□◆ 田中 優 より ◇■□■□
『自然エネルギーを市民の手に取り戻そう 』
■太陽光発電の買取中断、本当の理由
九州電力が太陽光発電からの固定買取を中断したことを皮切りに、全国半数の電力会社が自然エネルギーからの電気を買取中断した。そのため電力会社への批判が集中した。
その多くは電力会社の買取中断が恣意的なものであり、送電線を増強してでも買取りを広げよというものだった。しかしこれには誤解がある。中断されたのは事業向けの大きなものだけで、小さな家庭向けの太陽光発電ではなかったのだ。
九州電力は中断した理由について、大きなメガワットを50kW未満の小規模事業に分割したものが多く、「公平性が保てない」と話している。しかしそのくせ 50kW未満の太陽光発電の買取りを再開し、今なお買取中断しているのはそれ以上の大きな事業者の設備だけだ。
この50kW未満に分割する大規模な太陽光発電はそもそも理不尽なものだった。
送電ロスが著しく多い低圧送電線に流し、変電設備が不要なために発電した電気は遠くまで届かず、しかも管理する有資格者不要、200万円以上かかる変電施設も不要、グリーン減税の対象として投資家の税負担が軽減されるものとなっていた。
その電気は電圧を整えていても発電量の変動が大きい。しかしそのまま家庭系の低圧送電線に流し込むので、家庭などの電化製品の寿命を縮める可能性がある。
少なくとも事業者が用いる高圧の電気では使えないレベルの電気だ。
一方、一般家庭が売電したとしても屋根の広さから10kW未満しか乗せられず、買取期間は事業系の20年に対して10年、得られる利益は事業者と比べて半分しかない。買取りの費用は電力会社の事務経費を含めて、すべて家庭などから徴収しているのだから、電力会社にしてみれば経費負担の問題はない。
今回、買取中断されたのは、家庭系ではなく中規模より大きな事業系の太陽光発電だった。これに市民が憤るのはお門違いだ。 本当の問題はどこにあるのか。
それを知るべきだ。
今回の買取中断は、送電線の容量の問題だった。高圧送電線は太陽光発電の買取問題以前から、原子力の再稼働と石炭火力発電の増設ですでに一杯だった。
その「容量」には二つの意味がある。入れられる電流量と、高圧線を不安定にする電圧の変動範囲だ。今回買取中断に至ったのは、入れられる発電量以上に「変動範囲の容量」の問題が大きかった。
太陽光の場合、日が陰ると発電量が 10分の1に下がり、±5%の範囲しかない電圧変動に悪影響を及ぼしかねない。 これが最大の問題だったのだ。
■新たなエネルギーを古いシステムで語るな
それに対して市民側は情報の公開とともに、高圧線の増強や揚水発電の活用などを主張した。私はこれは間違いだと思う。本来の自然エネルギーのメリットは地域分散型の電気にできることだ。
ところが買取量を増やすために高圧線の増強や揚水発電利用を拡大したのでは、本末転倒ではないか。従来型の電力供給側の論理を進めなければ自然エネルギーが伸ばせないとしたら、未来はさらに電力会社に支配されることになる。
電気需要を見直し、必要な量を近隣で発電し、小さなコミュニティーごとの電気システムを構築して使う。スマートグリッド(送電線網)のような電気供給システムに向いているのが太陽光発電なのだ。
もともと電気の消費は、三分の二までが大きな企業の消費、家庭の消費は全体の五分の一しかない。その小さな電気消費のために、巨大な設備を構築するのは合理的でない。
自然エネルギーを伸ばすには、それに見合ったシステムが必要だ。揚水発電も超伝導のスーパーグリッド構想も、どちらも蓄電を含んでいる。しかし蓄電には供給側の電力会社に巨大なものを設置させるよりも、自然エネルギーに蓄電設備をつけるか、消費する側に小さな蓄電設備を設置した方が経済的だ。
美味しい水を得るに は蛇口の先に浄水器を設置すればよく、水道局の浄水場に活性炭装置をつける必要はない。費用がかかる上にトイレを流す水まで美味しい水になる。
必要な場所に小さく装置を入れる方が合理的だ。
電気の大部分は大企業が使っているが、その価格は家庭の電気の三分の一程度となっている。しかも自然エネルギー買取の費用のほとんどは家庭が負担させられ、 出力が不安定な電気もまた押しつけられている。
電気は企業の使う「大きな電気」と、家庭の使う「小さな電気」を分けて考えるのがいい。家庭などの「小さな電気」に、大きな発電をする風車や水力などは使えない。それらは発電量が多すぎ、しかも電気消費が足りないと空回りして壊 れる装置だからだ。無理にそうしようとするから巨大な送電線や揚水発電が必要になるのだ。
「小さな電気」には太陽光発電を充て、大きな電気に他の自然エネルギーと蓄電装置を用いればいい。
■エネルギーを自給する気概を
2016年からは家庭の電気も自由化される。他国で見るそれは、携帯電話の乗り換えに似たものだ。しかしそのときにもまだ電気が上意下達の仕組みで、すべての市民は電気を与えられるだけの存在だとしたら、電気の民主化は実現しない。
そのときにはメニューを選ぶお客様ではなく、自分たちで電力会社を設立する存在でなければいけない。それには自分たちで電気を自給していく気概が必要だ。
その電気自給のオフグリッドすら、すでに高価でもない仕組みができているのに自給しようとする人は少ないままだ。この程度の気概では、電力会社の意のままに従わさせられてしまうだろう。
巨大増強グリッドに最大でも10%も使えず3割の電気をムダにする揚水発電にしたならば、電気料金は限りなく高くなり、原発や従来型の発電方法に適した仕組みになり、独裁・強権・管理国家に進んでしまうだろう。
必要なのは「エネルギーデモクラシー」ではなかったのか。
市民の手にエネル ギーを戻していこう。
「自給エネルギーチーム(自エネ組)」が導入しているバッテリーの再生技術により、電気を自給するのは難しいことではなくなった。
あとは私たちがどれだけ気概を持つかだけの話なのだ。
( 川崎市職員労働組合様へ寄稿したものを、好意を得て転載しています。)
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■『使えない電気を、投資家利益のために増強する愚(上)
~せっかくの自然エネルギーを中央集権にしてはいけない~』 (2014.10.30発行 第76号)
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~自然エネルギーを旧態依然の器に盛るな!~ 』 (2014.11.15発行 第77号)
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