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2017年12月25日

『 病気の朝 』

 8月16日、朝早く起きたぼくは、子どもが起きる前に一仕事しようとパソコンに向かった。それまで特に不調だったわけではない。強いて言えば前日、地域で育てた無農薬の小麦を石臼で挽いたうどんを食べたとき、それほど美味しいという感動を受けなかったことぐらいだ。

 パソコンの画面を見ているとき、突然にそれは襲ってきた。滅茶苦茶な眩暈だった。見ているものが突然、左に回転し始めて止まらなくなった。座っていることすらできずにそのまま床に倒れ込んだ。それでも強い回転の渦に呑まれ、すさまじい吐き気に襲われた。


 吐き気はものすごくあるのに、起きたばかりの胃の中には吐き出すものがなかった。吐き気で気持ち悪いのだが、音は聞こえるし力も入る。窓ガラスを体に引き寄せるようにしてガラスの外に顔を出した。咄嗟に吐き出す。酸っぱい臭いがするので昨日食べた胃液の残りだろう。

 しばらくそうしていると、妻が降りて来てくれた。子は降りてきてぼくの姿を見ると、何も言わずにただ大粒の涙を流していた。意識に障害はない。しかし目を開けていられない。ぐるぐる回って吐き気がひどくなるからだ。


 自分で分析してみた。5年前に脳間出血したことがある。そのときと比較しても脳に損傷があるようには思えなかった。音も聞こえるししびれる箇所もない。
 脳の出血ではないと思った。妻が「救急車を呼びましょう」と言ってくれた。
こまま改善を待つのも良いが、前回の出血があるから単なる受診では納得してもらえないだろう。

 いくつか病院名を言ってくれる。「・・脳神経外科病院」、そこでなければ再度受診せざるを得なくなる。そこで「その病院に相談してみてくれ」と答える。受診可能との返事を聞き、「救急車を呼んでくれ」とお願いした。目すら開けられないのだから、それ以外に受診の方法がないからだ。

 そしてこのままストレッチャーに乗せられて運ばれるのだろうからと、吐き続けながらも窓の外にあるウッドデッキの上に横になった。しばらくすると救急車のサイレンが聞こえた。しかし目は開けられないままだ。ストレッチャーに乗せられて空き地に置いた救急車に乗せられた。 

「キュウキュウシャ 写真 フリー」の画像検索結果

(イメージ)


 救急隊員が病院に受け入れを確認した後に発車。救急車の中で検査のたに、日時や生年月日、住所などを聞かれる。すらすらと答えられるのだが、吐き気の症状は変わらない。病院に着いてストレッチャーで揺れながら運ばれる。想定していた通り、CTスキャンやMRI検査が始まる。目の状態を見るために、強制的にランプで目を検査される。それだけのことで吐き気がして少し吐いた。

 検査が終わると予想通り、命に危険のある病気ではないと言われた。そうなると脳本体の問題ではないのだから、三半規管のあたりの問題だろう。若い二人の脳外科医は緊張が解けたように「どうしようか」と言った。

 要は脳出血などではないのだから、緊急の処置が必要ないのだ。しかしぼくの側は相変わらずひどい吐き気で、動くことどころか目を開けることもではない。そして病室に運ばれることになった。

 病室に入ると点滴された。その中には眩暈の防止の薬が入っているそうだ。その日も翌日も何も食べられなかった。吐き気がひどいのに、食べても仕方ない。妻に土曜日から予定していたツアーに出かけられなくなったと友人に連絡してもらうようにお願いした。自分ではスマホの画面すら見られないのだから。

 翌日昼には退院した。ここは脳外科の専門医で、そうした人たちが運び込まれてくる。ぼくのような緊急度のない患者がいても邪魔になるだけだ。それは実際、検査直後から興味を急速に失った脳外科医の姿からも見て取れる。しかし吐き気は続いている。結局、車椅子で車まで運んでもらって妻の運転する車で自宅に帰る。

 病名は「前庭神経炎」だった。原因は未だにはっきりしていない病気で、風邪のウィルスなどが三半規管の「前庭」に入って炎症を起こしているらしい。驚くのはその突発性だ。何の前触れもなく突然に世界が回転しだすのだ。

 病院内よりは自宅の方がずっといい。有害化学物質フリーだから、自宅は吐き気を催させるものがない。しかし鋭敏になっているせいか、子どもの小麦粘土が臭い。ベネッセの「しまじろうの玩具」が臭い。『普通の家だったら吐き気で死ぬな』と思う。

 翌日にはふらつきながらも目が開けられるようになった。立って歩けるようになった。目が開けられるようになると早速スマホで調べてみた。「前庭神経炎」は突然に発症するが予後は良い。一週間程度で眩暈は取れることが多いと書いてある。

 5日ほどして、パソコンも見られるようになった。行くはずだったツアーの沢登りの様子の写真を見る。みんな無事に登ってきたようだ。自分が行けなかったことが悔しい。


 歳をとったせいか、病気が身近なことになってしまった。それでも今まで通り原稿を書き始めた。「あとどれぐらい生きられるのだろうか」という思いが頭を掠める。今進めていることぐらいはきちんと本にしておきたいと思う。もっとぜいたくを言うと山に登りたい、海に泳ぎに行きたい、沢登りにいきたい。それはきっと自分の摂生次第なのだろう。


 もっと生きないといけない。もっと貪欲に実験してみたい。そして地域活性のための新たな方法を考えたので、実現してみたい。経済の回転の仕方が変われば、地域に暮らすことが楽しくできて安心して地域で暮らせるようになる。

 そうすれば、「西暦3000年にはこの国の人口が数千人になって地方は無人の荒野になる」という、馬鹿げた予測も覆せるのだ。このことは発行している有料メルマガの2017.8.30号にも書いた。



 もっとしたいことがある。人生はなんと短いものなのだろうと思う。まだ死ぬ時期がわかったわけではないのだが。


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以上、2017.9発行 
※「未来バンク事業組合ニュースレター No.92/2017年9月」より抜粋

※PDF版はこちら
http://www.geocities.jp/mirai_bank/news_letter/MB_NL_92.pdf



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