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2018年7月11日

田中優より「2018年7月の大雨」

このたびの西日本豪雨の被害に遭われたみなさまに心よりお見舞い申し上げます。
一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。

岡山ということで、全国のたくさんの方から安否確認のご連絡を頂きました。
この場を借りて感謝申し上げます。

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『 2018年7月の大雨 』

 倉敷を始め、岡山県なども洪水によって甚大な被害を受けた。同じ岡山県内に住んでいることもあって、ぼくのところにも有難いことにたくさんの人から安否を尋ねられた。はい、全く無事です。しかし実際に我が家も洪水警報やら、土砂災害警戒情報などが出されていて、寝ていてもケータイはひっきりなしに騒いでいた。でも我が家が避難する場所は地域の公民館で、我が家から下に1メートル以上降りて行った場所にある。すなわち洪水になったら自宅の方が安心なのだ。ほんの数メートルだけ高いので、我が家が水に漬かるときは、地域中がみんな浸水した時になる。



   水色が田中優宅。右下が吉井川の支流金剛川。

 そして裏山はそのまま「和気アルプス」と呼ばれている連山につながっていて、土砂災害はちょっと怖い。でも我が家の辺りはなだらかな傾斜で、しかも築百年以上の古民家を解体して建てたから、少なくとも百年は土砂災害に遭っていない場所だ。そんなこんなで我が家にいた方が安全だと判断した。それでも夜は耳をそばだてて寝ていた。地崩れの前の地鳴りがしないかどうか気にかけていたからだ。


 地鳴りもなく、洪水が届くこともなく大雨は過ぎていった。しかし7月6日に開催予定だった岡山市内での講演会は中止に。そして翌日の天然住宅の見学会でのお話会のため東京に行こうとしたら、列車のダイヤが大幅に乱れていて、岡山まではなんとか行ったものの、新幹線が広島側から来なかった。止まってしまったのだ。駅員に聞くと、「東京に行けるかどうかは保証できないですよ」と言われてやむなく断念した。


 翌日7月7日、ローカル線が全滅、運休。7月8日、新幹線はほぼダイヤ通り走っていると聞いていたので東京に行くことにした。ところがこの日もローカル線は点検のために運休。確かにかなり増水した吉井川の脇を走るのだから、難しいかなと思う。仕方なく車で岡山駅まで行って新幹線に乗った。岡山駅までの道のりが長い。みな車で動くしかないせいで、道路が渋滞しているのだ。それでも何とか乗ると、3分遅れで走ってきた新幹線は、東京までに遅れを取り戻して走ってくれた。まぁ、実質的な被害は交通の乱れぐらいだった。


 岡山は天災がほとんどないせいか、全く慣れていない。ぼくの周辺では友人たちがボランティア隊を組織して、町内や近隣の町、倉敷などの地域へ手伝いに出掛けて行った。和気町内では25棟が床上浸水した。

 悪天候が続いたので、オフグリッドをしている我が家では途中で電気がなくなりかけた。今夜は無理だなと判断して子どもに言うと、子どもはさっそく近くの温泉ホテルに出掛けるのを楽しみにしている。泊まろうかとも考えたが、満室だったので日帰り入浴と食事だけにする。


 翌日も発電しないので、朝から発電機をかけた。こんな時のために発電機を持っているのだ、音がうるさくて気になったりするのだが、雨音の方が大きくて心配する必要もなかった、そして日曜日には雨が上がり、久しぶり日が差した。通りすがりの人が「久しぶりの太陽だね」と言った。もっとも夏至に近いこの時期は太陽高度が高く、曇りでも発電してくれる。おかげで翌日には電気の危機も去った。



緑の棒グラフが当日。朝25%を下回っていた電気の充電率も75%まで回復!



 その後は天気も良くなってよく発電する。我が家ではありがたいことに電気が余るほどになった。余った電気でエアコンを効かせながら、この原稿を書いている。


 なんとも危機感のない話だが、今回の大雨、幸いなことに我が家はそうして過ぎていった。大雨のせいで、地域の水路が溢れて道路に水びたしになった。子どもは大喜びで、バケツを持って外に出て、大規模な水遊びをする。山から流れ出てきた水にバケツを当てて、その水をあちこちに撒いている。ずぶぬれになったが、それもまた楽しいらしい。


 我が家の井戸はますます健在、電気もほんの少し不足しただけで健在、通信もインターネットも健在のままだった。やっぱりオフグリッドして自給していた方が、安心なのかもしれないと思う。同じ集落から見ると、我が家はほんの一メートルほど高い。この一メートルが大きいのだ。広さに一メートルの高さを掛けると、よっぽどの大水にならなければ水が届いてこないことがわかる。そう、家を建てる場所を考えるときに、高さを気にした方がいいのかもしれない(我が家は偶然だが)。





 今回悲惨だったうちの1つに愛媛県の肘川の氾濫がある。ダムが造られているのに氾濫した。ダムには貯水量がある。それを越える雨が降ったので、ダムの「但し書き操作」がされたのだ。雨が大量で、そのままではダムが破損する可能性があるときには、ゲートを開けて放水することができる。ただし放水するのは今降っている雨の量までと制限されているのだが、その量が文字通り致命的だった。ゲートを開ける前に三回もアナウスしたのだそうだが、その放流によって家は押し流され、五人の人命が失われてしまった。



                肘川ダムの放水


 「何のためのダムか」と言いたくなるが、もともとダムは完璧な解決策ではない。想定内の雨が、想定内の範囲で降った場合にだけしか有効ではないのだ。それを政治家と土建業者が利益のために「大丈夫になる、安全だ」などと言うから、こうした事態を招く。もともとダムは無限に水を貯められるものではないのだ。


 ちょうど長崎県の「石木ダム」についての訴訟の判決が出たところだ。住民側の敗訴。県の勧めるダム建設は違法ではないと。水も足りていて利水の必要はなく、洪水などの治水にもほとんど役立たないダムを大枚かけて建設するのが違法ではないそうだ。ばかげている。もっと税金を使うなら人々のためになることに支出してほしいと思う。

 それでもこの石木ダムの建設は、いずれ止まるだろうと思う。あまりにも根拠が薄弱だからだ。裁判所すら合理的な判断ができず、政治家に至っては目も当てられない状態だ。それでも私たちはその中を生きていかなければならない。



 私の消息を心配してくださったみなさん、本当にありがとうございます。私は大丈夫なので、その分だけ今回被災された方や支援活動をされている方、そして石木ダム予定地域で頑張っている皆さんに注意を向けてほしい。

 ダムはもともと万能ではなくて、しかも必要性の乏しい理由で人々の住まいを水底に沈めようとしている。美しい場所なのだ。ダム計画があったために開発されなかった。そのことが美しい場所を奇蹟的に残せたのだ。夏は水遊びに出掛けることもできる。こんな美しい場所すら私たちは子どもたちに残せないのか。










 私は子どもたちのために、こうした場所を残すために活動したい。自分のできる範囲のことでいいから、関心を持ってほしいと思う。



 最後に、今回の大雨の状態を、近所の見える範囲だけ写真に撮ってみたのでご覧ください。


 1の写真は同じ場所で、水位の低いグラウンドに看板が立っている。その看板が水没してしまっている。



 2は集落を流れる水路の写真。溢れた水が道路を冠水させている。






 3の写真も同じ水路。1メートルぐらい下を流れるが、そこから溢れて農地に逆流している。こういうところを間違えて踏み込むと水難被害に遭うのだと思う。「近くの水路を見に行く」と言って消息不明になる人は、こういうところに落ちるのではないか。


その他、周辺の写真