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2015年6月19日

『放射能の健康被害、何が本当に危険なのか』


以下、約3年前の2012.4.15に発行しました有料メルマガのバックナンバーを、
2015.3.17発行田中優無料メルマガにて「お試し読み」として文章のみ転載しました。




  ◇   ◇   ◇   ◇    ◇   ◇   ◇   ◇  

2012.4.15発行 
田中優有料・活動支援版メルマガ "未来レポート" 第12号より転載

□◆ 田中 優 より ◇■□■□

『 放射能の健康被害、何が本当に危険なのか 』


◆放射能の本当の危険性

 今、ちょうど放射能の危険性のことを本に書いていて、そのためにいろいろ調
べて考えてみたんだ。そしたら従来の考え方では納得できない点がたくさん出て
きた。

 それは、これまでは「〇〇マイクロシーベルト」の吸収線量だから危険だとか
考えてきたんだけど、それよりもっと危険なのが「内部被曝」なんじゃないかっ
てことだった。

 もちろん外に飛んでいる放射線が安全なわけじゃない。「下手な鉄砲、数撃
ちゃ当たる」って言われるとおり、やたら放射線が飛んでいるところにいれば、
遺伝子だって壊されるし。だけどそうだったら、バンダジェフスキーさんが調べ
た「疾病数と体内ベクレル数の比例関係」が説明できない。


 バンダジェフスキーさんってのは、ベラルーシのゴメリ医科大学の学長さん
だったんだけど、政府に不都合な結果を公表したっていうんで、冤罪で逮捕・
監禁されていて、アムネスティーなどの活動によって釈放されたけど国内に戻れ
ず、今なおウクライナで暮らしている医者なんだ。

 この人はチェルノブイリの放射能汚染の7割が落ちたと言われるベラルーシに
いて、患者さんが亡くなると解剖して、どの臓器にどれだけのセシウムが蓄積し
ていたかを実際に調べたんだ。

 これまでの話ってのはどれもこれも、実際のデータに基づいた話じゃなかった
んだ。ヒロシマの原爆被害のデータも、隠されて改ざんされて、散々なものにな
ってしまっているからね。そのことは琉球大学の矢ヶ崎先生が克明に書いている。

 その実際のデータに合致するためには、どう考えたらいいのかずっと悩んでい
たんだ。書き終えてから矢ヶ崎さんの本を読んだら、まさにそこに書いてあるこ
とと同じだったんで、びっくりしたけど。


◆シーベルトは被曝線量

 われわれが聞く数値はだいたい「ベクレル」と「シーベルト」だよね。

  ベクレルはそこから出ている放射線の数。一秒間に一個の放射線が出ていたら
1ベクレルだ。単位は通常、1キログラム当たりだ。

 一方のシーベルトは吸収線量だ。どんだけ当たったかを示す数字。つまりただ
飛んでいるものを数えるのがベクレルで、それをダメージに換算してあるのがシ
ーベルトだ。

 だから放射能測定器で、日本製のものだけが感度が悪かったり、輸入業者がア
メリカ製のまま納品しようとしたら政府に断られたりしたわけだ。簡単に言うと、
ダメージに計算するための「数式」が入ってるから、ごまかすこともできるわけ
だ。

 バンダジェフスキー氏は、「シーベルトで評価するのはダメだ。ベクレルでな
いと」と言う。しかも外の放射線量ではなくて、体内に蓄積しているセシウムの
量を「ホールボディーカウンター」で測れという。

 なぜなら体内の放射性セシウム量と病気の発生数が、完全に比例するからだ。
もちろん外にある放射線だって問題なんだが、それより桁違いに健康に影響する
と言うのだ。


 ぼくは基本的に実際のデータを信頼する。どんな高貴な学説でも、現実に合っ
ていないなら寝言にすぎない。しかしバンダジェフスキー氏の説は、まさに解剖
データに裏打ちされているのだ。

 しかも日本の放射能汚染は、チェルノブイリ事故の汚染にとても近い。
 ということは、チェルノブイリの現実に学ぶのが一番合理的で、そこでの数字
を把握したバンダジェフスキー氏の説を検討するのが、一番合理的だと考えたの
だ。


◆チェルノブイリ事故と人口変化

 そこでちょっとグラフを見てほしい。
 ベラルーシの人口がチェルノブイリ原発事故後にどう変化したかのグラフだ。

(グラフ)

 見てわかるように一段と減っている。それ以前も減っていたが、これは大気圏
核実験のせいだと見られている。それが再び回復しているのが1999年だ。そこに
何があったかと言えば、食品の放射能濃度基準を、思いっきり下げているのだ。

 特に出生率の変化が大きい。次に影響しているのが大人の死亡率だ。
このデータはウクライナでもほぼ同じで、食品の基準が厳しくなることで快方に
向かっている。

(グラフ)

 特にベラルーシとウクライナは隣接した国同士だから、ウクライナの基準厳格
化はベラルーシの人たちにも伝わっていたはずだ。そのせいでベラルーシでは基
準の厳格化の少し前から改善されているのではないかと思う。


 つまりぼくは「食品のセシウム汚染値が、最も人体に影響している」と考える
しかないと思うのだ。バンダジェフスキー氏は、膀胱がんは体内セシウム量が、
わずか5ベクレル/体重kg(以下同じ)から出始め、10ベクレルで正常な心臓の
リズムが3割の人にしか確認できなくなり、20ベクレルではさまざまな病気が発
生し始めるという。

  だから彼は「シーベルトよりも、体内ベクレル数を気にすべきだ」と主張する
のだ。


◆私たちの体内放射線量は?

