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2011年3月6日

送電線の低周波電磁波は問題ないの?


□◆ 田中 優 より ◇■□■□◆◇◆◇■□■□


「送電線の低周波電磁波は問題ないの?」


オランダの電磁波基準は4ミリガウス以下

 2006年11月7日、読売新聞にこんな記事が載った*。

 『アムステルダムの中心部にあるクレイヌ・レーウス小学校。いつもの下校風景が戻ったのは、半年前のことだ。すべては学校の裏手に住む母親が抱いた、「隣の変電所は安全なのかしら」という疑問に始まった。変電所は、全校児童が毎日通る玄関のすぐ東隣にある。小3の長男と小2の長女を学校に通わせる母親は兄に相談し、電磁波問題に取り組む市民団体のウェブサイトにたどり着いた。スウェーデンのカロリンスカ研究所による1992年の報告を見つけた。「送電線からの電磁波が3ミリガウス以上の場所では小児白血病の発症率が3・8倍に高まる」という。周囲の保護者とともに、昨年9月、学校側に相談。これを受け、校内の電磁波の測定を専門業者に依頼。

 結果は変電所に最も近い2階の教室で4ミリガウス、玄関脇の遊具付近では16ミリガウスが計測された。学校は翌10月、変電所寄りの教室など2部屋を使っていた4年生などの児童を150メートル離れた別棟の校舎に移し、遊具も撤去した。「親の不安を深刻に受け止め、緊急避難的に対処した」と教頭は説明する。4年生の長男を持つ父は「たとえ小さなリスクでも可能な限り避けたい、というのが子を持つ親の率直な願いだ」と話す。

 その後も保護者側は学校や市、電力会社と協議を重ね、施設に遮へい設備を導入することで決着した。工事は今年5月に終了。2階の教室内で2ミリガウスに半減したことを確認し、児童らは7か月ぶりに元の校舎に戻った。約一千万円の工事費は市が負担した。

 オランダ政府は2005年10月、「15歳以下の子どもが長時間過ごす学校や保育園で4ミリガウス以上の電磁波が生じる状況は極力避けるべきだ」と地方自治体や電力会社に勧告した。アムステルダムの小学校は、勧告に基づき自治体が対応した「第一号」となった。』
http://www.yomiuri.co.jp/feature/kankyo/20061218ft01.htm


日本の電磁波基準は2000ミリガウス以下

 一方、2011年3月2日、柏市が各学校の電磁波測定結果を発表した。その結果、豊四季中学校は校庭で、14.8ミリガウス、教室でも7.7ミリガウス、富勢中学校でも教室で5.7ミリガウスだった。オランダでは「児童疎開」しなければならないが、柏市のホームページにはこう書いてあった。

『平成22年7月に、送電線に近接した17箇所の小中学校で電磁波の測定を行いました。測定の結果、いずれの学校においても、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)が制定したガイドラインにおける磁界ばく露制限値(周波数50ヘルツで2000ミリガウス)を下回っていました。現在、日本においては電磁波の規制値は定められていませんが、近日中に経済産業省から2000ミリガウスを基準値とする省令が公布される予定です』と。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/270200/p007386.html

 ぼくは当然そこには「安全ではないから対処します」と書かれているのだろうと思って読んでいた。しかし逆で、「2000ミリガウス以下だから基準を下回る」と書かれ、オランダの4ミリガウスの500倍も甘い基準で判定されていた。しかも「近日中に経済産業省から2000ミリガウスを基準値とする省令が公布される予定」という。経済産業省のホームページには今まさにパブリックコメントが募集されていた(2011/3/16まで)。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620111012


電磁波は安全?危険?

 日本で電磁波を問題だと言えば、「ひどく心配するようなものではない」と言われる。しかし現実に被害者は多発し、電磁波過敏症の患者は増え続けている。しかしそれも「実在するのかしないのかも明らかになっておらず、診断基準もない。電磁過敏症を訴える患者が電磁波の有無を感知できなかったという報告もいくつかあり、仮に電磁波過敏症が実在の病気だとしても、患者の多くはそれとは無関係の『心の病』だ」と言われてしまう。しかし電磁波過敏症の実在を確認したのは、他ならぬ世界保健機関のブルントラント事務局長(前ノルウェー首相)だったのだ。WHOは2007年に以下の発表をした。

 「送電線などから出る電磁波について、世界保健機関(WHO)は18日、新たな環境保健基準を公表した。各国での医学的調査を基に、平均3~4ミリガウス(ガウスは磁界の強さの単位)以上の磁界に日常的にさらされる子どもは、もっと弱い磁界で暮らす子どもに比べ、小児白血病にかかる確率が2倍程度に高まる可能性を認めた。WHOは新基準に基づき、各国に予防策をとるよう勧めた。超低周波に関する医学的調査は各国で実施されており、総合すると、白血病になる率が4ミリガウス以上で約2倍、3ミリガウス以上で1.7倍になると分析されている。WHOは今回、同様の結論に到達。しかし、動物や細胞の実験では発がんが立証されず、電磁波と発がんに因果関係があるとまでは言えないと指摘した。その上で、予防的考え方に基づいて磁界の強さについての安全指針作り、予防のための磁界測定などの対策をとるよう勧告した(毎日新聞 2007年6月19日)。」


電磁波過敏症患者の存在を認めて!

 ぼくがつらく感じるのは、現実に苦しんでいる電磁波過敏症患者の実在を認めない人たちがいることだ。世界初の化学物質過敏症患者のドキュメンタリー「いのちの林檎」に登場する早苗さんは、電磁波過敏症も併発している。そのため町に暮らすこともままならない。しかし多くの人が認めず、医師すら知らないために対応が遅れていく。その結果、深刻な状態に陥るのだ。これらの病気に最も重要なのは、予防策を取ることだというのに。

 その予防策は簡単だ。電力会社が送電線を三つ網にすればいい*。たったそれだけのコストを嫌って今日も新たな患者が生まれる。この日本はどこかおかしくないか。


*現在は「マイクロテスラ」で表示するが、単位をミリガウスに直した。10ミリガウス=1マイクロテスラ。
*詳しくは「告発・電磁波公害」元朝日新聞記者の松本健造著 緑風出版を参照。