田中優無料メルマガ(2013.7.24発行)より
http://archive.mag2.com/0000251633/20130724164802000.html
『 「地域通貨」が役立つ時代 』 ■ アベノミクス アベノミクスが瓦解しつつある。期待感で上がった株価は停滞し、安倍首相 が今後の施策を発表中に下がっていった。投資家は売り抜ける時期を考えてい る。強引に作った円安は徐々に戻り、「作為的な市場介入はルール違反だ」と 海外から抗議されている。旧態依然の公共事業は財政破綻を招いている。アベ ノミクスの期待は早晩、落胆に変わるだろう。 しかし評価できる点があるとしたら、財政均衡主義ばかり言って15年以上も 日本をデフレに陥れた財務官僚に抵抗した点だ。 ■ インフレとデフレ デフレとインフレは、「モノとカネ」の価値バランスの話だ。デフレならモノ の価値が下がり、カネの価値が上がる。インフレはその逆で、物価が上がってカ ネの価値が下がることだ。 日本では長らくデフレが続いてきた。モノの値段が下がってカネを持っていた 方が得になる時代だった。だから「今日パソコンを買うよりも明日の方が値下が りする、とにかく待とう」と考え、「それより貯金していた方がいいから買わな いでいよう」と判断してきたのだ。 これが15年以上続いた。おかげで企業がいくら良い製品を開発しても売れず、 国内の生産者はすっかり干上がってしまった。なんとか活路を見い出そうと輸出 してきたが、おかげですっかり円高になって売れなくなってしまった。 インフレを極端に嫌い、単年度の財政均衡しか考えない財務官僚たちのおかげ で、日本は貧しくなった。インフレもデフレもない状態ならよかったが、日本は デフレが続いた上に緊縮財政を続けたために実質所得が減り、貧富の格差が広が り、経済成長率も唯一下がる国になってしまった。 人々も財政破綻に脅されて公共事業費を下げることに賛成し、経済が停滞して 逆に財政が悪化してしまった。公共事業が悪ではない。公共事業として選ばれる 事業が悪いのだ。 たとえば将来に渡って長く使い続けられるインフラや、今後を考えた地域コ ミュニティーごとの送電線網と自然エネルギーの充実、農薬に頼らない農法や 自立した林業など、将来戦略に基づいた公共事業であればやった方がいいのだ。 ところが実行されたのはダムや原発、道路といった旧態依然の公共事業ばか りだった。この愚かしい政策の結果として、インフレになることは避けられな いだろう。おそらくはインフレであるというのに経済が活性化しない、「スタ グフレーション」になるだろう。インフレは財政的に作れるが、インフレに なったから経済活性するわけではないからだ。 しかし手をこまねいて、貧しくなるのを座して待つわけにはいかない。この 状況を何とか活かして、次の時代を作らなければならない。 ■ 貯金が目減りする時代 インフレになるのは久しいので、人々はすっかり忘れてしまっている。インフ レの時代はモノの値段が上がってカネの価値が落ちる時代だ。つまり物価が上が るのに貯金してもちっとも儲からなくなるのだ。 そのときどうすればいいか。モノにして持つのがいい。といっても資産につな がるモノで、負債になっては意味がない。資産とは収益が得られるものを指し、 負債は支出が増えるものをいう。だからヨットや車、別荘などを持っても、支出 が増えるだけだから負債にしかならない。 支出を避けられるモノに使うといい。それは生産だ。発電でも作物の収穫でも いいし、もっと簡単に省エネや太陽温水器を買うのもいい。導入することで支出 が減るもの、それもまた資産だからだ。 貯金していても無意味になる。しかもスタグフレーションとなれば、地域内で の資金自体が激減してしまう。そのときいったい何ができるだろうか。私はそん な時代こそ、「地域通貨」を生かすのがいいと思っている。 もともと地域通貨はモノの価値と一緒に動くので、モノの価値が下がるデフレ の時代にはうまくいかないものなのだ。しかしインフレの時代には役立つ。大根 一本券はいつでも大根一本と交換できるから、モノの価値と一緒に動いてインフ レの影響を受けずにすむ。 日本でNHKドキュメンタリー「エンデの遺言」をきっかけとして地域通貨 ブームが起こったが、当時はデフレの時代だった。これが不幸だった。使えない 時期に使える道具が流行ってしまったのだ。 しかしインフレとなれば状況が変わる。国家通貨を持つより、地域通貨の方が 価値が減らないことになるのだ。 ■ 地域通貨を応用する これまで地域通貨を広げようと腐心してきた人々が、一番困ったのが使っても らえないことだった。特に利用させてくれる店がなかった。人々が地域通貨を 持っても、使える場がなければ持ち腐れになるのだ。 しかしここにも解決策がある。税の支払いに使える地域通貨とすればいいの だ。もちろん自治体だって地域通貨で職員の給与を払えない限り、地域通貨ばか り受け取るわけにはいかない。だから最初に現金と地域通貨を交換して、その現 金を事務局にプールしておくのだ。そして税の支払い時期には、地域通貨と納付 書を事務局に持ってきてもらって、プールしていた現金で納付すればいい。 何が有益かといえば、飲み代の一万円と税負担の一万円では、負担感が数倍違 うことを利用できる点だ。おそらく納税に困っている事業者は、それに使えると なれば喜んで受けるだろう。そうすればどこでも使える地域通貨にすることがで きる。 地域通貨で農薬を使っていない農産物のパックを販売するのもいい。農家の弱 さは最終消費財を販売できない点にある。原材料の扱いではなく、最終商品の パックにできれば収益は数倍上がる。しかも人々は金額以上に安全・健康を気に している。それを地域通貨で販売することで、地域内に経済循環を作り出すこと ができる。人々は農家の手伝いをして地域通貨を得、それで食材を確保すればい い。 地域に国家通貨が届かなくなっても、地域通貨で経済循環を生み出すことがで きるのだ。現にドイツで、地域通貨の広がりが勢いを増している。 要は知恵の勝負だ。知恵と地域通貨は使いようなのだ。