 そうなるとがぜん、自分たちの体内放射能レベルが気にかかる。まずは福島県
南相馬市内での中学生以下の体内放射能データを見てみよう。

(グラフ)


「これは完全に人体に影響ないレベルだ」と言われているものだが、バンダジェ
フスキー氏の見解から考えるととてもそうは言えなくなる。体内のレベルが5ベ
クレルを超えている子どもが全体の34%、三分の一を占めている。10ベクレルを
超えている子どもも12%も存在する。

 10%を超える数字は、心不全などが7割に起こるという数値だ。これは安全な
のか?

 バンダジェフスキー氏は食べ物は限りなくゼロに近いものだけしか食べてはい
けないと言う。

  大人であっても筋肉に蓄積するセシウムは心臓に溜まり、心筋梗塞などを引き
起こすので良くないと言い、女性の場合には不妊につながりやすいと言う。この
数値には恐怖を感じるほどだが、いったいどういうメカニズムでそうなるのだろ
うか。

◆体内のダメージはα、β線が大きい

 まず測られている放射線の問題がある。

  放射線には主にα(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)線があるが、
測ることができるのは主にγ線だ。γ線は鉛板か分厚い鋼鉄でなければすり抜け
てしまうほど貫通力のある、いわばピストルの弾だ。これはどこにあろうが透過
するから測定できる。だからそれで測られるのだ。

 しかしα線は紙一枚通り抜けられない。肌を抜けられないのだから外からの被
曝は心配ない。でも体内では巨大な爆弾のように周囲を壊すので大きな被害を与
える。β線はその中間だ。

 1メートルほどしか飛ばず、板一枚で止まるので、体内のβ線を外から測定す
るのは困難だ。

 だからγ線の量を測って健康を占っているのだ。これで正しいのだろうか。


 しかし大きな影響を与えているのは体内被曝だ。体内から撃たれる放射線は必
ず周囲の組織に当たる。しかもエネルギー量も大きい。たとえば銃で撃たれた場
合、被害が大きくなるのは弾が体内で止まったときだ。突き抜けた場合はエネル
ギーも抜ける。しかし体内で弾丸が止まると、そこですべてのエネルギーを放出
するから被害が大きくなるのだ。だからγ線のようなピストルの弾ではなく、
α、β線のような「爆弾」だった場合は突き抜けられずにダメージを大きくする。


 ところが測れないからγ線で測っている。しかもセシウムは最初からセシウム
ではなく、しかもγ線を出す放射性物質ではないのだ。放出された時点ではヨウ
素137という気体だ。それがわずか30秒の半減期でβ線を出してキセノン137にな
る。これも半減期3.4分でβ線を出してセシウム137になる。その後半減期30年で
β線を出してバリウム137mになり、最後にγ線を出して安定したバリウムになる。


 「ヨウ素-キセノン-セシウム-不安定バリウム-安定バリウム」と変化し、
その間に出すのはβ線三回にγ線一回だ。このγ線しか測れないのだ。実はγ線
よりβ線の方がダメ―ジが大きく、回数も三倍多いというのに。そしてβ線のダ
メージはほとんど考慮されていない。


◆なぜ内部被曝は甘く見積もられるのか

 放射性物質は最も小さな単位である元素である。福島原発事故が放出した莫大
な放射能も、もしヨウ素の重さで計算したらわずか167gにしかならない。それで
これだけの汚染だ。  重さで考えたら、私たちが怯えているものはいくら大きな
塊でも、数億分の1gの重さにすぎないのだ。

 しかも放射性物質は一個ずつ単独で転がっているものではない。化学反応しな
がら塊になって飛んでくるのだ。その塊が体内に入って、数億分の1gという重さ
の一か所から、周囲の細胞に爆弾のような被害を与える。
 これが本当の放射能の危険性だ。


 ところがこれまでの政府やICRP(国際放射線防護委員会)の計算では、放射
線は別な場所から広い範囲に放射線でダメージを与える計算になっている。広く体
全体に放射線を浴びるなら、免疫力でダメージを回復することもできるかもしれな
い。

  しかしたった一つの臓器の、ある特定の一か所ばかりを連続的に壊されると、そ
の部分機能不全になってしまう。人間は全身がくまなくガンになって死ぬわけでは
ない。たった一つの臓器の、たった一つの機能が不全になるだけで死に至るものな
のだ。

