▼ 10年来の課題
いったいいつからネオニコチノイド農薬と関わりあっているのかと気になって、過去の写真を調べてみた。関わりを持ったきっかけは「美味しんぼ」原作者の雁屋哲さんの質問から、「世界でミツバチが失踪していると聞くけれど、何が原因なのだろうか」というものだった。今から10年前のことだ。インターネットで調べるとすぐに見つかった。そして現実の問題を訪ねることにして、2009年に一緒に取材に出掛けたのが始まりだった。
そのときのことは雁屋さんのブログ「今日もまた」※1にも残されている。
雁屋さんはとても感度がいい。しかも現場に出て自分の目で確認するまでは納得しない。素晴らしい人と知り合えたと思う。
「私は、ミツバチの問題を取材に行って、実はネオニコチノイド系の農薬はミツバチどころか我々人間の健康を損なっていると言うことを知って、大きな衝撃を受けた」
というのだ。
この話を連載したことから「美味しんぼ」は炎上した。原発や鼻血の件でも大きく炎上したからその後忘れられたかもしれないが。
その後、「美味しんぼ」で紹介してくれたことをきっかけにして、ぼくはネオニコチノイド問題を助成し調べている「abt(アクトビヨンドトラスト)※2」という団体の審査員に選ばれた。そこからでも10年になるのだから時の経つのは早いものだ。
これを調べるとなれば大学の研究費でなされてもおかしくなかったが、経団連会長が住友化学の会長であったように研究には制限がかかっていた。その穴を埋めるべく、民間資金から作られた「abt」が助成金を助成していたのだ。
最近になってついに学者にとって主食と言われるほどの価値を持つ「科研費」からも助成されるようになった。これで研究が進むかといえばそうでもなく、「忖度」の世界は研究費の世界にも及んでいるのだ。
今年も「abt」が助成金による研究成果の発表があり、目の覚めるような内容が報告された。その一つはこの10年間のネオニコチノイド農薬汚染の現状だった。
恐ろしいことに、その汚染は農地の下流域に当たり前のように入り込み、もはやどこの地域の汚染というように言えないほど広がってしまったことだ。来年はどこまで広がってしまったのか、地下水脈自体を調べるしかないかと考えている。
もうひとつ恐ろしかったのは、ネオニコチノイド農薬のひとつ、「イミダクロプリド」の人体に対する影響を調べて報告だった。それが単に人々を汚染して疾病につながるだけでなく、反応する受容体を活性化させ、数が増え、表面部分に浮き出てくることがわかったのだ。「ニコチン性アセチルコリン受容体」という交感神経、副交感神経へとつながる人体にもともと備わっているものだ。
それが活性化することで、化学物質に非常に敏感になってしまう。このことは化学物質過敏症の原因の一つの可能性を広くかもしれない。原因不明と言われる仕組みの一つが見出されたのかも知れないのだ。受容体が増加し活性化することで、より過敏になっていたのかもしれないのだ。
それが突き止められた「イミダクロプリド」は、「稲の苗箱」の殺菌に広く使われている。苗箱の他、家のシロアリ駆除剤としても使われている。
今コメどころの新潟でこの原稿を書いていて、稲の作付けの真っ最中だ。機械は箱に入った稲を効率よく植えていく。人々はそのコメを中心に食べるが、ネオニコチノイド農薬は水に溶けて浸透しやすく長く薬効を維持する。
薬効を長く維持することから撒く頻度を減らせ、特別栽培などといって「農薬と化学肥料の量を慣行栽培(通常の栽培方法)と比べて半分以下に抑えて作られたお米」として販売されてしまう。この危険性がわかるだろうか。健康を気にしたつもりでより危険に陥るのだ。
世界では日本を除いて農薬に対する規制が進んできた。今や販売を禁止しているものも多い。ところが日本でだけ規制が緩和され、欧米では年間摂取量に匹敵する量を一日で摂取してしまうようになった。これでは日本人だけが世界で人体実験を行っているようなものだ。だから「日本の子にだけ〇〇が多い」という事態を招いているように思うのだ。「発達障害」でも「自閉症」でも、食べたものによって作られている可能性が高いと思う。
アメリカではマサチューセッツ工科大学から、グリホサート除草剤(日本での商品名「ラウンドアップ」)の影響で2026年には二人に一人が自閉症を発症するのではないかと警告されている。これは除草剤だけではなく、過密に飼育された畜産動物の「抗生物質」としても登録・利用されている。
農薬は勝手に進化し、各種の農薬がブレンドされて作られ、様々なルートで販売されている。いわゆる「百均」でも売っている。どんどんカクテルされる農薬に、その危険性の調査は全く追い付いていない。そう言っている間にも欧州が「ミツバチ大量死の原因殺虫剤を全面禁止」した。
それと同時に欧州ではさらなる「土の仕組み」の解明が進む。農薬・化学肥料を使わなくても植物の持つ殺菌力・殺虫力を活用していけば栽培可能であることを実証し続けている。もちろん日本の篤農家研究者も事実を明らかにしている。
ところが政府やメディアが阻害して伝えない。儲かるという一点だけのために事実が歪められ、広がらない。
子を守るためには最低何を食べているのかを知らなければならない。コメや野菜への農薬は危険だが、桁違いに摂取してしまうのは果樹からの摂取だ。まずは果物だけでも選ぶようにしてはどうだろうか。
一つ気にすれば家庭内の殺虫剤やペットの蚤取り剤、コバエ取りも気にかかっていくだろう。小さなところから始めよう。
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※1 ブログ 雁屋哲の今日もまた より
▼「ネオニコチノイド系の農薬」(2009.11.26)
https://kariyatetsu.com/blog/1177.php
▼「「美味しんぼ」環境問題篇で難渋」(2009.10.27)
https://kariyatetsu.com/blog/1174.php
※2 abt(一般社団法人アクトビヨンドトラスト)
https://www.actbeyondtrust.org/