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2018年9月18日
『 ダム神話の水害 』
私も岡山県に住んでいるから、倉敷市の水害の折には「田中さんの家は大丈夫でしたか」という連絡が相次いだ。我が家の周囲でも川が増水し、警戒情報も出された。だが避難先に指定されている集落の公民館は我が家より一メートル程度低地にあり、避難するより自宅にいた方が安全なのだ。テレビでは「迷わず避難を」と言われるが、合理的に考えてどうなのだろうと思う。わずか一メートルだが、その広さを考えると、相当の水害でなければ我が家に水が来ることはないのだ。
今回、水害に遭った倉敷市真備町に押し寄せた水は、調べてみると高梁川にあるダムが放流したせいだった。なだらかな地域を流れる小田川と高馬川の水は普段なら高梁川に流れ込んでいく。しかし高梁川の「河本ダム」が放流したため、その流れは高梁川の流れに壁のようにブロックされて、流れていくことができなくなった。そしてどんどん水位が上がり、堤防を決壊して低地の町を飲み込んだのだ。
高馬川周辺で洪水警報が届いたのは深夜の一時半、水が届いたのはそのわずか4分後だった。夜中の深夜一時半に警報で起こされて、着替えて荷物をまとめてと考えたら、間に合うはずがない。そして多くの犠牲者が出た。二回に逃げて助かった人も多いが、もし高齢者世帯だったらそもそも二階建ての住宅を建てただろうか。亡くなった被災者たちには高齢者が多かった。
河本ダムの放流量のグラフを見ると、突然たくさんの水を放流しているのがわかる。ダムには「但し書き規定」があり、流入する雨の量が多すぎるときに、ダムが決壊して被害を最大にしないために流量を限度にして放流することが認められている。大雨だったからダムが決壊しないように但し書き規定通りに放流したという理屈も一応成り立っているように見える。
しかし雨の被害の多い高知県の鏡川では、少しずつ放流していって被害を起こさなかった事例もある。10分おきに、10センチ単位で堰を調整して洪水になるぎりぎり手前の範囲で、ダムをコントロールしていたのだった。それと比べるときめ細かくない対応だった。
しかも河本ダムは、発電用と工業用水用のダムを兼ねた多目的ダムだった。
発電と工業用水から見ると、貯まった水はそのままカネになる。そのことが事前の放流を思いとどまらせたのかもしれない。ダムの放水で事故になるとき、多目的ダムが起こすことが多いのだ。しかも河本ダムはダム自体の堆砂量が多く、水を貯められる容量を圧迫している。そのせいで岡山県営の河本ダムは事態を悪化させたのかもしれないと思う。
さらに放流を通知する相手先に、ずっと下流である倉敷市は入っていなかった。
そして住んでいた人たちに豪雨の雨音で警報すら聞こえず、聞こえていたとしてもわずか数分で水が溢れてくるという事態が襲ったのだ。
大きな技術を使った装置には大きな安心感があるものの、一方で信じられないほど深刻な被害をもたらす。ダムがあるから大丈夫と思っていたら今後の前代未聞の豪雨の時はさらに被害が大きくなる。大きく貯められるダムは、大きく放水することにつながるからだ。
その前にできることもあった。堤防を増強することだ。堤防は一般的にただ土を盛り上げてあるだけの構造だから、一か所が雨の浸透で切れてしまえばどんどんと決壊地点から広がっていく。そうしないために、鋼矢板を堤防に刺しておいただけでも堤防を防げるし、人々が住む側の法面を強化しておくだけでも破堤を防ぐことができる。その技術は半世紀も前にできているのに、堤防の強化がダムの必要性を減じて人々がダムを拒否するようになるからと勧められなくなっていた。
もう一つ、川に貯まった土砂を撤去する「浚渫」をしておけば、それだけ川を流れる流量が多くなって水位を下げることができる。現に京都の桂川では大規模に浚渫が行なわれ、そのおかげで数年前の洪水とはうって変わって、全く氾濫しなかった。こうした従来からある方法はダムを造るよりはるかに安く、はるかに効果が大きい。もし下流に土地があるなら、そこに遊水地を造っておくのがいい。
人々の生命や財産が集中するのは下流域だから、その手前で水を逃がして貯めておいて後で流せば、一時だけの水量の増加なら問題ではなくなるのだ。
水田や農作物に被害が出るとしても損害保険でカバーしておけばいいし、氾濫した水を受けた農地は連作障害が消えることも多い。しかもその方がダムを造るよりも安上がりになることも多いのだ。洪水を敵にしてダムを造るのではなく、味方にして利用することはできないだろうか。
日本には2011年まで「原発神話」があった。安全だし安上がりなんだと。
しかしそれが誤りであったことは2011年の事故で明白になった。「ダム神話」はいつまで続くのだろうか。
おそらく首都圏には、火山灰の大地に作っている最中の「八ッ場ダム」が、貯めた水の浸透によって崩壊するだろう。実際問題は小さな崩壊で済むか、巨大に崩壊して水害を起こすかの違いでしかないだろう。その心配は現にしている。
現地では「観測井戸」を掘ってあって、水位がどこまで来ているか調べているのだ。山は火山灰と粘土の地層によって、ミルフィーユ状態になっている。そこに水が流れれば、水を通さない粘土層の上に水が流れ、地崩れを引き起こすからだ。
しかも自然の状態で川は、活断層の動いた跡に流れることが多い。その活断層の上に水を貯めると、重さのかかった水が浸透して地震を引き起こすことがある。これを「ダム誘発地震」といって、チェルノブイリ原発事故の数秒前にプリピャチ川でも起きている。熊本では地震で崩壊した阿蘇大橋のまさにその場所に、立野ダムを建設しようとしている。
ダムが安全だというのはまさに神話だ。必要のない、あるいはもっと安くて効果のある治水法があるのに、利権のために造られているだけのものだ。水害の被害に目を向けるなら、同時にダム神話にも気づいてほしい。今回の水害にはダムが深く関係しているのだ。
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■図やグラフを用いてよりわかりやすく解説しています↓
2018.7.30発行『大雨被害とダム』(有料・活動支援版メルマガ)
http://tanakayu.blogspot.com/2018/07/blog-post_25.html
■立野ダム今夏にも着工!&「世界の阿蘇に立野ダムはいらない」販売のお知らせ
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■天災より人災に注意せよ ~阿蘇の「流動性地すべり」~
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■「豪雨に負けない森はどこへ…。今国会で成立 「森林経営管理法」 が日本の山と林業を殺す=田中優 」
https://www.mag2.com/p/money/501696
■田中優『ダムはムダ』 書き起こし無料公開中!
http://tanakayu.blogspot.com/2018/08/blog-post.html