2010年11月29日

全国にNPOバンクを広げよう

□◆ 田中 優 より ◇■□■□◆◇◆◇■□■□

全国にNPOバンクを広げよう


NPOバンクが「新しい公共」のひとつに

先日国土交通省に頼まれて、「新しい公共」会議のヒアリングに招かれてプレゼンテーションしてきました。NPOバンクを活用した地域経済の活性化という内容です。ほんの少し前、NPOバンクに対する貸金業法の規制を心配していたのに、今度は「活用」ですから驚きます。ぼくだけでなく、全国NPOバンク連絡会の小関さん(明大)も、そして女性市民コミュニティーバンクの向田さんは「新しい公共」の委員になりました。なんで国土交通省かと思っていましたが、「3全総、4全総」と呼ばれる全国総合開発計画の一つなのだそうです。かつて田中角栄が日本列島改造論をぶち上げたあれの流れです。変われば変わるものですね、列島改造論とは真逆の方向が進められるのですから。国土交通省としては、出資者の出資金に税額控除をつけて、資金を地域に還流させる仕組みの一つにしたいそうです。

しかし私たちが求めるのは「NPOバンク法の制定」、最低でも「貸金業法の適用除外」です。まだまだ予断は許されないのですが、うまくすれば除外されるかもしれません。とは言っても何もせずに除外されるわけではありません。こちらの主張が認められることと、多くの人たちの協力が必要です。
さて、なぜNPOバンクが地域経済の活性化に役立つのか、それを説明してみましょう。


地域活性化を実現する

ぼくはふと気づいたのです。「地域経済の活性化策」なんて掃いて捨てるほどあるのに、それが成功している事例はほとんどない。たいていはシンクタンクが助成金をたっぷり取って提案するのですが、それらはほとんど役立たない。なぜなのだろうと考えた結果でした。

地域経済が活性化しているときのことを考えてみましょう。地域経済が活性化している時というのは、その地域でモノやサービスが活発にやりとりされている時です。でも考えてみると、その時には逆方向に循環しているものがあります。それがカネです。であるならば、地域活性化の程度というものは簡単に定義できます。

「地域の資金量×回転数」。この簡単な計算式で地域経済の活性化の程度が決まるわけです。そうならば、解決策は簡単です。地域の資金を残して、回転数が高くなる方法を考えればいい。

地方ではその貯金は東京に集められ、資金の支出先の決定権がありません。もし地域が自分たちのおカネを地域に投資したいとすれば、公共事業を持ってくる以外に方法がありませんでした。ところが公共事業は、どれもこれも地域の環境を悪化させ、結局つぶれて地域に負債を残すものばかりでした。でも考えてみてください。そもそもは自分たちのカネです。自分たちのところに貯金しておいたなら、自分たちの地域に投資することができます。だからひとつ目の「地域の資金量を増やす」には、地域にカネを残せばいいのです。沖縄で面白い話を聞きました。「他の地域でおカネが下ろされると、どこの銀行かは分からないけれど銀行に戻ってくるのに、沖縄ではどこに消えるのか戻ってこない」というのです。地域で資金は回り続けているのでしょう。

だからこそ沖縄は全国で最も所得が少なく、東京の半分以下しかないというのに豊かなままなのでしょう。沖縄には今でも「もあい」が発達しています。たとえば誰か10万円のおカネが必要になったとしましょう。すると数人で「もあい」を組んで、毎月1万円ずつ払う約束をします。その最初の一回目で集めたおカネをその人が受けるのです。それ以降、本人の毎月払う1万円が返済になると同時に、次の人が10万円ずつ得られます。貧しくてまとまったおカネの入らない沖縄の知恵です。それに使われて戻ってこないのでしょう。この「もあい」、法的には多少疑問が残る仕組みなのに、県庁職員すらこれなしに生活できないといわれます。実際には「もあいの日の宴会が楽しみなのだ」とも聞きましたが。

