2015年6月29日

『市民による市民のための市民金融機関のチカラ-お金の使い方と、使われ方-』その1

2015.4.5発行田中優無料メルマガより

未来バンク事業組合理事長 田中優

『市民による市民のための市民金融機関のチカラ 

 -お金の使い方と、使われ方-』  その1


■無理に決まってる!

 僕がNPOバンク「未来バンク事業組合」(以下、未来バンク)を設立したのは三十七歳のときですから、二十年前になります。

 バンクと名はついていますが、いわゆる銀行ではありません。貸企業の登録を受け、「環境に優しい事業」「福祉」「市民運動」の三つに限って融資を行なう、市民による市民のための市民金融機関です。融資を受けられるのは出資をした組合員だけというシステムになっていて、出資金は一口一円で一万口以上が加入条件になります。

 始めた当初は、NPO仲間から、「そんな夢みたいなこと、無理に決まってる」と冷ややかに受け取られたものです。出資金を拠出してもらっても、ATMで引き出せるわけでもないし、配当もゼロ、そんなものに出資する人などいるはずないじゃないかと(笑)─--。

 でも、設立二十年を迎えた未来バンクは、二〇十四年三月末時点で、組合員数五百十三人、出資金は一億六千万円を超え、融資総額は約十億六千万円となりました。いま全国に十四のNPOバンクがあります。もはやNPOバンクは、"夢"と揶揄される存在ではなく、立派な市民運動になったと思います。


 初めから市民金融機関を作ろうとしていたのではありません。もともとは原発への異議申し立てがあったのです。きっかけは一九八六年のチェルノブイリ原発爆発事故。事件の直後、生後三ヵ月の息子が喘息などで体調を崩し一週間入院したのですが、もしかしたら関係あるのではと関心を抱き、環境問題を考えるようになりました。

 当時はチェルノブイリ事故の影響で、全国的に反原発の市民運動が展開され、とくに八八年四月の「原発とめよう!一万人行動」では、東京の日比谷公園に全国から約二百五十団体二万人もの人が集まり、すごい熱気でした。僕東京都江戸川区の職員でしたが、江戸川区内で市民団体「グループKIKI」を設立し、これを軸にいろいろな問題に関わることになります。

 でも、原発への反対運動は一年も経つと全国的に失速しました。痛感したのは、「原発は危ない」と、単純に危機感を煽る運動は続かない、もっと日常的で、生活に密着した問題意識から出発した運動にしなければということです。

 そこで開始したのが「リサイクル」、いわゆる資源回収です。当時はアルミ缶など一キロ百円以上で売れました。

 ところがアルミはすぐに一キロ三十円まで暴落します。鉄など、一キロー円で売れていたのが、逆にこちらが二十円払わないと引き取ってくれない逆有償が始まりました。

 なぜなんだ?-─この疑問が未来バンク設立につながるのです。


■貯金・預金の行き先への疑問

 調べてわかったのは、リサイクル品の値段が落ちる背景には、同時に新品の値段が落ちているといるという事実がありました。つまり、安い新品のアルミが入ってくれば、リサイクル品は買い叩かれるしかない。

 なぜ新品のアルミがどんどん入ってくるのか?答えは意外でした。アルミはあちこちの途上国で作られているわけですが、工場を稼働させる電源のための発電用ダムは、日本のODA(政府開発援助)で造られていた。ブラジルのツクルイダム、インドネシアのアサハンダムなどです。

 しかもダム建設を受注するのは日本企業。そしてODAとはいっても、円借款プロジェクトで、つまり相手国にとっては借金なんです。これが国際援助なのかと疑ってしまいました。

 そしてODAは「財政投融資」制度のもとに成り立つことを知りました。
財政投融資‐‐‐-初めて聞く言葉だったので、財政投融資と名のつく文献を片っ端から読んだのですが、驚きました。

 その財源は、僕たちの郵便貯金や年金だったからです。


 当時、郵便貯金や基礎年金、簡保の簡保の残高は五百兆円以上もありましたが、財政投融資のもとでは、そのお金は全額、当時の大蔵省の資金運用部に預託され、資金運用部がそのお金を「特殊法人」に融資していたんです。

 たとえば、大反対の中、建築された長良川河口堰を運用する「水資源開発公団(現・水資源機構)」、不必要と思われる地域にも高速道路を造り続ける「日本道路公団(当時)」、赤字確実といわれても建設されたアクアライン(車京湾横断道路)の「東京湾横断道路株式会社」、ナトリウム漏れ事故を起こした「もんじゅ」の「動力炉・核燃料開発事業団(現・原子力研究開機構)、新幹線建設の「旧・国鉄」、ほかにも大型ダムや空港、スーパー林道、リゾート開発など、僕たちが環境問題の視点から反対してきた事業を展開する事業者にに融資されていたんです。


 
 原発のことも調べてみました。これにもやはり財政投融資が使われていました。
原発の燃料のウランを買うため「日本輸出入銀行」に融資され、輸入ウランの濃縮や核燃利加工、そして原発建設や再処理のために「日本開発銀行」に融資されていました。青森・大間崎に建設される大間原発を管轄する「電源開発株式会社」にも融資されていました。


 多くの市民運動は、日本の環境や自然を真剣に守るべきだといろいろな場面で異議申し立てをしてきました。巨大ダムができると知れば「大型ダムによる自然破壊反対!」と運動を起こし、原発建設には「原発反対!」と叫び、リゾート開発にも「反対!」と、意思表示をしてきたけれど、なんのことはない、諸々の環境破壊事業の根っこは僕たちの貯金だったんです。

 つまり僕たちは右手では「環境破壊反対!」「原発反対!」と拳を上げながら、左手では環境破壊や原発建設に手を差し伸べていた。そして、そんな事業者経由で貯金の利子を受け取っていた。

 その利子にしたって、腹立たしい。当時、財政投融資は、単年度で約四十兆円(国の一般会計は約七十兆円)もの巨額予算を動かしていたのですが、特殊法人が原発やダムを造るたびに公共料金は値上がり、タダになるはずだった高速道路は世界一の高額料金となり、長良川河□堰は水が売れないため税金で維持され、ニ十八兆円もの国鉄債務は税金で返済されることとなりました。僕たちは結局損をしている。

 
 銀行などの貯金も調べました。これも同じです。銀行に貯金されたお金は、銀行でじっと眠っているのではない。大手銀行の融資先を調べればわかりますが、原発建設を推進する企業や、環境破壊につながる大型開発に関わる事業を行なう企業がずらりと並んでいます。


--- その2に続く


▼マガジン 『望星(ぼうせい)2014.10月号』 特集 「みんながトクする投資」 より
http://www.tokaiedu.co.jp/bosei/contents/1410.html


※田中優がインタビューに応えたものを、発行元の編集者が文章にしたものです。