2019年7月16日

靴下の臭いを嫌わないで~体内微生物の話~

 タイトルでわかる通り、この話は食事中には読まないでいただきたい。
「良薬は口に苦し」と言われるように、「良微生物は鼻に苦し」なのだ。

 最近、家でよくテレビドラマを見るようになった。インターネットにつないで、好きな時に好きなドラマが見られるおかげだ。そのテレビドラマを見ると、予想外になかなか面白いのだ。

 ごく最近のドラマで「インハンド」というものがあって、「救世主兄弟」の話が出て来るという前振りで期待してみていた。残念ながら救世主兄弟の話には進まず、免疫不全の病に侵されている子を救うのにどうするのかという話になっていた。その子は免疫が不全になる遺伝的疾患に侵されていたが、その父もまた同じ病気に侵されていたが死ぬまで発症しなかった。

 「免疫?」「大腸の病気?」そこまで聞いて結論が見えた。


「糞便移植が解決策になるのでは?」と思った。すでに一度見ていた妻は、番組の途中でのぼくの呟きに「ドキッとした」と言っていた。今や腸内の大腸菌群と免疫機能との関わりはクローズアップされていて、大腸から治すという話もよく聞く話になっている。


 パプアニューギニアに面白い話がある。特にパプアの高地では肉やたんぱく源は取れず、人々はヤム芋やサツマイモ類しか食べていない。にも関わらず彼らは筋骨隆々で、栄養失調になる量しか食べていないのにそれを維持しているのだ。






 ある外国から来た人が、数カ月後には同様になることができた。何が起きたのか。どうやら大腸菌群にその原因があったようだ。彼らと暮らすうちにその大腸菌群が移り、豆類のように空気中の窒素を固定し芋類から窒素固定できることまでは分かっている。それがタンパク質として使われているかどうかは不明だが。


 しかしこの話も特殊ではない。日本人だけが海藻を消化できる微生物を住まわせているように。


 天然住宅を建てたお客様に私が信頼する医師がいる。滋賀県の松本さんという医師で、天然住宅とかなり距離が離れた場所から依頼してくれた。その松本先生のお宅には泊まらせてもらったこともある。食事が絶品で、無農薬・有機栽培で松本さんが自ら育てた野菜が中心だ。野菜は「菌ちゃん農法」で育て、えぐみがなく素直に栄養になるようだ。


 松本さんは家のトイレを「コンポストトイレ」にしていた。排泄が終わったら藁で蓋をするようにかき混ぜるのだ。それを完熟させてから農地に使っている。
「やっぱり酪酸菌が大事ですよね。食物繊維を中心にしないと」なんて、とてつもなく大事なことをさらっと言う。


 ぼくがやっとのことで理解した酪酸菌の話も、当たり前のように理解している。
こんな話のできる医師がほかにいるだろうか。なぜ酪酸菌が大事かというと、アトピー・リウマチなど免疫が暴走して自分自身を攻撃してしまう「自己免疫病」が広範に広がっているからだ。


 そのとき暴走する自己免疫を落ち着かせて安定化させるのが「Tレグ」という物質だ。この「Tレグ」を作っているのが酪酸菌の一つである一部の「クロストリジウム菌」なのだ。その細菌が餌にしているのが
「水溶性食物繊維」で、野菜や芋類、コンニャクや海藻などに含まれる。ところがこの酪酸菌はイマイチ人気がない。といういのはそれが履き古した靴下のような臭いがするのだ。ビフィズス菌や酢酸菌の酸っぱい臭いなら慣れているものの、酪酸は慣れないから不快に感じるのだ。


 その松本先生の畑から「キクイモ」の球根を分けてもらった。チェルノブイリ事故の後、キクイモは放射能汚染せず、それだけでなく食べた人の体内の放射性物質を排出させていた。そのキクイモを自分でも育てたかったからだ。キクイモはまるで雑草のようにそく育ち、庭の一角をたちどころに占めてしまった。






 このキクイモの球根をもらって帰る時に、自家堆肥の一部を一緒に持ち帰ってしまった。カバンには堆肥の臭いが移り、甘酸っぱくも臭い匂いが付いてしまった。でもこの臭いこそが望ましい大腸菌の臭いに思えた。


 この糞便移植だが、世界でも日本でもそのための「ドナー登録制度」も存在する。ドナーになるためには「予防接種」や「抗生物質」をほとんど摂取せず、健全な大腸菌群を育てている人でなければならない。特に「抗生物質」は、体内の細菌群を皆殺しにしてしまうので、大腸菌群は多様性を失い、種類の少ないものになっているためだ。しかし抗生物質の効果のない風邪のようなウイルス疾患にも、予防的に抗生物質が処方されたりしている。その人の糞便は多様性が失われ、大腸菌の多面的な機能が失われてしまっている。


 アメリカの畜産では密集させて飼う「ファクトリーファーミング」が一般的だ。
そこでは感染病を恐れる余り、病気でもないのに抗生物質を餌に混ぜて与えてしまっている。その抗生物質に認められているのが「
グリホサート(商品名で言うと「ラウンドアップ」)なのだ。だから米国産の食肉を食べるとそれを摂取してしまう。アウンドアップはアラウンド(周囲)アップ(皆殺しにする)する意味なのだ。それがアメリカなどからの輸入肉の臭さの原因だと思う。




 私たちの体は自らの細胞の数よりも数倍多い微生物と共生して暮らしている。
ところがそれを味方ではなく敵にするのが一般的だ。「殺菌」「殺虫」「無臭化」の流れは止めなくてはならない。生命は共生しているのだ。臭いなどと言っていられない。犬が他の犬の排泄物の臭いを嗅いだり、体を擦りつけたりするのも同じなのだ。臭いはすべての固体で異なっている。

 多種多様であることは、まだまだ未確認の治療の可能生を持っている。ドラマの中では病気の原因を持ちながら発症しなかったその子の父は、それを抑える何らかの因子を持っていた。それが大腸菌群の中にあり、保管されていたその父の排泄物を移植することにより、発症させないことに成功したという流れになる。


 もちろんドラマはフィクションだし、まるで荒唐無稽な話に思われるかもしれない。でもあながちウソでもない。それが面白さの理由かもしれない。


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