だから各地に作られるNPOバンクが地域に資金循環させられれば、もちろん地域経済は豊かになるのです。信金・信組もいいのですが、現時点では預貸率が低く、国債ばかり買ってしまっているので地域経済の活性化につながっていません。これは以前の金融庁が監査を厳しくして、片っぱしから「不良債権が多い」として無理やりつぶしたり合併させたりした後遺症でもあるんですが。でもNPOバンクなら、地域の小さなところにも融資できます。非営利で顔の見える関係に貸すから、焦げつきもほとんどありません。


地域に資金を循環させる

今の金融機関は不良債権がかなりあります。最低でも4%程度はあるでしょう。そして人件費だって大きいのですから、健全経営には最低でも5%以上の金利が必要です。ところがこの20年、経済成長率は平均1%しかないのです。平均的な企業が1%しか成長しないのに、5%の金利でカネを借りたらつぶれてしまいます。こうした低成長の時代には、非営利の金融機関こそ必要ではないかと思うのです。

よくNPOバンクも配当したらいいと言われるのですが、結局その分金利を高くしなければならなくなります。借り手と貸し手のどっちかが損するのです。非営利のNPOバンクでは、実際に汗水流して働いている社会的事業家を優先させたいのです。こんな低成長の時代、高金利で経済を押しつぶすのは間違いだと思うのです。幸い未来バンクではメンバー全員が手弁当なので、今の2%単利・固定という低金利が実現できているのです。

さて、最後の「資金の回転率」について考えてみましょう。このとき回転するのはモノやサービスの回転の対価なので、実は「円」のような国家通貨である必要はありません。そこで地域の商店街の共通商品券で考えてみましょう。みなさんが共通商品券と同額の円を持っていたとしたら、どっちから先に使いますか? 地域でしか使えない共通商品券から先に使うでしょう。すると回転率が高まります。この共通商品券と地域通貨の違いは、再度使えるかどうかの違いしかありません。二回以上使えるようにしたら、共通商品券は地域通貨になるのです。

これを実際にした例があります。足立区の連合商店街代表の田中さんは、足立区に申し入れてお年寄りに毎年配っていた敬老祝い金5000円を、地域の共通商品券に変えました。しかも1割多くして5500円分にしたのです。共通商品券は地域の小さな商店街でしか使えませんから、地域商店街を潤します。なんと足立区合計では、毎年4億円になったというのです。4億円が循環したら、地域商店街はもちろん活性化します。
でも1割多くしたら損しそうですね。でも机や本棚を探せば、商品券やらビール券やらが何枚か見つかりそうです。実は1割以上に死蔵してしまう人たちがいるのです。それを身障手当、子ども手当、生活保護費などの自治体負担分にだけでも選択させたら、もっと多額の資金が地域を循環するでしょう。

こうして考えていくと、NPOバンクは知恵を生かす場なのですね。NPOバンクが唯一絶対のものではない。もっと頭を柔軟にして、自分の作りたい社会のために、どうおカネを活用するかを考えていく場なのだと思います。


私たちもNPOバンクを作りたい署名

さて、先日金沢に新たなNPOバンクが生まれて、これで全国に12団体のNPOバンクが活動することになりました。しかし現時点では貸金業法取扱主任の国家試験や、登録料15万円、金融ADR加盟5万円など、たくさんの障壁とカネが必要です。これでは各地でどんどんNPOバンクが作れる環境ではありませんね。
でもそうした規制が解かれたらどうでしょう。現時点では「NPOバンク法を作りたい」と言っても、「全国に12団体しかないんでしょう?」と言われてしまいます。でもこうした規制が除外されたら、自分も地域にNPOバンクを作りたいと思う人は少なくないと思うのです。

そこで私たちは、「今現在NPOバンクを作っているわけではないが、もし規制が除外されるなら作りたい!」と思う人たちの声を集めたいと思うのです。全国NPOバンク連絡会で署名を集めたいと思いますので、ぜひ声を寄せてください。

よろしくお願いします!


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全国NPOバンク連絡会
http://www.npobank.net/


※ この署名については、詳細が決まり次第あらためてお知らせします。