2017年3月5日

『 電力リテラシー」が必要だ 』

□◆ 田中 優 より ◇■



『 電力リテラシー」が必要だ 』
   (2012.9月発行田中優有料・活動支援版メルマガより)


「メディアリテラシー」という言葉が言われてから久しい。
『情報メディアを主体的に読み解いて必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する能力のこと』とされている。要はだまされないように情報を吟味し、活用できる能力を培うことだ。

 たとえば新聞にデマが載る。記者の知識が乏しいせいかもしれないし、「ちょうちん記事」や「アドバルーン記事」と言われるような作為的なものかもしれない。しかしそれを見抜けないと、事実に基づいた判断できない。

 もちろんその能力も重要だが、今の時点では「電力リテラシー」の能力を磨くことが必要だ。

 電力に関するデマが読み解けなければ正しい判断ができない。つい最近、政府が家庭の電気料金は原発をゼロにするなら倍になると報道した。
 こうしたデマに惑わされたのでは電気問題の解決はおぼつかない。


 ぼくが特に問題だと思うのは、資源エネルギー庁(以下「資エネ庁」と略す)が流すデマだ。

以下のようなものがある。


1.日本の電気料金は2000年には世界一高かったが、2009年ではそうでもない

実際には世界一高いまま。
http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/shiryo/110817kokusaihikakuyouin.pdf


 これは平成23年8月に出された「電気料金の各国比較について」という文書だが、それによると、「日本の電気料金は2000年には世界一高かったが、2009年では英国と同水準となった。米国、フランス、韓国と比較すると高いが、ドイツについては、住宅用料金の水準に比して産業用料金が低くなっており、日本の電気料金と比べて、産業用は安く、家庭用は高い」と書かれている。

 要はいまや日本の電気料金が特別高いわけではないとする報告書だ。

 しかし、資エネ庁のデータは常に疑ってかかった方がいい。たいがいが戦時中の「大本営発表」のようなデマだからだ。ここではその脚注に謎が隠されている。

 こう書いてある。

「注3)税込の値を使用。なお、税には消費税、付加価値税だけでなく、我が国における電源開発促進税のような目的税も含まれる。」


 まるで日本だけが「電源開発促進税」が含まれていて高くなる計算をしたかのように読めてしまうが、そうではない。「環境税」などの「目的税」を含めて計算したという意味だ。ドイツやイタリアが高いのは、地球温暖化防止のための「炭素税」が導入されているからだ。導入しているのは「フィンランド、スウェーデン 、ノルウェー、デンマーク、ドイツ、 イタリア、イギリス」だ。

 日本より高くなったように見える国だけでなく、日本より電気価格が安いイギリスも、すでに炭素税を含んだ料金になっている。

 「炭素税」を除いたら、日本は相変わらず先進国一高い電気料金となっているのだ。炭素税を導入していないフランスも日本の電気料金に近接してきているが、これは後で見るように、原子力の高いコストが影響しているものと思われる。


 さて、日本にも炭素税導入の予定がある。ここで平成16年11月5日に環境省が発表している「環境税の具体案」を見てみよう。そこでは「税率は、2,400 円/炭素トンとする。

 例えば、電気の税率は、0.25円/kWh、ガソリンの税率は、1.5 円/L となる」としている。
 www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0665.pdf

 それを1ドル80円で換算すると0.195 ドル/kWh、合計では0.423 ドル/kWhとなる。
この額で各国と比較に使ってみると、圧倒的に高い電気料金のままであることがわかる。日本の国際競争力を奪っているのが高すぎる電気料金だといえるだろう。



2.
原子力が一番安い発電方法
原子力は最も高い発電方法

 そうなると、なんとかして安い発電手段を選びたい。
そこで資エネ庁に聞いてみると、こんなグラフを出してくる。
http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/bunkakai/cost/denjiren/4.pdf


