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2016年10月29日

『 忍び寄る「戦争経済」の影 』

2014.9 発行 未来バンク事業組合ニュースレター より



『 忍び寄る「戦争経済」の影 』


■暗くじめじめした夏

 今年の夏は雨ばかりだった。行くはずだった沢登りも増水に阻まれ、三日間ロッジに閉じ込められた。叩きつける雨音に雷鳴が轟く。じめじめして素足で歩くフローリングがべたつく。水量の増した川は濁流になり、流れの真ん中にぎざぎざの三角波が立つ。

 インターネットからはパレスチナではイスラエル軍の一方的な虐殺の情報が届き、知っていても何もできない日々が過ぎる。暗く、憂鬱な夏だ。

 「それでも・・・」と、できることを考えようと鈍重な体を起こそうとする。
重い雲が垂れ込めるみたいに億劫になる。テレビが無いおかげであの顔を見なくてすむのがせめてもの救いだが。


■戦争に向かう日本経済

 今年6月戦後初めて日本の防衛企業14社が、フランスで行われた国際兵器見本市「ユーロサトリ」に参加した。そこで武田防衛副大臣が、「持っている軍事力を発揮できる環境を安倍首相が作ったのだから、それを生かして成長していっていただきたい」と述べた。
「兵器見本市」は戦争にしか使えない道具なのに。





 安倍政権は今年3月、アメリカの進めるF-35次世代戦闘機開発に資金を出すことにして、三菱重工の参加を武器輸出三原則の例外として認めた。4月には武器禁輸政策を「防衛装備移転三原則」に変えた。その最初の適用は「PAC2(迎撃ミサイル「パトリオット」)」だった。そのパテントはアメリカにあるため、三原則にある「目的外使用や第三国への再輸出の事前同意」の例外となっている。

 アメリカの判断だけでどこにでも輸出できるのだ。アメリカの最大援助供与国がイスラエルで、その多くが軍事援助だ。日本で製造された武器が世界で人を殺す日は近い。

 そのイスラエルは新たな武器の実験場としてパレスチナを使っている。今回、2000人近い人が殺され、1万人近い人々が負傷させられたが、それでも西欧諸国は押し黙ったままだ。一方のイスラエルでは花火見物のようにして対岸のパレスチナ爆撃を多くの人たち見物していた。


 今回も「DIME弾」という人間を粉々にしてしまう兵器を使い、真夜中の上空を「ドローン」と呼ばれる無人爆撃機が飛び、安寧の深夜を悪夢の恐怖に変えた。
そのイスラエルは今回、新たに動くものすべてを機銃掃射する無人小銃を設置した。自分たちは攻撃される心配のない基地にいて、そこから人を殺す。未来はきっと無人武器があちこちに据えられていて、人間だけはすべて殺される風景になるだろう。

 その精度を高めるのに日本の「通信技術」が使われる。


■戦争待望論

 世界の100大軍需企業の中に日本企業が6社ある。従来の世界100大軍需企業「三菱重工・三菱電機・川崎重工・東芝・IHI・NEC」から東芝がランク外に落ちて、「DSN社」がランクインした。その会社は「スカパーJSAT」「NEC」「NTTコミュニケーションズ」の3社の共同出資会社で、衛星通信を得意とする。

 


それらの軍需企業は、自民党に多額の政治献金をし、見返りのように安倍首相の
外遊に同行して各国と合意を取りつけた。従来の「エンジン、ミサイル、爆撃機、軍艦」のような、「重工」に加えて、DSN社のような「通信・衛星技術」が注目されている。「軍需が民需を促進する」時代が終わり、「民需の応用が軍需に」なりつつある。日本の機械技術の精度の高さが、軍事技術を塗り替えつつある。

