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2015年12月22日

『 蚊を殺すのにバツーカ砲 』  

田中優が共同代表を務めます非営利の住宅会社「天然住宅」では、 ホームページのリニューアルに伴い、田中優のコラム「住まいと森のコラム」を始めています。 

 「森を守って健康で長持ちする」住宅や森の再生へのヒントなどがたくさん入っています。  
月に3回更新!ぜひチェックしてみ下さい。 


 □◆ 田中 優 より ◇■□■□ 

 天然住宅「住まいと森のコラム」 第4回    



 『 蚊を殺すのにバツーカ砲 』  


■女子林業礼賛

 今年3月、宮城の鳴子温泉で「湯守の森会議」が行われ、そこで「里山循環社会の実現」について真面目な会議が行われた。ぼくもそこの講師として招かれ、可能な限りわくわくできる未来の提案をしてきた。しかしその甲斐なく話題をかっさらってしまったのは「林業女子」の話だった。最近、どの分野でも女子の活躍がめざましい。林業も例外ではなく、しかもその方法が伸びやかで面白いのだ。

 特に面白かったのは青森県で薪ストーブの販売などをしている石村さんだ。石村さんはいう。
「女子だから森林組合にも出入りしやすいし、トラブルにもならない」
「大きな林業には男が向いているけど、内職みたいに小さな林業だって必要でしょう? そこには女子の方が向いている」と。

 彼女はこの冬、販売した薪ストーブに薪を届けるために、トレーラー一台分の雑木を調達して玉切りした。玉切りというのは木を40~50センチに切断することだ。その後に割って薪にする。「切断断面積なら青森県イチ」と自己紹介する石村さんだが、こんなことを始めたのはひょんなことだった。たまたま家を建てようとして出会った工務店が、山に来ることを条件とし、そこでどれほど山の木々がムダにされているのか知らされたのだ。

「どの木を使いたいですか?」

 石村さんは即座に選べなかったが、彼女の娘が一本一本触れて『この木がいい』と決めた。すると「じゃ、切り倒しましょう」という。娘は『かわいそうだからやめて!』とギャン泣きしているにもかかわらず切り倒し、「木を使うのはこういうことなんです」と説明する。しかも切り倒すのに支障になる他の木まで切り倒す。

「この木は何に使われるんですか?」

「その木は使われません。買値がつかないですから捨てられたままです」と。


■人妻林業(ハート)

 『帰り道は森を見るたびに泣けて泣けて』と話す彼女は、若干の心的外傷後ストレス障害(PTSD)になっていたのだと思う。ちょっと意地悪だけど、林業の現実は本当に悲しい状態だ。そして石村さんは、山を活かすことを決意した。普通なら捨てられてしまう広葉樹も、薪だったら活かせる。山の木材を使えばカネになるから捨てられなくなる。小さな内職のような木材利用だって山を活かすことにつながると。

 ここからは彼女持ち前のおふざけと明るさが出てくる。青森の林業女子グループを作ったが、その名も「人妻林業(ハート)」だ。ハートマークが表示できないのが残念だが、オジサンが喜びそうなデザインなのだ。そのマークはチェーンソーなど林業機械メーカー「ハスクバーナ」のマークに似ている。ハスクは四角の中にHと書かれていて、その上側に「学」や「労」のような冠(これは冠ではないそうだが)がついている。人妻林業のマークでは、この「三つの点」が四角の上だけでなく左右にもついている。それがどうにもサザエさんの頭の形に見えるのだ。そして「人妻林業(ハート)」の文字、それで来られたらどんないかついキコリでもへなへなになってしまうだろう。


■新しい小さな林業

 実際、女子林業には大きな可能性がある。これまでの林業は効率と省力化を求めて大規模化し、蚊を殺すのにバツーカ砲を打つような状態になっていた。カネにならない木は邪魔者でしかなく、山はただの工場にされてしまっていた。しかし山を活かすにはきめ細かく小規模化した方がいい。

 林業が儲からないものとされたのは農業と同じ理由だ。農業では農協が中心となって効率重視、大規模化と省力・機械化を進めて高い農機具ばかり買い、その借金と物理的な重さ、化学肥料などのせいで知恵も土も固まってしまった。林業も同様に「効率重視、大規模化と省力・機械化」と進んだ結果、山には高速道路並みに固めた道路がないと機械を運べない状態になった。そして山は道から崩れたのだ。


 しかし女子林業のような小規模型林業が中心になると、力任せのやり方からそれぞれの土地や雨風の状態に合わせたきめ細かな林業になる。小さな機械とムダのない使い方で林業を進めたら、広葉樹も活かせて他の生物たちの領分も侵さず、長期の視点の林業となって山を復活させられるかもしれない。そんな可能性を秘めているのだ。

明るい森

 ☆--★ コラムは第25回まで更新中! (2015.12.22現在) ☆---★   

 田中優の「住まいと森のコラム」    月に3回記事を更新しています!  

 ■目次一覧 http://tennen.org/yu_column  

第1回 住むんだったら健康な家がいい 
第2回 そのどこがエコなの? 
第3回 天然住宅は高い? 
第4回 蚊を殺すのにバツーカ砲 
第5回 いい湯だな、バハン 
第6回 次の世代に引き継げる林業に 
第7回 本物「小林建工」さんとの出会い 
第8回 日本ミツバチ 
第9回 カビを寄せつけない技術
第10回 温泉三昧、雨ときどき間伐 
第11回 小屋礼賛
第12回 皮むき間伐の弱点 
第13回 低周波騒音問題 
第14回 上下階騒音問題 
第15回 住宅リテラシーを 
第16回 湿気で溶けていく家 
第17回 住宅貧乏 
第18回 家を担保にした超・長期ローンを 
第19回 「私、研究所の者です」 
第20回 鉄筋にアースを 
第21回 太陽パネルの電気自給は「冬場」が大事
第22回 男なら天然住宅!
第23回 男なら天然住宅!~男ならスペックにこだわれ~
第24回 男なら天然住宅~男なら「マイホーム主義」~
≪番外編≫寺田本家さんに共感する
第25回 暮らしに家を合わせる