 これは電気事業連合会(電力会社の業界団体)が出してきたものをそのまま引き写しただけのものだ。
 
 原子力が 5.3 円/kWhで、一番安い発電方法だとしている。これを信じたなら、原子力発電をなるべく利用すれば電気料金が安くなることになる。経団連などが言うのはこの数字だ。

 ところがこれも立命館大学の大島堅一氏の「原発のコスト(岩波新書)」によって実態が暴かれている。


 電力会社の「有価証券報告書」や政府の補助金から、それぞれの実際にかかっているコストを計算したものだ。その結果は資エネ庁の結論と間逆で、資エネ庁が最も高いとする水力発電が最も安く、一番安いはずの原子力が 5.3 円/kWhではなく10.68 円/kWhと、資エネ庁の数字の2倍高い。

 しかも原発建設に伴って造られる揚水発電ダムという蓄電施設と合計すると、12.23 円/kWhとさらに高くなる。この揚水発電ダムだけは原発と同様に地域自治体へ「電源開発交付金」が配られることになっている。こうして口を札束でふさいで、最もコスト高の「原発+揚水発電セット」が造られてきた。


 したがって原子力を進めると、電気料金は高くなる。さらには税からの補助金支出も必要になる。電気料金と税金のダブルで負担させられるのだ。戦時中、政府は「連戦連勝」と伝えながら、結局日本は「敗戦」に至った。この「大本営発表情報」のせいで大局を判断し誤ったのと同じだ。経団連などと「経済人」を名乗るなら、この程度のリテラシーがなければ情けない。



3.
家庭の消費が問題だ

日本の家庭は世界一省エネだ。


 これは一目瞭然、2010年、家庭の電気消費量は全体に対してわずか22%でしかない。アメリカでは電気消費全体の4割が家庭の消費だが、日本では家庭の消費はずっと小さい。それどころか、グラフで見るように、世界の主要国の家庭の中で最もエネルギー消費量が少ないのが日本の家庭なのだ。
「家庭が問題」ではなく、日本の家庭は世界の模範だ。



4.家庭の電気消費がピークの三割の原因

 → ピークの一割程度

 この話はすでに支援版メルマガの第3号の「やさしく無視してあげる」で書いたので、ここでは割愛するが、電力消費ピークの発生する「夏場平日日中、午後1時から4時、最高気温を記録するような猛暑日」には、家庭の三分の二が外出中だ。しかも平日である消費ピークのとき、圧倒的に消費しているのは事業系なのだ。家庭ではない。



5.家庭内でエアコンの温度設定を
 → ほとんど効果ない、それより冷蔵庫の買い替えを

 これまた資エネ庁の間違ったデータのせいで、家電量販店に行くと家庭内の節電には「消費量の25%を占めるエアコンが重要」と書いてある。同じデータを引用してきた「省エネルギーセンター」は、ついにデータを訂正した。「省エネ性能カタログ」2011年では家庭内の 26.2% をエアコンが消費てしてとしていたのが、2012年にはいきなり 7.4%とされている。
http://www.enecho.meti.go.jp/policy/saveenergy/save03.htm


 もちろん日本の家庭に大変化があったわけではなく、資エネ庁の間違ったデータを使わなくなっただけのことだ。


 家庭内では冷蔵庫の電気消費が最大だが、その冷蔵庫はいまや年間では30wの電球を点け続けるより電気消費量が少なくなっている。エアコンを買い換えてもほとんど得しないが、冷蔵庫の買い替えは経済的に得になる。意味のない買い替えをさせるのではなく、効果あるものを提示すべきだ。



夏のピークにも要らなかった原発

 電力会社はこれまで、かかったコストに利益を掛けて人々の電気料金から取れる「総括原価方式」という仕組みによって、好き勝手をしてきた。利益は費用をかければかけるほど増えるので、高くて効率の悪い原子力発電は好都合だったのだ。とにかく人々さえだましておけば、それで事足りる。