 世界の兵器が「Made in JAPAN」になる日も近いだろう。その日本の軍需企業はアメリカが軍事費を削減している背景の中で、ロシア企業に次いで受注額を増額させている。あまりの開発費の高さにアメリカですら持て余している「F-35戦闘機」の開発費用を日本が分担し、三菱重工が共同開発に参加する。F-35戦闘機はすでにイスラエルが購入を予定している。F-35に搭載するミサイルについても、日本企業がイギリスと共同開発を進めている。それがイスラエルに配備される。

 「朝鮮特需」という言葉がある。戦後の復興期、焼け野原となった日本の復興のきっかけになったのが、1950年の朝鮮戦争だった。それによってアメリカ軍が3年間で10億ドル、1955年までの間接特需として36億ドル受注した。当時1ドルは360円で、大卒初任給が8000円だった時代だ。戦後の経済復興は、血塗られた朝鮮半島によって作り出されていた。そして今なお、愚かな経済界、保守系議員からは「戦争待望論」が出される。


■「戦争経済」を回避する

 安倍政権が期待しているのは戦争経済ではないか。「失業が増えるなら戦争で雇用を増やそう」「景気が停滞するなら軍事需要で回復を」と、しようとしているのではないか。

 これまで日本の軍需企業は兵器を生産していても、当該企業の売り上げの10%を超えることはなかった。アメリカの軍需企業では「売り上げの8割」が兵器だ。
アメリカでは平時ですら全被雇用者の5%が軍需産業に雇われていて、戦時ともなれば30%を超す。戦争はアメリカの「公共事業」なのだ。だからアメリカの対外政策には戦争が絶えない。アメリカが関わった国はその後長らく血生臭い国となり、アメリカが広げるつもりでいる「民主主義」ではなく、「不安定な殺し合いと国家崩壊」が広がっているのだ。

 日本の戦前を見てみると、海外への侵略は経済界が必要とする資源獲得のためだった。資源獲得のためだったのが、やがて軍事物資そのものの獲得のためになり、戦争そのものが経済の中心命題になっていく。


 ぼくは、この「戦争経済」になろうとする今を懸念している。やがて大企業の大きな収益源が軍事となり、「戦争なしに経済復興はできない」と言われる時代になるだろう。戦争に反対すれば「今雇用されている人たちをどうするのか、路頭に迷わせるつもりか」と言われ、「冷酷な非国民」とされる日が来るだろう。

 公共事業が戦争になるとき、取り返しのつかない社会になってしまっているだろう。今なら取り返すことができる。自衛隊の活動範囲が「自衛」に限定され、兵器が軍需産業の売上げの10%以下の今なら。


■戦争を支えず、別な未来をつくるための貯蓄を

 イスラエルが今回、停戦を受け容れた背景には人々の不買運動があった。イスラエル企業がパレスチナ入植地で生産している「ソーダ・ストリーム(炭酸水の製造機)」が、渋谷で予定していたショップのオープンを取りやめた。別な情報ではイスラエル企業は3割以上の売り上げ減少に見舞われ、このままでは成り立たないところまで追いつめられたという。


 以前から噂のあった「スターバックス・コーヒー」は、わざわざ「イスラエルを支援したことはない」と公表した。信じられるかどうかはわからないが、戦争支援が事業の大きな支障になる事態になったことだけは事実だ。


 このボイコットを継続しよう。二度とパレスチナへの虐殺ができないように。
そして私たち自身も自国の軍需企業を監視しよう。万が一にも自分の貯蓄が彼らを支えないように気を配ろう。そして何より、地域で自立した経済を作れるようにしよう。技術の進展のおかげで、エネルギーばかりでなく水も車も自給できる時代になった。

 自分たちの貯蓄が人々を殺すために使われるぐらいなら、地域で暮らせるために投資するほうがずっといい。


 そんなことが可能になった時点で、それでも大企業に頼って「戦争経済」を待ちわびるようなぶらさがった存在でいいだろうか。未来バンクは別な未来を作るために新たな方策を模索するだろう。

 私たちの貯蓄は、未来を作ることも台無しにしてしまうこともできるのだ。