2012年5月15日

田中優より 「それでも未来に憧れる」


昨日、約 7,300人の方へ田中優無料メルマガを発行いたしました!
今回も優さんらしく“それでもあきらめない、解決策を探し続ける”姿勢が
良く出ている文章です。

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田中優の“持続する志”

優さんメルマガ 第127号
2012.5.14発行

※このメルマガは転送転載、大歓迎です。

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◇■ 田中優より ■◇
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『それでも未来に憧れる』


「ふきのとう」

 北国の冬はさびしい。無彩色の水墨画のような風景、しんしんと降る雪、
雪が音を吸い込んでしまうために夜は無音になる。長い冬が終わると感じる
のは、雪解けの合間に絵具をそのまま置いたような鮮やかな黄緑を見たときだ。

 ふきのとうだ。土の黒と雪の白の合間に芽吹く命の色だ。ここから始まる
命の季節の始まりを告げる。ぼくは胸が熱くなる。ふきのとうの緑は心を
揺さぶり、うれしくなると同時に食べてみたくなる。あのほろ苦い味も、
鮮やかな香りも、命の息吹そのもののようだ。

 4月に宮城の「エコラの森」に行った。やっと始まった木々が育つ季節、
少し早いが皮むき間伐のシーズン到来だ。ぼくは保養所に着くと同時に早速
料理を始めた。冬場閉ざされていた保養所は、水路のごみを取らないと水が
流れてこない。水も出ない中での料理だから、そんな中での料理は難しい。
そこでぼくが料理した。洗わずにすむものを中心にして焼きそばを作る。
しかしキャベツが十分になかった。そこでぼくは土の斜面に生えている
ふきのとうを取ってこようとする。

「優さん、ふきのとうはダメですよ、放射能が…」

 誤解ないように言っておくが、放射能レベルはエコラの森の方が東京より
ずっと低い。でもずっと冬を耐えた土の中から生まれる山菜は、放射能を
集めてしまっているのだ。

 これがどれほどさびしいことか分かるだろうか。
厳しい冬をやっと越えた春、その命の息吹が汚されてしまっている。
やっと芽生えた命は汚されているのだ。これが東北各地を覆ってしまった。

 ふきのとうが食べられなければ、やっぱりスーパーで産地を調べながら
買うしかない。水も問題だ。そうなるとスーパーでミネラルウォーターを
買うしかない。イワナもヤマメも汚染されているからスーパーで買うしか
ない。それぞれはたいした値段ではないが、今まで採れていたものを買わ
なければならないことは生活を貧しくする。

 これが重大なのは、「おカネがなければ生活できない部分」を増やして
しまうことだ。

 都会に住む私たちは、「おカネがなければ生活できない」ことを当たり前に
思っている。しかし違うのだ。

 自然が豊かにそこにあることは、おカネがなくても暮らせる生活を担保して
くれるのだ。いわば貯金だ。豊かな水があり、山菜が生え、魚や動物など
豊かな自然のあることが、私たちの命を保証してくれるのだ。

 ところがそれを汚染してしまった。東電は補償してくれない。賠償は
おカネで考えるだけだから、昨年の収入金額との比較でしか賠償されない。

しかしこれは違う。支出額で比較すれば、明らかに昨年より増えてしまって
いるはずだ。山菜も水も魚もその場で食べたり飲んだりできないのだから。
ところがそれは、「今年は浪費しすぎているんじゃないですか」の一言で
捨てられてしまう。ぼくはこの部分に大きな経済があると思う。

今回の福島第一原発事故で、私たちはとても貧しくなった。

 そしてまた一歩、自然から遠ざかることになった。次に食べられるのは、
セシウム134,137を合計して100分の1以下になる150年以上先だ。
 それまでふきのとうが食べられるものであることを、人々は覚えていら
れるんだろうか。

 ぼくは実現したいと思って進めてきたのは、カネに頼らなくていい部分
が生活の大部分を占めるような暮らしだった。

 カネに頼らなくていい部分が広がれば、貧富の格差も今ほど大きな問題
ではなくなるし、働くことも奴隷のようなものではなくなる。

 水は雨水利用すれば水道代、下水道代が少なくなるし、省エネ製品と
自然エネルギーを入れれば電気も買わなければならないものではなくなる。
何世代も使える住宅になれば、ローン地獄に追われてそのために一生を
捧げるような暮らしから逃れられるだろう

 さらに北欧のように医療費と学費が無料になれば、人々の暮らしは
あくせくせずにすむ豊かなものになれるだろうと考えてきた。
 そのために融資を役立てていければいいと思ってきた。
 ところが今回の事故が、人々の依って立つ基盤を汚染してしまった。
 
 しかしそれでも絶望するわけにはいかない。

 ならば汚染されたもの以外を再構築しよう。

もう二度と原発に頼らなくていいように、エネルギーを自立させよう。
自動車も自然エネルギーで発電した電気で走らせよう
汚染されない食品生産を実現しよう。

 そのための融資の仕組みを作っていきたい。

 汚染後の日本でも、ぼくたちの試みは色褪せることはない。