 「原子力が安いおかげで、世界的にも安い電気を享受できています、電力会社さまのおかげです」と。


 ところが原発事故以降、次々とウソがほころび始めた。今年の夏、「原発なしでは電気が足りない」と言い張ってきた関西電力の電気は、再稼動しなかったとしても電気が足りていたことが明らかになった。

 このグラフは今年の電力消費ピーク時の消費量、電力会社の予想値と実績値だ。
電力会社の予想が大きすぎて外れていることがわかる。「原発を再稼動しなければ停電して大変なことになる」というのはウソだった。


 しかしこのデータはまだ実態にほど遠い。日本に周波数の違う50ヘルツと60ヘルツの地域があるのは知ってのとおりだが、それぞれのエリアごとに送電線がしっかりつながっていることはあまり知らされていない。つまり送電線がつながっているエリアは電力会社ごとではなく、ヘルツごとの地域で電気の融通ができている。その送電線が貧弱すぎる北海道を別にして、50ヘルツ2社と60ヘルツ6社に分けることが可能だ。


 その地域ごとで今年の最大消費の電力会社予想と実績を比較してみよう。図のようになる。

 関東東北が517万キロワット余剰、西日本6社では805万キロワット余剰だ。
関西電力が大飯原発2基合計で236万キロワットを再稼動させたが、805万キロワットも余剰があるのだから必要がなかったのだ。

 しかもこれは電力消費ピークだけの、ほんの一時的な問題だ。そのピークがどのくらい発生するものなのか、事故以前の2010年、東京電力のデータで見てみよう。


 一年間24時間×365日で、一年間は8760時間ある。その8760時間、時間ごとの電気消費量を高いほうから順に並べてみると、下のようなグラフになる。その中の最大ピークが5999万キロワットだったから、そこから100万キロワット落として、4999万キロワットを超えた時間をピークと考えてみたとしよう。それが上のグラフだ。なんとわずか5時間しかない!

 わずか5時間の電気を足らせるために、新たな発電所を建設したり、命がけになって発電する必要があるだろうか。それよりその時点だけ節電させたほうが、ずっと経済的ではないか。多額の金をかけて発電所を建設する必要もないし、節電してもらう代わりに電気量をまけてあげてもいいだろう。


 しかもこの西日本6社合計の消費ピークというのは、「同日同時間にピークが発生した場合」の話だ。実際には同時発生はしたことがない。つまり一社がピンチでも他社には余裕があるのだ。電気が足りないというキャンペーンはただの脅しでしかなかった。



本当は電力会社がつぶれそうだから原発を動かした


 では、本当の原発再稼動の動機は何だっのか。これははっきりしている。今年の6月13日、衆議院第1議員会館の会議室で開かれた「脱原発ロードマップを考える会」(民主党衆参国会議員が多数参加)の会合に、資エネ庁は「脱原発が電力会社の経営に与える影響について」という資料を提出した。

 多額の資産を持つ電力会社の資産の中身の多くが原子力発電所になっていた。
 http://www.scn-net.ne.jp/~onodak/news/quote/20120703.html


 原発は総括原価方式の中で、高くて効率が悪いから、資産額を大きくして電気料金を高くするのに恰好の存在だったのだ。
 その表は読みにくいので、まとめた表で紹介しよう。

 このグラフの黄色の部分が2011年度末時点での資産額で、赤の部分が2012年度の純損失額だ。損失は予定外の原発停止のために、火力発電所の燃料などに余分に費用がかかった部分の赤字などだ。黄色から赤を引くと2012年度末の資産額が出る。残った2012年度末の資産額を、緑の部分の2011年の損失額で割ると、つぶれるまでの年数を想定できる。北海道が2.2年、関西電力が1.9年という数字が出る。つまり電力会社はほとんどが破綻寸前になるのだ。しかも原発を作りすぎた会社から順に。