 弱点のアゴばかりを連続してアッパーされるようなものだ。ボディーもどこも
ノーダメージだったとしてもノックアウトされるだろう。しかもβ線は電子で、
元素の外周を回っている電子を蹴飛ばして外してしまう。すると電気的に不安定
になった元素は(マイナス電子がひとつ足りない)、他の元素から電子を奪った
り、無理に共有したりする。

  こうして周囲にさらにダメージを広げていく。このβ線の内部被曝が、ほとん
ど考慮されていないのだ。

 さらに自然界に昔からある「自然放射線量」と比較して、それほどでもないと
言われるのだが、そこに違いがあるのだろうか。昔から地球に存在していた自然放
射能を、生物たちは蓄積しないようにしてきた。だから特定臓器に集中したり、い
つまでも排泄されないということがない。

 量の多い自然放射能であるカリウムなども、毎日摂取している量と排泄する量が
同じになっている。
 
 生き物には蓄積させない仕組みがあるのだ。


◆だから食べ物に配慮を

 セシウムを食べてしまうことはとても危険だ。でも2012年4月から、日本の食品
の放射能基準だって厳しくされたはずだ。

「飲み水10ベクレル/kg(以下同じ)、牛乳50ベクレル、一般食品100ベクレル、
乳幼児食品50ベクレル」と、それまでより数倍厳しいものにしている。
 これでは足りないのだろうか。

 この量で、体内に蓄積するベクレル数を計算してみた。
 実際の食品ごとの摂取グラム数、排泄されるまでの日数、半減期などを入れて。

(表)

(グラフ)

 この新たな基準でも、毎日セシウムを153ベクレル摂取することになる。体内の
セシウム量がゼロから10ベクレル/体重kgに達するのにわずか4日、20ベクレルを
超えるのに9日、2年後に体内のセシウムレベルが323.9ベクレルになるまで平衡し
ない。そこからはずっと323.9ベクレルで安定化するが、もちろん安全なレベルで
はない。平衡するのは摂取量と排泄量が釣り合うからだ。

(グラフ)

 一方、バンダジェフスキー氏は体内レベルを5ベクレル以下にさせたいという。
  では逆に、5ベクレル以下を実現するには、一日の摂取セシウム量をどのぐらい
に下げたらいいだろうか。

  計算してみると、一日に摂取できるセシウムは、わずか2.35ベクレルまでになる。
 
 今の日本の食品基準の65分の1まで下げなければならない。そうするためには、
摂取量の多い野菜、穀類、乳製品、くだもの、魚・肉、イモ類、豆類をすべて1ベ
クレル以下にし、さらに飲料水を0.5ベクレル以下にしなければならない。
 ほとんど絶望的に感じてしまうほどの厳しい基準だ。

 とても不可能だと思うことだろう。しかし可能かもしれない。上に見た南相馬市
の小中学生の調査結果は、平均7ベクレル/体重kgである。また国立医薬品食品衛
生研究所の調査では、
「宮城、福島、東京の3都県の平均的な食事の摂取量は、1日当たり3.39ベクレル」
にとどまっていると言っている。

  その数値で計算してみると、1年2か月後に7.2ベクレル/体重kgで平衡して安定す
る。「平均7ベクレル/体重kg」とも「福島原発事故から1年2か月後」とも一致し
ている。

 つまり現在の食品他の汚染レベルは、1日当たり3.39ベクレル、体内7ベクレル
/体重kgに収まっているのだ。これは救いではないだろうか。

 あと少し頑張れば、バンダジェフスキー氏のいう影響がほとんど出ない範囲に下
げることができる。

 もっと厳しい基準にし、高性能な測定器で食品を測るようにすれば、安全なレベ
ルに暮らすことができるかもしれない。安全な食品を選び、免疫力を強くし、体外
にセシウムを排泄する効果の高いものを食べていればいい。

 具体的には緑黄色野菜や食物繊維(ぬるぬる分が食物繊維)の多い食品、そして
発酵食品を中心に食べれば、体内の汚染を下げて免疫力を高めることができる。


(図)【免疫力を高くする食品(デザイナーフーズ)】


 政府に基準を厳しくしてほしいと思う。そうでないと、この文を読んで理解し
た人たちは防衛できるが、そうでない人たちは体内被曝を避けられなくなって
しまうからだ。

 この汚染された世界に生き抜くためには、新たな知恵が必要になっているのだ。


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原発事故後を生きるための必読書!


<目次>

第1章 放射能汚染の中の暮らし
第2章 外部被曝と原発事故の被害
第3章 内部被曝とダメージ
第4章 チェルノブイリの現実から考える
第5章 私たちは何を食べたらいいのか
第6章 これから日本でどう暮らすか
第7章 原発周辺のミステリー
第8章 がれきをどう処理すべきか