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2015年12月26日

『 暗雲たれ込める電力自由化 』

2015.11.19発行田中優無料メルマガより


『 暗雲たれ込める電力自由化 』

■安くなるか電気料金

 いよいよ来年4月からから電力自由化され、海外の例では電気料金が安くなったり自分の好みで選べたりする。しかも携帯電話の機種変更みたいに変更できるのだから、いつかは自然エネルギーだけで安心して暮らせる日を夢を見るかもしれない。ところが実際のデータを見ると、電力自由化の未来も暗澹としてくる。そのどこが問題なのか、今の時点でわかる部分も含めて考えてみたい。

■自由化されない送電線

 電力が届いて来るには「発電」「送電」「配電」の三つが必要だ。この発電部分はこれまで、電力会社と卸電気事業者(「電源開発 (J-POWER)」と「日本原子力発電」)が独占してきた。他にも発電した電気を電力会社に供給する多数の「卸供給事業者」があるが、それもまた電力会社に電気を供給するだけだ。

 つまり「送電」と「配電」部分は電力会社以外の事業者は入れないのだ。

電力自由化以前は、発電事業以外には他の会社が参入することはできなかった。ところがそれが1995年から徐々に自由化され、50kW以上の特別高圧・高圧利用の事業者に対しては「特定規模電気事業者(PPS)」からの電気供給ができるようになった。それが来年からさらに広がり、低圧の電気を利用する家庭や小規模事業者まで広げられて完全自由化する。

 ところが期待されていた「送電線の自由化」だけは2020年まで延ばされてしまった。
したがってどの事業者が電気を供給するとしても、送電線を使わなければならないし、その費用である「託送料金」を払わなければならない。自分で発電することは許される。しかし送電線は電力会社以外に認められないままだから、道路をまたいで使うことすらできない。

 もし電気を誰かに譲りたければ託送料金を払うか、さもなければバッテリーを持ち運ぶしかないのだ。

■送電線利用の「託送料金」の問題

 この託送料金が制度のキモなのだ。ところが電気を1kWh通すだけで、平均9円も電力会社に払わなければならない。これまでの特別高圧のときは2円弱、高圧のときは4円程度であったのに、一気に高くなっている。確かに今の電気は上から下に「上位下達」式になっているから、下に行けばいくほど細々した装置が必要になるのはわかるが、それにしても高い。

 調べてみると、「使用済核燃料再処理費」「電源開発促進税」が含まれている。
「使用済核燃料の再処理費」は、うまくいかなくて何度延期されても解決しない六ヶ所村再処理工場のコストで、たぶん今後も延々と高くなり続ける。わざわざ「既発電分のみ」と断り書きがいれてあるのは、「自由化以前の費用はお前たちが払え」という意味だ。

 そして「電源開発促進税」は原発と揚水発電など、原発を推進するために「札びらで頬を叩く」費用で、どちらも原発推進の費用だ。その両者で16%を占めている。送電線の託送料金という「送電費用」なのに、なぜか原発の「発電費用」が含められている。

 自分で発電しても託送料金を取られ、他の電気を買うにも託送料金を取られる。電気を電力全体のプールから買おうとすると、現在1kWh当たり約11円かかる。それに託送料金9円で合計1kWhあたり20円になる。

 さて皆さんが電力自由化で東京電力をやめて他から買おうと思ったとしても、東京電力よりは安い電気が買いたいだろう。現に官庁や市役所は、電力の購入先を変えることで安くなっているのだから。今の電気の値段を25円とすると、仕入れ値との差額はわずか5円だ。一か月200kWh使っている家庭で1000円しか利益が出ない。その額で事務所を構え、人件費を賄い、配当までできるだろうか。 

■数年でつぶれる小規模な「新電力」?

 そうした小口に電気を売る事業を「新電力」と呼んでいるが、どうやら予想では1000社程度が参入しそうだ。従来からの「エネット」のようなPPSに加え、「ガス会社」や「携帯電話会社」、そしてエコの観点から「生協」などが参加しようとしている。ガスや携帯会社は「抱き合わせ商品」にして、安上がりな仕組みにしようとしているようだ。

 ところが、生協のように環境の観点から自然エネルギーを進めようとするところは苦戦を強いられるだろう。そのわずかな利益で成り立つためには契約数が膨大である必要があるのに、既存客が携帯やガスのように多くはない。しかも抱き合わせにできる商品を持たない。契約数が少なければ、東京電力より安い価格を提示することはできないのだ。

 ドイツで市民が電力会社を設立できたのは、地域の送電線を入札で買い取ることができたおかげだった。ところが送電線の自由化は4年遅らされ、しかも送電線の入札が行われるかどうかも明らかでない。しかも託送料金には「原子力の後始末コスト」すら含めて極めて高く設定されたのだから、送電線自由化まで続けられる体力があるかどうかだ。


■電力のバーチャルとリアル

 以前から述べている通り、自然エネルギーの導入量が増えて原発を超えたといっても設備量の話で発電量ではない。しかもその売電量の話ですら、送電ロスや質が低くて使えない電気があるために実際に使える電気の量ではない。自然エネルギーからの電気の固定買取費用も、電力会社は一銭も負担しないどころか事務費を取り、私たちの電気料金に上乗せされているだけだ。電力会社にとっては「再生可能エネルギー促進賦課金」がどれほど高くなろうが関係ない。だからどれほど増えても気にしない。

 ここにはふたつの数字があるのだ。固定買取されただけのバーチャルな自然エネルギー売電量と、実際に使えるリアルな電気量だ。

 買取された電気が全部使えるわけではないのだから、当然バーチャルな売電量の方が大きく、実際に使えるリアルな電気量の方が少ない。この差の部分は誰が電気を供給するのだろうか。

 ここに電力会社が原発を抱えて入り込む可能性がある。「原発をなくすために」と進めた自然エネルギーが、バーチャルとリアルの量の差のために原発を呼び寄せてしまうかもしれない。年末に最終決定される託送料金には原発の費用が入り込み、バーチャルとリアルの差も原発が埋めるとしたら。

電気をリアルに、オフグリッドして自給する以外にないのかもしれない。




★こちらもご参考ください★

2015.12.15発行田中優有料・活動支援版メルマガ


『やっぱりオフグリッドが解決策か』


(本文より抜粋)
これを電気消費量から見ると、再生可能エネルギーからの電気には売電された時点のバーチャルな電気量に対して、リアルに使える電気量との間に大きなギャップ
がある(図14)。


(図14)



(中略)


 おそらくバーチャルな電気量とリアルの電気量とのギャップは、半分程度あるだろう。そこに「自然エネルギー100%」を求めるのはないものねだりだ。買い取られた電気が全部使えるわけではないのだから、バーチャルな売電量の方が大きく、実際に使えるリアルな電気量の方が少ない。この差の電気は誰が供給するのだろうか。

 ここは電力会社が調整しなければならないのだから、おそらくそこに原子力発電からの電気が入り込むだろう。現に託送料金にすら、原発の費用が入り込んでしまっているのだから。

すると、「原発をなくすために」と進めた自然エネルギーが、バーチャルとリアルの量のギャップのために再び原発を呼び寄せてしまうかもしれない。



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