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2018年7月31日

『 なぜ甲状腺がんが「原発事故の影響だ」と言えないか 』

 原発事故があって、「甲状腺がん」を引き起こすとされる放射性ヨウ素が放出された。しかしその調査委員会では「事故の影響だと認められない」としたままだ。世界的に「放射性ヨウ素と甲状腺がん」との因果関係は認められているのに、なぜ認められないのか。

 この曖昧な判断は、政府に忖度した結果ではないかと疑問を持つ人も多い。
なにより確率論で言えば、通常の小児甲状腺がんが「100万人当たり一人か二人」なのに、福島の一巡目の集団検診調査で、38万人の中で116人の子どもに「甲状腺がん・またはその疑い」が発見されたのだから。しかしそこには別な事情があった。

 1986年のチェルノブイリ原発事故の頃には、今ほど精度の高いエコー検査装置はなく、もともと小児甲状腺がんは発生確率が低すぎて、症例を診たことのある医師もほとんどいなかった。しかし福島までの間に症例も積み重なり、エコー装置自体の精度も向上した。そのことによって事態は解明されるどころか、逆に判定困難になってしまったのだ。


 中でも重要な事実は、
「潜在がん」の存在だ。患者にエコーを当てて調べると、実に約30人に1人の確率で「潜在甲状腺がん」が見つかる。「一万人に一人か二人」ではなく、「30人に1人」だ。ところがこの「潜在甲状腺がん」は不思議なことに、そのまま悪化も重篤な症状も招かず、遺体解剖した際に見つかるだけのものだ。
その「潜在甲状腺がん」を集団検診で発見してしまった可能性があるのだ。


 誤診ではなく確かに「甲状腺がん」なのだ。ところががん細胞として増大せず、他へ転移することもない。こんな「潜在甲状腺がん」を含めてカウントしてしまった可能性があって、第一回の集団検診で38万人の中に110人も見つけてしまったのだ。専門医も少なく、検診に駆り出されていたのは非専門医であり、エコー検査が急激に進化し、それ以前と比べて鮮明に映し出したことも災いしたのかもしれない。


 もう一つ異なる点は、チェルノブイリの場合と比べて発症が早すぎる点だ。
少なくとも事故後4年程度経過してから発症するはずなのだ。

 チェルノブイリではそうだったし、福島の場合はさらにヨウ素の被ばく線量が低い。チェルノブイリは内陸地でヨウ素摂取量の不足する地域であったが、海藻などの海産物の多い福島ではヨウ素が不足する状況ではない。それなのに福島の発病の方が多いというのも合点できない。

 さらに遺伝子情報まで検査した結果では、チェルノブイリの場合が「レットPTC」という部分に遺伝子異常が見つかるのに対して、福島では「BRAE(ブラフ)」という部分に出ている。遺伝子が壊された部位が異なっているということは、原因が異なる可能性がある。

 要は「世界的に初めての優れた検査装置での集団検診」がなされ、その結果、その子ども達の中に、「潜在がん」をたくさん見つけてしまったのではないかということだ。危険性のない「潜在がん」と違って、チェルノブイリ型のがんは増殖が早く、他の器官にも転移しやすい。だからチェルノブイリ型なら早期の対策が必要となるのだ。そして切除手術をした子も多い。自分ががんである可能性を抱えて生きることは、想像しがたいほどの不安と苦痛をもたらす。予後に問題がないとはいえ「潜在がん」もまたがんなのだし。


 そして「切除手術」を受けた場合はその後も大変だ。甲状腺は成長ホルモンの分泌を司っているので、一生甲状腺ホルモンを摂取しなければならない。切除後に「だるい、疲れやすい」などの症状も出る。こうした中で第二巡目の集団検診が行われた。事故から4年後、時期的にはチェルノブイリ型ならがんが急増し始める時期だ。受信者は27万人、この時期にも71人ががん・がん疑いとされ、そのうちの65人は一回目の検診では「問題なし」とされた子たちだった。


 医師たちはこうした現実のはざまで、判断できない状況に置かれた。もちろん現実に福島原発からのヨウ素は浴びたし、その影響を否定してはいない。しかし断定できる状況にないのだ。この中から「潜在甲状腺がん」だけを外すことも困難だ。外したとすると将来にがん化したときに取り返しがつかないのだから、カウントせざるを得ないだろう。

 新たに増加すると見込まれるのは、福島原発事故から放出された自然界に存在しなかった人間が作り出した「人工放射性核種」の「放射性ヨウ素」によるものだが目印はない。


 さて、「どう考えたらいいのか」に悩んでいるのが現時点だ。そんな中、福島県の小児科医のグループが、不安を助長するとして「集団検診の中止」を訴えた。しかし中止されると自分がどちらの甲状腺がんかわからないまま、定期検診が受けられなくなる。
 こうした中、間もなく三巡目の集団検診の結果が出る。


 こうした「潜在がん」は、前立腺にも多い。しかも一般的に、体内には毎日5000個ものがん細胞が生まれてくる。それらは体内の免疫細胞によって退治される。特に「ナチュラルキラー(NK)細胞」によって破壊される。ところがこの免疫細胞の管理・調整は「腸内微生物」が指揮を執っていて、人の意思に基づくものではないのだ。

 免疫コントロールに特に重要なのが酪酸菌が食物繊維から作り出す「Tレグ」という化学物質で、免疫が過剰な攻撃をしないようにコントロールしている。


 その元になるのが水溶性の食物繊維(コンニャクや豆に多い)で、もう一つのがんを抑制する機能があるのが植物の持つ「フィトケミカル(植物の化学物質)」だ。潜在がんならこれで対処できる。


 ところが二つが混在しているのだ。しかもチェルノブイリ型甲状腺がんだったらすぐに対処しないと危険だ。これが甲状腺がんを原発のせいと判断できない理由なのだ。


 対策として効果があるのは、「食物繊維とフィトケミカル」だ。

西洋医学の父とされるヒポクラテスは、意味深い言葉を残している。
「食べ物で治せない病気は、医者でも治せない」と。


 しかし当時は原発などなかったのだ。人間の作り出した「人工放射能」が新たな甲状腺がんを作り出し、その現実の前に医師たちは立ち尽くすばかりなのだ。