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2009年6月1日

企業の惑星(ほし)のモモは誰?



□◆ 田中 優 より ◇■□■□◆◇◆◇■□■□


企業の惑星(ほし)のモモは誰?


 2009年5月21日の毎日新聞は、「政府が意見募集した温室効果
ガス削減案について、意見を述べた人の3分の2が『90年比
4%増』を支持した」と報じた。日本政府が提示している温暖化
防止案の中で、一番甘いものだ。しかし考えてみてほしい。今す
でに国際的に約束しているのが6%削減なのだから、これは「地
球温暖化促進案」ではないか。
 この結果について産経新聞は、「事実上、産業界と環境NGO
の戦いの構図となっている」と報じている。つまり簡単に言うと、
産業界の意見が三分の二、NGOの意見が三分の一という比率に
なっているということだ。NGOは自分たちの懐から葉書代を出
し、仕事を休んで意見交換会に行くのだが、産業界はそのどちら
も会社持ちだ。なんとステキな待遇だろうか。

 この意見交換会に参加したNGOメンバーはこう報告している
。「東京での意見交換会の応募者が多く抽選にな」り、「会場の
ほとんどが産業界に埋め尽くされそうになっている」と。しかも
「匿名の発言者は、意見を述べるのではなくただ4%増加案を支
持するのみ。恥ずかしくないのか」という状況。明らかに産業側
の動員によって参加した社員が、言われたとおりに子どもの遣い
のようにただ支持するのみだ。このどこが「意見」交換会なのだ
ろう? 意見なんか何一つ交換してないじゃないか。

 この会社員の人たちは、地球温暖化について、何も分かってい
ないからできるのだろう。それが怖い。日本が戦争に巻き込まれ
ていったときだって、何も分かっていない人たちが影で社会を動
かす企業利益に従って役割を果たした。それだけだ。それと同じ
ことが今また起きている。
 一方で、一部の反原発原理主義の人たちは、「温暖化問題は原
発推進の人たちが作り上げたウソだ」と言う。いや、背広で意見
交換会に参加している人たちは、明らかに推進側の人たちなのに、
削減案に反対してるんですけど。

 狭間に入り込んで温暖化防止がなされないのだとしたら、あち
こちでまずは生物たちが死に始める。すでにアザラシが流氷がな
くなって生きられない状態になっている。キリマンジャロの雪解
け水がなくなって、動物たちは間もなく乾季を越えられなくなる。
それは温暖化のせいではないのだろうか。そもそも環境問題にと
って最も重要な原則、「予防原則」はどうなってしまったのか。
 地球温暖化問題は、もしその通りの事態になれば人類は滅亡す
る。だから可能性のある物質の排出は、予防的に禁止されるのだ。
今だって企業は、「有機水銀」が水俣病の原因物質であると認め
ていない。確定するまで対策しないのであれば、今頃熊本県は地
獄のような場所になっていたことだろう。「疑わしきものは出さ
せない」が予防原則だ。地球温暖化がウソかホントか、二酸化炭
素のせいかどうかなんて論議しているときではない。
 「絶対に温暖化は起こっていない」という証拠や、「絶対に二
酸化炭素は地球温暖化を進めない」という証拠が出るまでは、二
酸化炭素の排出は削減されるべきなのだ。

 ミヒャエル・エンデの「モモ」という作品に、「時間泥棒」と
いう灰色のスーツの男たちが登場するが、なんだか会社員たちは
それにそっくりではないか。彼らは会社の言いなりに動き、私た
ちの「未来の時間」を奪っていく。抽象的な時間ではない。具体
的な「生存可能な時間」を奪うのだ。残念ながらこの現実世界に
「モモ」はいない。
 さて、私たちがモモの役割を果たさなかったとしたら、灰色の
男たちは私たちの社会をどんなものにしてしまうだろうか。



田中優のメルマガ第51号より~
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