 電力会社が破綻すると、その株主である大手生命保険会社、メガバンクの持つ株券は紙くずになり、貸し込んでいる金融機関の社債のうち、政府が保証していない部分は紙くずになり、保証していた部分は政府の赤字になる。政策投資銀行を中心とする長期・短期の融資も同様だ。すると日本の金融がガタガタになるだろう。それを避けるために原発は動かされているのだ。「廃炉」と言えないのは、これまでの赤字がばれることを恐れて、問題を先送りしているせいだ。

 しかし原発はどちらにしても負債を増やし続ける存在だから、一刻も早く切り捨てないと傷口が広がる。
 さてどうしたらいいのか、というのが現状なのだ。



つぶさずにソフトランディングさせられないか


 日本も電力の完全自由化を、2015年頃に実施することを決めた。自由に競争させられることになったら、「原発」という不良債権を抱えた電力会社は敗退して倒産する。当たり前のことだ。


 アメリカでは1999年頃には自由化を進め、同じ事態に見舞われている。そのときアメリカは、「ストランデッドコスト(どうにもならない負債)」という考え方を導入している。原子力のような莫大な額の長期投資をしてしまった電力会社が、突然の自由化で破綻しないように、原発投資による負債を「ストランデッドコスト」とし、それをすべての電気料金に少しだけ上乗せして回収させる仕組みを作ったのだ。そうすれば原発を持った電力会社が、競争に負けて倒産することが避けられ、自由化した電力市場に参加できる。

 ストランデッドコストについて
http://www.meti.go.jp/kohosys/committee/oldsummary/0000405/


 日本のろくでもない電力会社を救う気にはならないが、金融市場の危機も招きたくはない。すると日本でもストランデッドコストを入れて、これまで原発推進をしてきたツケを私たちが払わなければならないのだろうか。しかし原発推進で甘い汁を吸ってきた原子力ムラの会社や人から利益を吐き出させるべきだし、愚かしい官僚と政策決定者にも相応の罰を受けてもらわなければならない。


 しかし現実にはアメリカがストランデッドコストを導入した時代とは、大きく違ってしまっている。特に「省エネと自然エネルギー」の技術がどんどん進展してしまっている点が大きい。いまや自宅に太陽光発電を導入して、送電線から独立しても電気の自給が成り立つ時代になってしまっているのだ。


 これを「オフグリッド」というが、人々に電力会社のツケを払わせようとしても、人々には自然エネルギー自立型のオフグリッドに逃げることができる時代になってしまったのだ。

 「原発をゼロにしたら電気料金が2倍になる」というプロパガンダも、オフグリッドが可能な時代には脅しにならない。そうなるとアメリカ型のストランデッドコストの導入は困難だから、税収に頼るしかないかもしれない。


 しかし今のように公共事業の乱費・乱用を繰り返す日本では、その税収もすぐに底を尽くだろう。となると日本の金融市場の大きな借り手だった、電力会社の倒産のカウントダウンが見えてくる。原子力ムラの欲ボケした人たちがいくら脱原発に反対しても、もはやウソでだまし切ることはできないだろう。金融市場の混乱は避けがたいように見える。


 しかしいいこともある。自然エネルギーが進展すれば、毎年23兆円も輸入してきたエネルギーが不要になるし、電気自動車の進展によって、自宅の太陽光発電などで、電気代もガソリン代も不要になるかもしれない。つまり経済破綻は大きな国際市場に影響せず、個人の生活への影響も小さくできるかもしれないのだ。
なぜなら自立した暮らしの部分が広がれば、それだけ生活は不安定にならずにすむからだ。

 未来のエネルギーの見取り図を思い描こう。それにしても「原発をゼロにしたら電気料金が高くなる」というようなデマに惑わされているままでは無理だ。もっと多くの人が真実を知るようにならなければ。

 「電力リテラシー」が、どうしても必要な時代になってしまっている。


※リンク先URLは2012.9.18現在のものですので、一部期限切れのものもございます。
 バックナンバーでは図・グラフ付きでご覧頂けます。



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今回は、2012.9.18発行 第23号 『 電力リテラシー」が必要だ 』です。

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