする場合も、一年間乾燥させてあるからすぐに使える。これで画期的に経費が安上がりになるはずだ。これにも参加できることにしよう。春先には山菜、夏場にはカブトムシ、秋には栗やキノコ、冬には温泉がある。近くには「くりこま自然学校」もあるし、春夏秋冬楽しめる場所になるだろう。これを実現したい。
楽しみだと思わないか? こんな画期的な方法はかつてなかった。市民の非営利バンクを持っているからできるし、信頼し合える多くの人たちが集うから現実化できる。栗駒木材の周辺では、山の売却の話があれば当然彼らの耳に入ってくる。それを買い取ることで、さらに「コモンズの森」を広げていくこともできる。ぼくの夢は、日本最大の山主に、天然住宅バンクがなることだ。そうすれば山が無益な開発や、投資対象にならずにすむ。二酸化炭素を固定して、温暖化も防止できる仕組みが作れる。
こんなことを始めたいのだ。どうだろうか。