2015年8月23日

『愚かすぎてあきれる』

7/21発行 田中優無料メルマガより

□◆ 田中 優 より ◇■□■□ 


 『 愚かすぎてあきれる 』 


 ■学生たちの新たな行動  

「SEALDs」という名の学生たちの運動が盛り上がってきている。札幌では、「戦争したくなくてふるえる」というタイトルの運動も広がった。なんと19歳の女の子が呼びかけた運動だという。その子に対してなりすましのツイッターが出されたりして、戦争法案を通そうとする人々の異常な振る舞いが目立ってきている。  

学生たちの運動、「SEALDs」の代表をしている明治学院大学四年生のあきくんは以前からの知り合いだ。もう20年も毎年出かけているダムを中止させた岐阜の奥地へ行くツアーに、ぼくの三男とともに参加していたからだ。三男は同じ大学で、後輩のあきくんの才能 を見出して一緒に活動していた。  

ぼくにはそもそも年齢の区別はない。子どもたちも友人のひとりとして扱うし、奥田くんにしてもそうだ。そのあきくんはとても面白いメンバーの一人だった。その彼がオーガナイズしていることに驚くとともに、とても誇らしく思う。ちょうど長男が30歳になった誕生日に、「SEALDs」のデモに参加してあきくんとハイタッチしてきた。 新しい世代が自分たちの未来のために動き始めている。  

しかしこの運動を始めたのは、このろくでもない政権のせいだ。もともと社会のルールを決めるだけなら法律で足りる。わざわざ憲法を作ったのは、為政者たちの動きを制限するためだ。
「私が首相だ」と言って威張る人には理解できないようだが、為政者は憲法の規定に従わなければならない。  

憲法は人々を縛るものではなく、為政者を縛るためのものだ。フランス市民革命などの流れが作った原則が憲法に基づく政治運営、すなわち「立憲主義」だ。それすら為政者は理解できないのか。  

しかも選挙のときには一言も触れず、「ウソつかない。TPP断固反対。ぶれない」を旗印にした。
それはまさに嘘だった! 


 ■牧歌的戦場の記憶  

かつての戦場はまだ牧歌的だった。まさに人と人の命懸けの戦いで、ほんの20年前までは撃つ撃たれるの戦争をしていた。そこではしばしば「戦場依存症」が生まれた。兵士たちは軍事訓練を受ける。

そこで徹底的に仕込まれるのは、反射的に命令に従う条件反射だ。 命令に従うのは当然、判断する以前に体が勝手に動くように仕込むのだ。敵味方を完璧に分け、敵は人間として考えないし自分の意志も持たない。敵は攻撃対象で味方は守るべき 対象だ。  

するとそこに個々の意志を超えた結びつきが生まれる。日本語的に言えば「以心伝心」、 言葉にする前にそれぞれが一つの意志を持つかのように動くのだ。まるで虫たちのように同じリズムを刻みながら同じ目的のために動く。そこに喜びを感じてしまった人は、一つの戦場を終えると次の戦場に赴くようになる。戦場でなければ役立つ自分を見出せない。 傭兵になってでも戦場に赴くのだ。  

ところがそんな戦場の時代は終わった。ドローンと呼ばれるロボットが戦場の主人公となったからだ。ドローンを操縦するのははるか先進国の基地の中、朝出勤して夕方自宅に帰って家族と過ごす兵士なのだ。ドローンは温度センサーで隠れた人間を探しながら打ち殺す。難しければ隠れた場所ごとミサイルで吹き飛ばす。今やその本物の映像を、ユーチュ ーブで見ることができる。  

「若者は軍隊で鍛え直すべきだ」などと言う老人たちの脳裏にあるのは、かつての牧歌的な戦争だ。ところが現実の戦場はすでにロボットの世界になっている。ただ命令だけに忠実に動く若者を作りたいのかもしれないが、すでに老人たち(しかも生き残っているのだから勝ち組に近い人たちだ)の考えるような戦場など存在しない。あるのはただ殺され るゲームの標的となるだけの戦場。

■金儲けのための戦争  

少し前まで戦争は土地・資源奪取のためのものだった。「民族・宗教」などが原因ではない。
利益共同体としての民族や宗教なら存在するが、得られる利益がなかったら、彼らは団結しないからだ。堕落した民族と宗教の共同体にすぎない。  

今や多くの戦争が石油などのエネルギー資源の奪い合いによって起こされている。その資源が地球温暖化を招き、人々を生きられなくさせるのにカネが儲かるから続いていく。  

そこに新たな戦争の形態が起こりつつある。それが金融戦争だ。戦争には大きなカネが動く。
日本が日露戦争に勝ったのだって、1986年まで返済を続けていたイギリス市場でのボンド発行
に成功して優勢になったからだった。この金融が、戦争を儲かるビジネスとして認識し始めた。  

すぐさま広告代理店が人々を戦争に駆り立てるために加わった。軍需企業は戦争で儲けるが、その軍需企業それ自体が金融機関に支配されている。こうして公共事業のような景気回復策として、戦争が認識されるようになった。  

このとき邪魔になるものは人々の反戦意識だけだ。安倍首相は「若者は簡単に戦争に賛成するだろう、自分たちがやられるのに黙ってるのかと言えば」と考えていたふしがある。 そのために選挙権を18歳に下げれば自分が圧勝すると考えたようだ。ところが彼の癇に障る事態が起きてきた。それが「SEALDs」の動きとそれに対する圧倒的な支持だった。  

人は多くの場合、自分を基準にして世間の動きを考える。安倍首相は自分を基準にしたから「思慮の足りない若者」を考えたのだろう。彼にとって「SEALDs」の動きはまさに想定外だった。

女性誌(現時点では政府の意向に従わないメディアとして貴重な存在になっている)の伝えるところでは、安倍首相は過敏に意識しているそうだ。だから彼は戦争法案を強行採決してでも早く決めたいのだろう。再び彼を基準に考えたら、あとはあきらめて大人しくなるはずだからだ。  

もしそうなったとしても、次の選挙では「戦争法案関連をすべて廃止する」政党を選択して元に戻そう。人々の側からマニフェストを提示して、従う政党を味方にしよう。奇しくも安易で愚かな政権のおかげで、若者たちは目覚めたのだ。

その彼らをドローンの餌に差し出すのか、社会のために役立てるのかの選択だ。
答えはおのずと明らかではないか。