2015.6.8発行田中優無料メルマガより
未来バンク事業組合理事長
田中優
『市民による市民のための市民金融機関のチカラ
-お金の使い方と、使われ方-』 その2
その1 http://archive.mag2.com/0000251633/20150405093000000.html
からの続き
■問われる預金者のモラル
未来バンクを設立したころ、東京の「安全信用組合」「共和信用組合」の二信組が破産しました。二信組は、事業の六割がゴルフ場などリソート開発で、バブル崩壊とともに経営も崩壊しましたが、二信組の経営を支えていたのは、他金庫他銀行よりも高金利だと群がった預金者でした。
日本の個人貯蓄は一千二百兆円。これを眠らせている金融機関はありません。
預けた金は当然ですが必ず使われています。預けた本人は貯蓄と思っているのでしょうが、実際は金融機関によって投資されている。それが自らの意に沿わないものへの投資である可能性は非常に高い。
もう原発はイヤだと思う人は多いと思いますが、そうした人の預貯金は原発推進企業に白紙委任で投資されていたりする。日本の自然環境をこれ以上壊したくないと強く思っている人の預貯金も、大々的に自然破壊に加担する企業に融資されていたりする。
最悪の事例が戦争でしょう。
太平洋戦争では国家予算以上のお金が戦費に投入されましたが、原資は郵便貯金でした。日本はいま戦争をしていませんが、アメリカの軍事行動を貯金で支えている面かある。
アメリカは財政も貿易も赤字で、赤字額はイラク戦争開戦直前の二〇〇二年末で約三百兆円と天文学的なのに、イラク戦争やアフガニスタン紛争で五十兆円ともいわれる戦費を投入しています。
それを可能にする一つは、日本人の貯金です。僕たちが銀行貯金をすると、銀行はその貯金を日本銀行に預けます。すると日本政府は国債の一部である「政府短期証券」を発行してそのお金を借り、ほぼ全額をドルと両替し、アメリカ国債を購入するのです。
日本はいままで約百兆円のアメリカ国債を購入していますが、借り換えが操り返されるだけで、アメリカからは一円も戻ってきません。いうならば、日本人が汗水たらして稼いだお金は、僕たちの知らぬまに、いちばん望まない戦争に投入されているということになります。
■いいものはないのか?
金融機関は大手であるほど、福祉や環境保護といった事業に融資をしない、これも問題だと思いました。
貯金をなんとかしなければと、僕はグループKIKIの会報に原稿を書いたのが出版社の目に留まって、『どうして郵貯がいけないの』の出版につながりました
(一九九三年)。おそらく財政投融資の問題を初めて世に問うた本だと思います。
そうしたら読者から、「では、どこに貯金をしたらいいのか?」との問い合わせが来た。僕が勧めたのはタンス貯金か労働金庫。労働金庫は大企業には融資をしませんから、悪くはない。そうしたら、「『悪くない』じゃなくて、いいものはないのか?」と質問が来る(笑)。
僕は仲間と考えました。そして「必要なのは、自分たちのお金を自分たちでコントロールする場だ」という意見でまとまったんです。
それが未来バンクにつながった。
未来バンクのパンフレットにはこう書きました。
「出資金は元本を保証するものではありません。リスクを皆で共有するものですから、貸し倒れが発生したときなどには、元本を割り込むこともあり得ます」
配当もなければ、元本そのものも減っていく可能性を強調した。で、NPO業界ではいっせいに白い目で見られた(笑)。
当時、僕は、あるNPOで金融研究部門も立ち上げていたので、そこの事務所の一角を未来バンクに貨してもらえないかと打診したら、「貸金業者に事務所を貸すわけにはいかない」と断られました。金貸し=汚いと思われていたわけです。
「そんなのやっても無理」とか「配当ゼロでいったい誰が金を出してくれるんだ」
といった批判も飛び交いました。
そこで僕を含め四人が百万円ずつを出して、一九九四年四月に未来バンクを立ち上げました。やがて新聞報道や口コミで徐々に組合員が増えて、三カ月後には五十人から計一千二百万円の出資が寄せられた。
融資第一号は、ソーラー発電、風力発電、自然エネルギー商品を扱う事業者の組合「レクスタ」を通じての、三人の市民のソーラーパネル設置でした。レクスタの担当者は、「趣旨です、趣旨!自分たちの頂けたお金を、自分たちで環境事業に融資するという万針は実に明解」といって評価してくれました。嬉しかったですね。
--- その3に続く
▼マガジン 『望星(ぼうせい)2014.10月号』
特集 「みんながトクする投資」 より
http://www.tokaiedu.co.jp/bosei/contents/1410.html
※田中優がインタビューに応えたものを、
発行元の編集者が文章にしたものです。