2018年4月11日

『 3.11から7年 ~長く低線量の被ばくをしたら何が起きるか~ 』

2018.3.26発行 田中優無料メルマガより

 小平市で何代も開業医をしてきた三田茂先生、知る人ぞ知る存在なのかもしれない。しかし小平市を後にして岡山に転居している三田先生の元には、いまだたくさんの東京周辺からの患者さんが診察に来られる。

 三田先生自体が放射線技師もしていて、その仕事は被ばく労働でもあるので、定期的に検査を受ける。検査の内容は血中の白血球の中の半分を占める「好中球」の減少がないかどうかを調べるのだ。だから放射線と好中球の関係は当たり前に認められている。

 だから三田先生は放射線被ばくとの関係で白血球のひとつである好中球の数を調べてきた。すると当初は放射能量が高かった福島原発周辺や、ホットスポットと呼ばれる汚染のひどかった「松戸、柏、流山」の人に好中球減少症がみられたのが、今や広い地域に広がってしまった。好中球は白血球の一部だが、それが減少しているからといって直ちに病気になるわけではなく、免疫が多少弱い程度の被害だった。


 ところが今や特に汚染地域ではなくても同じような影響が出始めた。今では関東地方に住んでいれば、誰もが以下のような影響を受け始めている。これを三田先生は『能力減退症』というカテゴリーで、低線量の慢性被爆の影響ではないかと問題提起を始めた。以下のような症状だ。


「ものおぼえの悪さ、約束の時間を間違える、メモを取らないと仕事にならない」
といった記憶力の低下。


「仲間についていけない、長く働けない、頑張りがきかない、だるい、疲れると3~4日動けない」といった疲れやすさ。


「昔できていたことができない、怒りっぽく機嫌が悪い、寝不足が続くと発熱する(小児に多い)、集中力、判断力、理解力の低下、話の飲み込みが悪く噛み合わない、ミスが多い、面倒くさい」といった感触や、


「新聞や本が読めない、段取りが悪い、不注意、やる気が出ない、学力低下、能力低下、頭の回転が落ちた、宿題が終わらない」などの事態。

 さらに
「コントロールできない眠気、倒れるように寝てしまう、学校から帰り玄関で寝てしまう、昼寝をして気付くと夜になっている、居眠り運転、仕事中に寝てしまうので仕事をやめた」

などの症状が多くなっている。

『新ヒバクシャ』に『能力減退症』が始まっている  三田茂 三田医院より  )


 その三田先生とは、この岡山で知り合った。以前から研究結果は見ていたし、医師の多くが頬かむりしたように被ばく問題を取り上げない中、きちんとデータで示してくれることに好感を持っていた。

 我が家は2012年末に移住してきて、その後に三田先生も岡山に越してこられた。そこで友人を介して初めて我が家のバーベキューパーティーでお会いした。予想通り信念のある人で、簡単に周囲に流される人ではない。小平市の医院で転居や一時的な避難をした人たちの中で、岡山へ行った人が一番改善されていたからと岡山に来られたのだ。


 もちろん患者を置いていくのに葛藤もあった。何代も続けてきた医院なのだから。しかし三田先生自身が東京に住んでいること自体が影響を与えてしまう。「先生だってここに住み続けているのだから」と思われることの影響を考えると、自分が移住して見せることの影響は大きいのだ。


 越してくると医院を新設するのには多大な初期投資が必要になる。大変な決意と負担をしながら越してきた。でも三田先生は聖人君子ではなく、自動車が趣味という普通の人なのだ。そして患者に正面から向き合う中から、今回の提起をされた。

 その症状は従来の原爆症患者と向きあった医師の指摘する「原爆ぶらぶら病」であったり、世界各地のヒバクシャの悩みや、チェルノブイリで言われていた「老化症状」とよく似ている。

 こうした低線量の慢性的な被ばくに対しては、事故の終息、賠償問題も絡んで、認められないバイアスが働いている。福島県で行った朝日新聞の電話調査の結果によると、三分の二が放射能被害に不安を感じるが、三分の一が感じないという結果だった。これほどの放射性物質があるのに三分の一が不安を感じないというのが不思議に思える。おそらくは「大丈夫」とする政府やメディアの報道に引きずられた結果なのだろう。

 しかし残念ながら被害は「ただち」に起こるわけではないのだ。循環器の被害は始まったばかりだし、発がんなどの被害は部位にもよるがこれからになる。心臓の疾患は増えているが、発がんもこれからになる。今の時点で影響が出始めたのが脳下垂体と副腎皮質からのホルモンの影響だとすれば対症療法的な改善も可能だが、最も大切なのが転地なのだ。 

 それ以上にすべきことは日本各地に作られた原発の廃炉だ。問題を起こす可能性のある原因自体をなくさなければ、解決には向かわない。いくら転居しても西風が中心の日本の、西側の川内原発や玄海原発、伊方原発がある間はどこにいても安心して暮らすことはできない。現に福島原発からの放射能の八割程度が西風に押されて太平洋に流れ出た。残り二割の陸に流れた放射能のごくわずかが首都圏に流れただけの影響なのだ。


 まず原発を止め、その上で対処策を考えたい。この後、転居することも考えの中に入れてほしい。残念ながら、首都圏もすでに広く汚染されてしまったのだ。この先には『能力減退症』が広がってくる。すでに首都圏すら居住に適した土地ではないのかもしれない。

 まるで腐海に沈むナウシカの世界のような事態だ。これ以上、住むことのできない土地を増やしてはならない。原子力と人間は共存することができないのだ。

 ただちに止めたとしても「使用済み核燃料」の管理が必要だ。漏れ出せば広い地域を汚染してしまうのだから。これ以上放射性物質を作り出さないために、まずは原子力発電所を廃炉しよう。「後の時代になれば解決できる」と言って原発を始めたが、半世紀以上経っても解決できない。それどころかこんな被害が生まれたのだ。

 「原発の電気は安くてタダで使えるようになるからメーターもいらない」という言葉に騙されて進んだ結果がこの事態だ。もし「能力減退症」に思い当たるところがあれば、躊躇なく転居すべきだと思う。